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キュビズムアートって意味不明だけど素人でも楽しめるの?の科学

 

 

こないだ大規模なキュビズム展があったばかりですが、「キュビズムって何がいいの?」ってのを考えた論考(R)が出てたのでチェックしときましょう。アート系の話はだいたいアクセス数が低いんですが、そのへんは私の趣味と言うことで。

 



で、キュビズムってのは↑みたいな絵画のことで、ピカソやブラックが広めたことでおなじみですね。よく見れば 何が描いてあるかなんとなくわかるんだけど、 ぱっと見はランダムな図形の集合体に見えるというアレです。

 

これを良いと思うか悪いと思うかは人それぞれですけど、 キュビズムをほめる人の多くは、

 

  • キュビスムは、日常的な物体をあらゆる角度から同時に描くことで、我々に物体の新しい見方を提示したのだ!
  • キュビスムは、 物体を根本的な要素まで還元することで、モダニズムや古典主義を乗り越え、 アートに新たな表現をもたらした!

 

みたいな物言いをする人が多いはず。 これはこれで納得できるものの、同時に「 でも、それって、アートの歴史を踏まえていないと、 面白さがわからないってことじゃないの?」などとも思うわけです。 キュビズムアートの良さは歴史の文脈に依存しており、 一見さんお断り状態 なんじゃないの?って疑問ですな。

 

ということで、研究チームは、アートに詳しくない被験者を集め、みんなにキュビズムアートを見るように指示して、

 

  • その作品に好感を示すかどうか?
  • 作品に好感を示した場合、 その好意はどこから出てきたのか?

 

という2つのポイントをチェックしたんだそうな。被験者は20人の若者なんで、かなり小規模な実験ですけど、似たような研究が他に少ないので、貴重な内容になっているんじゃないかと。

 

実験に使ったのは、ピカソ(47点)、ブラック(33点)、ファン・グリス(40点)が手がけた古典的なキュビズム作品で、被験者たちに作品の「好感度」を7点満点で評価してもらい、それと同時に「オブジェクトの検出可能性」についても採点してもらったとのこと。

 

「オブジェクトの検出可能性」ってのは、「キュビズムアートが描いた物体をどれだけ性格に見抜くことが出来るか?」ってポイントです。 ぱっと見は何が描いてあるかわからないけれど、 よく見たら「ギターが描いてあるなー」「これは牛の絵だなー」みたいに理解できるってことですね。 研究チームは、 この「オブジェクトの検出可能性」 のおかげで、素人でもキュビズムが 楽しめるのではないかと考えたわけですね。

 

で、 分析の結果、オブジェクトの検出可能性とキュビズムへの好感度の間には、「R=.781,p<.0001.>」の相関があったそうな。 これはなかなかすごい数値ですね。

 

研究チームいわく、

 

鑑賞者が、視覚的なイメージを日常的な物体として再現できるかどうかという検出可能性が、作品の好感度に関係していた。この結果は、キュビスムが初心者でも楽しめるというだけでなく、難易度が高すぎず低すぎないレベルの作品が、脳の報酬系をくすぐることを示唆している。

キュビスム絵画に対する鑑賞者の評価は、部分的な手がかりから対象(ゲシュタルト)を識別する鑑賞者の能力と密接に結びついていると思われる。

したがって、ダイナミックな美的プロセスを促進するのは、刺激によって喚起される新奇性、不確実性、あるいはその他の課題の存在であって、認識それ自体の流暢さや即時性ではない。

 

とのこと。要するに、キュビズムアートってのは、作者が描いたものを当てっこするパズルとして素人でも楽しめるようになってるんだ、と。そこに「おー、この物体を こんな形で描くんだ!」という驚きが生まれ、アートの魅力につながっているわけっすね。

 

研究チームは、ピカソが1910年に描いた「ダニエル=ヘンリー・カーンヴァイラーの肖像」を参照していて、この作品を何度か見ていると、

 

  • モデルとなった人物の顔立ち
  • 髪形
  • ネクタイの結び目
  • 組みあわせた手
  • 時計のチェーン

 

といった、従来の肖像画に見られた“あるある”がすべて浮かび上がってくるのがわかり、そこに快楽が発生するという流れを説明しておられました。この論文のタイトルは「ゲシュタルトをくれ!」というもので、ヒトの脳に備わった「明確な形が欲しい!」って欲求が、キュビズムアートを成り立たせているんじゃないかってポイントを示してるわけですね。なるほどねぇ。

 

まぁ、そう考えると「要するに、キュビズムって“ナゾトキ”みたいなもんなの?」って話になりますが、この実験を見る限りは「その要素が強そうですなぁ」としか言いようがない感じ。もちろん、デザイン性や配色の妙なんかもあるんでしょうが、「キュビズムが評価されるのはパズル要素のおかげ!」って考え方は、かなり的を射てそうな気がするわけです。そうなると、「ナゾトキもアートだ!」と言ってもおかしくないような気がしますな。

 

ちなみに、この実験では、あまりにもオブジェクトの検出可能性が低い作品(後期のピカソとか)は、さすがに難易度がが高すぎて興味を失う被験者が続出したとのこと。逆に、簡単すぎる課題(初期のキュビズムとか)も、被験者が退屈になって好感度が下がったらしい。ここらへんもナゾトキに似てますね。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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