人生はスタートアップの経営と同じだ!とハーバードの先生が主張する本を読んだ話
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『幸福のファイル(The Happiness Files)』って本を読みました。著者のアーサー・ブルックス博士はハーバード・ビジネススクールとケネディスクールで教える心理学者で、幸福研究の世界ではもっとも著名な人物のひとりっすね。日本でもいくつか邦訳書が出てまして、「人生後半の戦略書」や「Build the Life You Want」あたりが有名ですね(個人的には「人生後半の戦略書」がお勧め)。
で、本作も「幸せになる方法って、結局なんなんだ?」を掘り下げた本なんですけど、類書とちょっと違うのは「人生とはスタートアップだ。あなたはそのCEOである!」ってコンセプトを採用してるところですね。私たちの人生を一つのベンチャー企業とみなし、戦略的にマネジメントしていけば幸福の収益率は確実に上がるよ、って発想ですね。
「会社経営と人生? そんなに似てる?」と思う人もいるかもしれませんが、実際に読んでみると意外なほど説得力がありまして、「語り口の妙!」とか思ったりしました。ってことで、いつも通り本書から勉強になったポイントをチェックしてみましょう。
- 「人生というスタートアップにとって最重要の人材は誰か?」と問われれば、もちろんあなた自身だと言うほかない。しかし、ブルックス博士は、「多くの人は職場では優秀なマネージャーなのに、私生活になるとまるで素人だ」と指摘している。仕事の納期やタスクは守れるのに、健康管理や人間関係は後回しにしてしまうような人物である。
心理学的にいうと、これはセルフマネジメント能力の欠如だと言え、これは特に現代社会では「燃え尽き症候群(バーンアウト)」として表れることが多い。脳科学の研究によれば、慢性的なストレスは脳の前頭前野(意思決定を司る領域)を萎縮させ、同時に報酬系をうまく機能させなくなってしまうことが示されている。その結果として、日々のモチベーションが湧かず、自分を律する力がどんどん弱ってしまう。
- そこでブルックス博士が提案するのは、まず「自分を最高の従業員に育てる」ことである。
・休養を戦略的にとる
・友人や家族との時間を“投資”とみなす
・信仰や哲学といった拠り所を持つ
これらを「コスト」ではなく「成長のためのリソース配分」と考えるのがポイントであり、これによって仕事での成果も向上していく。
- キャリアは“探索”である。よく「20代は下積み、30代は成長、40代で成果」といった直線的なキャリア論が語られるが、博士は「キャリアは探索と発見のプロセスであり、一生続く」と主張する。ここで博士は提示するキャリアタイプは2種類で、
・リニア型:階段を登るように、一つひとつキャリアを積み上げていくタイプ。
・スパイラル型:7〜12年ごとにミニキャリアを重ね、横に回りながら上がっていくタイプ。
のようになる。前者は典型的な「大企業勤め」、後者は「転職や異分野挑戦を繰り返す人」に多いイメージである。重要なのは、どちらが正しいかではなく、自分がどのタイプに向いているかを知ることだと言える。
- ブルックス博士はさらに、「転職して後悔する人は意外と少ない。むしろ幸福度が上がるケースのほうが多い」とも主張する。「今の仕事がしんどいけど、転職してもっと悪くなったらどうしよう……」と悩む人は多いが、統計的には動いたほうが幸福になる可能性が高いと言える。
これはスタートアップでいう「ピボット」で、一度きりの人生ベンチャーにおいて、方向転換はむしろ自然な成長戦略だと考えたほうがよい。どれだけ素晴らしいプロダクト(才能やスキル)を持っていても、顧客(他者)との関係を築けなければ会社は潰れる。これは人生も同じである。
- ここでブルックス博士が強調するのは、批判と称賛の与え方である。心理学の研究では、建設的フィードバックは「具体的・タイムリー・行動にフォーカス」の3条件を満たすと効果的だとされる。逆に「人格攻撃」になると受け手は防御的になり、関係は悪化してしまう。
一方で、褒め言葉にも「よい技術」が存在しており、
・曖昧な「すごい!」よりも「さっきの資料の流れがわかりやすかった」
・人前よりも1対1で伝えたほうが心に響く
といった細かいコツを押さえるだけで、人間関係のリターン率は格段にアップする。
- また、ブルックス博士は「会議」を「避けるべき場」として強調している。データによれば、会議の多さと社員の幸福度は逆相関しており、会議が多いほど人は不幸になることを明らかにしている。その理由はシンプルで、たんに「非効率だから」である。「会議は削れ、電話は減らせ」が幸福度アップの基本であり、これは多くの企業でも通用しそうなアドバイスだと思われる。
- 「ワークライフバランス」という考え方は、悪影響のほうが大きいとブルックス博士は主張している。理由は単純で、バランスという発想は「仕事」と「生活」を別々の皿に乗せてしまうからである。
そこで博士が提案するのは「ワークライフ・インテグレーション」で、これは、
・家族との時間が仕事を豊かにする
・仕事の挑戦が人生を深くする
という相互作用を意識することを意味する。これは、例えるなら、刀と刀を打ち合わせてお互いを研ぎ澄ませるようなものである。この視点を持つと「仕事は嫌なこと、生活は癒やし」という二項対立が溶け、結果としてオンとオフが無理なく統合され、ストレスも減る。
- ただし、もちろん仕事と生活の境界線は必要となる。博士は「どこまでが仕事で、どこからが生活か?」を意識することが大切だと述べており、無限残業や過干渉な同僚は、この線引きを侵害する典型例だと指摘する。こうした要素は“境界の泥棒”からは距離を置くべきである。
- 最後に博士は「あなたにとっての成功とは何か?」を考えるように主張する。というと、多くの人が口にするのは、
・お金
・地位
・名誉
・快楽
といった指標だが、「これらは本当の目標ではなく、中間財にすぎない」と博士は断じている。
- これに対して、本当に我々が欲しているのは、
・愛
・満足感
・信頼や信仰
といった、もっと根源的な価値なので、ここを掘り下げねばならない。幸福学の研究でも、収入は年収およそ800万円(米国データ)を超えると幸福度への寄与は頭打ちになるとされ、お金は大切だが、それだけでは幸せの公式が完成しないと言える。
- そのため、ここですべきは自分にとっての成功の定義のアップデートである。
・「子どもと夕飯を毎日食べる」
・「本当にやりたい研究を続ける」
・「信頼できる仲間と事業を育てる」
こうした“意味のある指標”をKPIに設定しないと、人生のベンチャーは安定的に成長しづらい。
ってことで、いろいろ書いてきましたが、結局のところブルックス博士の主張は「人生はスタートアップだ。CEOとして戦略を持って経営せよ」ってことで、そのためにも、
- 自分をマネジメントし(セルフケア)
- キャリアを探索し(ピボットも恐れず)
- 人間関係をデザインし(会議は減らす)
- 仕事と生活を統合し(境界を意識しつつ)
- 成功の定義を問い直す(意味あるKPIを持つ)
みたいなことですな。どれも共感できる話でして、確かにこれらのポイントを愚直にやれば、なにがしかの成果は得られそうっすね。