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1回の治療で人生を変えるかもしれないセラピーがあるぜ!という本を読んだ話


 

小さな治療、大きな効果(Little Treatments, Big Effects」って本を読みました。著者のジェシカ・シュレイダー先生はノースウェスタン大学の心理学者で、「シングルセッションセラピー」の効果について書いたものです。

 

シングルセッションセラピーってのは、1回のセッションだけで効果が上がる心理療法のことで、最近耳にすることが多く、まとまった書籍はいくつかあったものの、本書は一般向けにわかりやすく解説してくれてためになりました。

 

ってことで、いつもどおり本書から勉強になったところをまとめてみましょうー。

 

 

  • 現代は、世界中でメンタルを壊す人が増えているが、そのほとんどはまったく治療を受けていない。これは、医療を提供する側の供給不足もあるが、エビデンスに基づいた精神療法のほとんどは、12回から20回のセッションを受けねばならないとしている点も大きい。

 

  • そのためには、シングルセッションセラピー(SSI)を使うのが非常に有効だと考えられる。SSIは、セラピーの回数を1回だけにするために構造化されたプログラムであり、単独でサービスを提供できる。もちろん、SSIを何度も利用することも可能だが、重要なのは、どのセッションでも肯定的な変化をもたらすようにデザインされているという点である。

 

  • SSIは、セラピストが主導で行うものもあれば、セルフガイドを使うケースもある。その大半は、クライエントに欠けているものを解決しようとするのではなく、クライエントが望む変化をもたらすために、既存の強みを活用する手助けをする方向で行われる。

 

  • SSIは「より多くの治療を受けたほうがよい」という思い込みや、「長期間をかけないと治療の効果は得られない」という思い込みを覆してくれる。SSIでは、効果が出るまでの治療期間は存在せず、1回で前向きな変化を生み出す、それで難しい症状が治るとは言わないが、ターニングポイントへの扉は開かれる。

 

  • また、SSIは、ほとんどのセラピーと違って「欠点」に焦点を当てないところも特徴である。SSIには「すべての人が内なる強さと能力を持っており、その中には人生に前向きな変化をもたらす能力も含まれている」という点を前提にしているからである。

    これは、ポジティブ心理学の世界では珍しくない考え方だが、現代のほとんどのセラピーが「問題に対処するために必要なスキルを育てるべきだ」という前提でデザインされているのも事実。その点で、壊れたものを直そうとするのではなく、既存の強みを活用するSSIは異質である。

 

  • 著者が行ったメタ分析では、世界中から10,508人の若者を対象に行われた50のRCTから得られた知見を調査。その結果、SSIは青少年のさまざまな精神衛生上の問題を有意に軽減し、症状レベルに対する効果は、複数セッションのセラピーよりもわずかに小さいレベルだった。また、SSIの効果は、より深刻な問題を抱える青少年でも、そうでない青少年でも変わらなかった。

 

  • さらに、SSIはオンラインでも効果があると思われる。自己指導プログラム(セラピストが関わらないオンライン上のセラピー)でも治療の効果は確認され、SSIが不安、パニック発作、うつ病、薬物使用、慢性疼痛などに有効であることが、何十もの臨床試験で示されている。70以上の臨床試験を総合すると、SSIは実際に効果があると言える。

 

  • これらの分析をもとに、著者のチームは、認知行動療法や解決志向療法の知見も取り入れながら、オンラインのSSIプログラムを開発。今のところの臨床試験では、プログラムにより抑うつ、不安、摂食障害の軽減などが確認されている。

    これらのプログラムにより、セラピーを受けられない人々をサポートし、世界中の治療システムの隙間を埋めることが可能になる。

 

  • 著者が、SSIで効果を得たクライアントを調査したところ、SSIの効果には、5つのテーマが大きく関わっていることがわかった。

    1.自分自身を驚かせること。たとえ小さなことでも、自分にはできないと思っていたことを試してみること。

    2.他人から受け入れられること。他者から思わぬような新たな評価を受けること。他者から「私は完全に理解されている」と感じること。

    3.他人の内面に共感すること。他の人も同じような苦労をしている、あるいは似たような問題を克服していることを理解すること。これにより孤独を感じなくなり、より人生の支えを感じる。

    4.自分の物語を取り戻すこと。自分の望む未来に気づき、その未来を実現するための第一歩を踏み出すこと。

    5.恩返しをすること。自分と同じような苦難を乗り越えた人たちをサポートすること。これにより、より力が湧いてくるのを感じる。

    あくまでクライアントの証言をまとめただけの調査なので精度は低いが、これら5つ要素は、ポジティブ心理学の世界でもたびたび現れるものであり、この5つを意識して行うことで、自分でもSSIと似たセラピー効果を得られるかもしれない。

 

ってことで、「小さな治療、大きな効果」のポイントまとめでした。本書の中には、誰にでもすぐに使えるアクティビティが 4つほど収録されているんですが、 それは実際に本を手に取ってご確認ください。 おそらく翻訳版も出るでしょうから、 そちらをお待ちいただくのもいいんじゃないでしょうか。

 

いずれにせよ、この本はシングルセッションセラピーの有効性にかなり希望を持てる持てる内容になってまして、 自分でも色々と試してみたくなりました。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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