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運動の能力は、どこまで生まれつき決まっちゃうのか問題

 

 

才能の地図」にも書いたとおり、人間の特性ってのは、生まれつきの遺伝子で決まるところが多いわけです。たとえば、知性とか性格とかそんな感じですな(ただし、これで人生が決まるってわけでもないので、そこらへんについて詳しくは「才能の地図」をご覧ください)。

 

で、この「生まれつき決まっちゃう特性」ってのは、当然ながら身体の機能にもおよんでおります。走力、ジャンプ力、心肺機能、バランス感覚とか、身体を使いこなす能力もまた、かなりのところまで遺伝子に左右されると考えられるわけですな。

 

それでは、身体の機能はどれぐらい遺伝で決まるのかってことで、新しい研究(R)では「運動の能力は生まれと育ちのどちらで決まるのか?」って問題を掘り下げてくれていて勉強になります。

 

この研究は、ヘルシンキ大学などのチームが行ったもので、双子ペアのデータを使って、15種類のフィットネステストにおける遺伝子と環境を調べたものです。簡単に言えば、運動の能力において、才能と努力はどっちが重要なのかをチェックしたんですな。

 

具体的には、ポルトガルで6歳から18歳までの双子198組を対象にテストしてまして、みんなに15項目の体力テストを行ってもらい、その結果を分析して、個人間のばらつきのうち、遺伝子によるものと環境によるものとを比較したんだそうな。

 

ここで重要なのは、双子のペアのうち78組が一卵性双生児で(まったく同じDNAを共有)、残りは二卵性双生児(DNAの平均半分を共有)で構成されているってポイントです。当然ながら、あるテストの結果が、一卵性双生児のペアの方が二卵性双生児のペアよりも似ている場合、より遺伝的な影響が強いと考えられるわけです。

 

ちなみに、この研究でいう“環境”ってのは、育った地域、裕福さ、スポーツをする機会、ケガの体験、素晴らしいコーチに恵まれたかどうかなどを意味してます。こういった外部の要因に恵まれていれば、そりゃあ身体機能は発達しますな。

 

また、ここで行われた運動テストは、以下のとおりです。

 

  • フラミンゴ・テスト(片足でバランスをとる)
  • プレート・タッピング(2枚のプレートの間をできるだけ早く手を往復させ、反応時間と素早さをテストする)
  • シット・アンド・リーチ(座った状態からつま先を触る)
  • 左右別々にシット&リーチ
  • 立ち幅跳び
  • ハンドグリップ
  • 腹筋
  • ベント・アーム・ハング(懸垂の一番上の位置をできるだけ長くキープする)
  • 5mを10回走るシャトルラン
  • 12分間のラン・ウォーク
  • トランク・リフト(床に横たわり、お腹と上半身を地面からできるだけ高く持ち上げる)
  • カール・アップ(部分的な腹筋)
  • 腕立て伏せ
  • 20メートル・シャトル・ラン(ビープ音についていけなくなるまで20メートルをどんどん速く走らなければならない)

 

ご覧のとおり、心肺機能から筋力までまんべんなくチェックできる内容になっていて、自分の身体能力をチェックしたいときにも使えそうっすね。

 

では、分析でどんな結果が出たのかを見てみましょうー。

 

  • 全体として、遺伝子は身体の能力に大きな役割を果たしており、遺伝的な寄与は52%から79%にまで及んでいた。 この遺伝率の範囲は、身長や小児期のBMIの遺伝率と同じか、それよりもちょっと低いぐらい。

 

  • 全体として、異なるテスト間の相関関係は"控えめから中程度“だった。つまり、ある運動テストで成績が良かった場合に、他のテストの成績も良くなるかどうかは“まぁまぁ”ぐらいしか予測できない。

 

  • また、他のテストと最も相関が低かったのはトランク・リフトだった。なので、体幹を持ち上げる能力は、たとえば走る速さやジャンプの飛距離とは別のスキルだと考えられる。

  • 逆に、腕立て伏せ、立ち幅跳び、20メートル・シャトル・ランの3つは、他のテストと最も相関があった。なので、合的な体力をシンプルかつ短時間でチェックしたいなら、この3つのテストが最適なのかもしれない。

 

  • 個別の能力で見てみると、スプリントやパワーの能力(立ち幅跳びとかシャトルランとか)は、有酸素の持久力よりもはるかに遺伝性が強いっぽい。つまり、100メートル走は生まれつき凄い人には勝ちづらいが、マラソンのほうが努力でなんとかなるかもしれない。

 

  • データを掘り下げると、柔軟性(シット&リーチ)と有酸素性フィットネス(12分間ラン・ウォークで測定)は遺伝の影響が最も高いと思われる。

 

ということで、体がめっちゃ硬い私としては、「これは遺伝の影響なのか!よし!あきらめよう!」とか思ったりしました。

 

といっても、「才能の地図」にも書いたとおり、このような結果は私たちの出発点は教えてくれるんだけど、努力によって私たちが最終的にどこまでの身体能力をゲットできるかまでは教えてくれないのでご注意ください。トレーニングの能力も部分的に遺伝子に左右されたりはするんですが、ほとんどの場合、パフォーマンスレベルとは異なる遺伝子に左右されますんで。

 

そんなわけで、個人的にこの文献については、腕立て伏せ、立ち幅跳び、20メートル・シャトル・ランの重要性をあらためて知れたことのほうが大きいような気がしております。どうぞよしなに。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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