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勉強の前後にちょっとキツい運動をすると、脳に情報がたたき込まれるぞ!という研究の話


 

運動のメリットは数え切れないぐらいありますが、新たに「30分のサイクリングで記憶力が上がるぜ!」ってデータ(R)が出ていて、これは使える!と思った次第です。

 

これは18~35歳の男女72名を対象にした試験で、1週間ごとに2回ほどラボに来てもらい、3つのグループのいずれかに分けたそうな。

 

  1. 記憶テストの前にエクササイズする
  2. 記憶テストの後にエクササイズする
  3. なんの運動もしない

 

で、これが具体的にどんな実験だったかと言いますと、以下のような手順になっています。

 

  1. 全ての参加者に10分間だけ静かに座ってもらう。

  2. その後、「記憶の前にエクササイズ」グループは24分間のサイクリングを行う。

  3. 他の2つのグループの参加者は、記憶を始める前に24分間静かに座ってもらう。

  4. 記憶の後、「記憶の後にエクササイズ」グループは24分間のサイクリングを行い、他の2グループは24分間静かに座ってもらう。

  5. ついでに、複数のタイミングでみんなの唾液サンプルを採取し、ノルアドレナリン活性レベルも調べる。

  6. 2週間後に記憶テストを行い、どのグループの成績が良いかを調べる。

 

また、ここで行われた記憶テストってのは、参加者に180枚のイラストを見せ、1枚ごとに3000msをかけて記憶してもらったらしい。ちなみに、これらのイラストは快、中立、不快に分類されてまして、嫌な画像と気持ちが良い画像によって記憶力に違うが出るかどうかもチェックしております。

 

ついでにまとめておくと、参加者が行ったエクササイズは以下のようになります。

 

  1. 2分間のウォームアップ
  2. 20分間のワークアウト(RPEで15を保つようにする。「6=まったく辛さを感じない」から「20=限界の辛さを感じる」と主観で決めた数値)
  3. 2分間のクールダウン

 

RPEについては、「心拍計を使わなくても自分の運動レベルは判断できる!「RPE」のススメ」でくわしく書いてますんで、実践してみたい方はこちらを参照ください。

 

では、結果を見てみましょう−。

 

  • 参加者は「楽しい画像」や「中立的な画像」よりも「不快な画像」を最もよく覚えている傾向があった。
  • 記憶テストの後に運動したグループは、他の2つのグループの参加者よりも、多くの絵を覚えていた(=記憶力が改善した)。
  • 記憶テストの前に運動したグループも記憶力が上がったが、テスト後の運動のほうが良いかも。


ということで、テスト後にちょいツラい運動をしたほうが、1週間後の記憶力が高かったわけですね。

 

まぁ運動が記憶を強化するメカニズムは昔から言われてまして、それというのも、運動によって分泌されるカテコールアミン(エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン)には、ワーキングメモリーの機能をアップさせ、記憶の定着の改善をうながす働きがあるからです。今回の研究ではカテコールアミンの量を評価したわけではないんですけど、唾液αアミラーゼはチェックしているので、やっぱカテコールアミンの量が関係しているんだろうなーって感じですね。

 

これと似たような報告はかなり昔からありまして、2019メタ分析(R)でも「運動と記憶」先行研究をまとめた上で、

 

  • 学習前の運動にも記憶力を改善する傾向があったが、その結果は統計的に有意ではなかった(d = 0.11; p = 0.08)
  • 一方で、学習後の運動は記憶を有意に改善すると報告している(d = 0.47; p < 0.001)。
  • ただし、このメタ分析では、運動前後の効果は比較されていない。
  • また、このメタ分析では、性別、中等度の運動(最大心拍数の64~76%)、激しい運動(最大心拍数の76%以上)、短時間(20分未満)または長時間(40分以上)の運動など、どの運動が記憶力アップに最適なのかも見ているが、その結論は「どんな運動でも記憶を改善するのに有効」だと報告している。
  • ただし、学習を終えてからすぐの軽い運動(最大心拍数の64%未満)は記憶を低下させ (d = -0.59)、学習中の運動も長期記憶を損なう可能性がある(d = -0.23)。

 

みたいな結論を出してくれてたりします。こうして見ると、運動で記憶を改善させるためには、少なくとも中程度以上の強度で、学習の前か後に行うべきって感じなんでしょうな(学習中はだめ)。

 

ちなみに、この問題については、「運動は学習の前が良いのか?それとも、後が良いのか?」ってとこはまだ未解決でして、過去には「運動は学習前ほうが記憶力がアップする!」なんて報告(R)もあったりします。この研究では、参加者に中程度の強度(RPE13~15)で30分間ほど自転車を漕ぐように指示したもので、この場合は、学習前に運動したグループのほうが勉強した内容を思い出す量が多かったんだそうな。

 

まぁ、私としては、これらの結果を見るにつけ、

 

  • 学習後の運動による脳の覚醒は 、頭の中に入れた情報を引き出すために役立つ。
  • 学習前の運動は、典型的な情報の学習に役立つ。

 

ってイメージがありますんで、「勉強の前後にちょっとキツめの運動をはさんでおけばいいのでは?」って印象を持っております。学習の前後に運動をするのがめんどうでなければ、それもアリかもですなー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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