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非モテをこじらせた男たちとは、いったいどのような人たちなのか?問題


 

インセルに関する調査が2つ出ていたので、内容をチェックしておきましょう(R,R)。どちらもテキサス大学オースティン校の先生による調査で、うち1つには「女と男のだましあい」などで有名なデヴィッド・M. バス 先生が関わっております。

 

インセルは直訳すると「非自発的な独身者」って感じでして、日本ではイマイチピッタリくる訳語がないんですけど、

 

  • 俺がモテないのは女性のせいだ!と思って、鬱屈を募らせている男性

 

ぐらいの意味になります。日本で言うと「非モテ」「弱者男性」などに重なる言葉で、ここに女性蔑視の側面がプラスされたイメージですかね。

 

海外だと「インセルは女性差別で過激な思想にのめり込み、暴力的な行動に出るやつらだ!」みたいに報道されることが多いんですが、実際のところ、実証研究が進んでるわけじゃないので、インセルが本当はどういう人たちなのかはよく分かってないんですよ。このブログだと、2023年1月にチラッと取り上げたぐらいですね。

 

ってことで、テキサス大学の先生は、まず過去に行われたインセル研究のレビューを行った上で、「インセルは本当に暴力的なのか?」ってところを調べてくれてます。世間じゃインセルは「非モテをこじらせてすぐに暴発するやつら」みたいに言われるけど、本当のところはどうなのかをチェックしてくれたわけですね。

 

で、その結論を端的にまとめると、

 

  • インセルが起こす暴力事件は非常に少ない!
  • どちらかと言えば、インセルの暴力は、他人よりも自分に向かいやすい!
  • インセルの大部分は、性的暴力を含む暴力を否定している。
  • インセルの思想と、その過激化のあいだには弱い相関しかなく、たいていのインセルは過激化を拒絶している。

 

みたいになります。世間のイメージに反して、非モテをこじらせた男性が他人に手を出すことはなく、女性とつきあえない鬱屈は、自己破壊の方向へむかっちゃうらしい。うーん、切ない。

 

でもって、もうひとつの調査は、インセルの特徴について調べたもので、合計409人のインセル男性を対象にしたもの。研究に当たって、チームはこんなことを言っておられます。

 

進化の歴史を見れば、男性の大半は、基本的に「不本意な独身」を貫くケースが大半だった。遺伝子研究の証拠から見ると、どの世代においても、ほとんどの女性が人生のどこかで生殖をするのに対し、男性はごく一部しか生殖しないことが明らかになっている。

 

しかし、現代のインセルは、「不本意な独身」に被害者意識を共有するアイデンティティが付け加わっているという点で、歴史的にユニークな存在に見える。

 

要するに、進化のプロセスにおいては、男性は女性とつきあえないケースのほうが一般的だったので、そこらへんのメンタルダメージを制御できるように進化してきたはず。それにも関わらず、なぜ現代のインセルは被害者意識を持つようになったのかってことですね。言われてみりゃ、この視点はなかったなぁ。

 

研究に当たって、参加者は「独身である理由」チェックリストに記入し、どんな相手と結婚したいのかも回答。さらに、それぞれの学歴、雇用形態なども調べたうえで、以下のような傾向を導き出しておられます。

 

  • インセルは、恋愛市場における自分の価値を低く見積もっている(これは当然でしょうな)。

 

  • インセルの女性嫌悪が最も高くなるのは、女性に対する自分の魅力を疑っているときだった。

 

  • インセルが独身を貫く理由の大半は、自分を責めていることによるものだった。

 

  • 一般に、インセルは女性に求める基準が高すぎると言われるが、実際には、交際相手に求める基準は一般男性よりも低かった。

     

 

  • しかし、インセルは「女性が好むだろう特性」について認知のゆがみがあり、知性、優しさ、ユーモアのような資質の重要性を過小評価する傾向があった。一方で、肉体的な魅力と財力を過大評価する傾向もあった。実際、インセルには、自分のルックスを向上させるために、ハードめな美容整形手術を受ける人が多いらしい(骨切りとか)。

 

  • インセルは、心の理論、つまり他人の欲望を推測する能力が低い傾向も見られた。

 

というわけで、 どうやらインセルの方々は、相手が望むものを察知するのが苦手なせいで「大事なのは金と見た目!」と思い込み、そのせいで自分の魅力への評価が極端に下がり、それによってさらに非モテをこじらせていってる……って感じらしい。これって、別に恋愛市場だけでなく、ビジネスの世界などでも起きがちな現象ですよね。

 

研究チームいわく、

 

インセルが抱く女性嫌悪の感情は、彼らが自分自身に抱く価値観の低さを反映している。つまり、インセルが自分たちの交際相手としての価値や交際の可能性を向上させる手助けをすることは、女性嫌悪を減らすメリットをもたらすだろう。

 

とのこと。インセルは自分自身に対する認知のゆがみを持っているケースが多いので、そこを正すだけでもみんな幸せになれるんじゃないか?ってことですね。そう考えると、認知行動療法などは、インセルの苦しみを救うツールとして有効に働くかもしれませんな。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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