人はなぜ自分に嘘をつくのか──“自己欺瞞”が信念を書き換えるメカニズムを調べた研究の話
私もふくめて「自分自身に対する嘘」をつく人って多いじゃないですか。たとえば、
「今日は疲れてるから、筋トレは明日でいいや」(実はたいして疲れてない)
「このお菓子、原料はナッツだからヘルシーだしOK」(本当はカロリー過多に気づいている)
「SNSをチェックするのは“情報収集”だから悪くない」(実際はSNSを見るとイライラしがち)
「みんながそう言うから仕方ない」(本当はやりたくないけど)
って感じっすね。これぐらいの小さな嘘は、誰しも経験があるのではないでしょうか。私自身も仕事に関してよく経験する現象であります。
こうした自己欺瞞(=自分に対する嘘)ってのは、短期的には自分の気分を改善してくれるんだけど、長期的には「現実認識のズレ」や「自分への信頼感の低下」を招くところが困ったもんです。あんまり自己欺瞞を続けていると、「自分はこれでいい!」と思い込んで悪い行動を変えられなくなっちゃうし、ヒドい時には「本当の自分が何を望んでいるのか」がわからなくなっちゃうかもしれんですしね。
で、近ごろ出た研究(R)は、この「自己欺瞞はなぜ起きるのか?」をガッツリ調べてくれていて勉強になりました。これはカリフォルニア大学バークレー校とMITの共同研究で、研究チームは、自己欺瞞を「自分を説得してしまうプロセス」の一種として捉えておられます。つまり、
- 人は「信じたい」と思って信じるのではなく、ただ自分である意見を口にしたり、整理したりするだけで信じてしまう!
という結論でして、これがなかなか面白いんですよ。
実験の内容をざっくりまとめると、以下のようになります。
実験の参加者に「菜食主義は健康によい」など、いくつかの社会的テーマを提示する。
そのうち半数に「報酬を出すから、賛成か反対の立場で説得力のある文章を書いて」と指示。
残りの半数には「ただ内容を要約して」とだけ指示。
ということで、「人はどんな条件で自分の信念を変えてしまうのか?」を調べたわけですね。
その結果がどうだったかと言いますと、
- 報酬をもらおうがもらうまいが、自分が“反対側”の立場で文章を書いた人ほど、後でその意見を本気で信じるようになっていた!
だったそうです。「誰かを説得しよう!」とか意図しなかったとしても、ただ「反対側の意見を要約するだけ」でも、脳は勝手に自分の信念を書き換えてしまうらしい。要するに、私たちの脳というのは、
ダイエット中なのに「今日は特別な日だから」と言い訳して食べるうちに、「特別な日が多い人間なんだ」と思い込む。
苦手な上司に愛想笑いしているうちに、「あの人も案外いい人かも」と感じ始める。
本当はつまらない趣味でも、人に褒められて続けているうちに「自分はこれが好きなんだ」と思ってしまう。
という現象を簡単に起こすわけです。うーん、人間の認知はもろい!
このような現象が起きるのには、ご存じ認知的不協和って心理が関わっております。これは、簡単に言うと「自分の行動と信念が矛盾していると、私たちは不快さを感じてしまう!」という心の仕組みでして、たとえば、ある営業マンが「この商品はダメだな」と思いつつも、それを一生懸命に売らないといけない状況があったとしましょう。この時、営業マンは最初は矛盾を感じるでしょうが、やがてその矛盾がもたらす不快さに耐えられなくなり、脳が「いや、やっぱりこの商品も悪くないのかも……」と思い始めるんですよ。要するに、人は「自分に嘘をつこう」と意図しているわけではなく、心の中の不快感を減らすために“信じる”ようになるわけですね。
なんだか怖い話ですけども、「自分の信念なんてあっという間に書き換わってしまうかもしれない」って可能性が常にあるのは事実でしょう。なので、この問題に対抗するためには「自分の意見がなぜいまこのような状態になっているのか?」を定期的に確認するしかないんでしょうねぇ。具体的には、
反対意見を読むときは、「観察者モード」で読む:反対意見に触れると、つい「間違ってる」「自分のほうが正しい」と感情的に反応しがち。なんだけど、ここでジャッジする姿勢を抑えて、“観察者”として情報を眺める意識を持つと吉。 たとえば、「この人はなぜそう考えるんだろう?」「どんな背景があるんだろう?」といった質問を自分に投げかけながら読むと、感情のバイアスを減らせるんで、結果として、相手の意見を必要以上に否定したり、逆に引っ張られたりすることも少なくなりやすい。
自分の立場を言語化し、書き出す:頭の中だけで考えていると、論理のつながりが曖昧なままになりがち。なので、紙やデジタルメモでもいいので、「なぜ自分はそう思うのか?」「どんな体験や情報に影響されたのか?」を書き出してみるのも吉。 ポイントは、“他人に説明するつもりで書く”ことで、その過程で「意外と自分でも根拠を理解してなかったな」と気づくことが多かったりするんで。
「変わる理由」を自覚しておく:信念を変えるのは悪いことじゃないし、柔軟にアップデートできる人のほうが長期的に見て賢明。なんだけど、問題なのは「なぜ変わったのか?」を自分で把握していないことで、 たとえば「最近あの本を読んで共感したから」とか「尊敬する人がそう言ってたから」みたいな感じで、「自分の信念が変わった“トリガー”」を認識しておくと、思考が外からの影響にどれだけ左右されているかを客観視できるはず。つまり、「変わる」ことを恐れずに、「なぜ変わったのかを理解しておく」ことが、自己欺瞞を防ぐコツになるわけです。
みたいになりましょう。繰り返しになりますが、私たちの脳は、「不快を避けたい!」ってだけで自分の考えを変えてしまう器官なので、正直でいるには意識的な努力が必要ってことになるんじゃないかと思うわけです。こりゃあ意識しないとですな。


