朝イチの筋トレ、飯抜きでやっても大丈夫?問題に対する最新RCTの知見
「空腹で筋トレすると筋肉が減るぞ!」みたいな話を聞いたことがある人は少なくないでしょう。どういうことかと言いますと、空腹の時ってのは、体内の血糖とインスリンが低下している状態なので、これによってエネルギー源としての糖が不足し、身体は代わりに筋肉中のアミノ酸を分解して糖(=糖新生)を作り出そうとするんですよ。なので、筋肉が“燃料タンク代わり”にされてしまい、筋肉が減ってしまう、という理屈であります。
さらに、空腹状態で高強度トレーニングを行うと、コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が上昇しやすくなるのも問題で、このホルモンには筋肉のタンパク質分解を促す作用があるため、これも「筋肉が減る」と言われる原因のひとつになってるんですな。
ざっくりまとめると、
- 血糖不足 → アミノ酸が燃料に使われて筋肉の分解が起きる
- コルチゾール上昇 → タンパク質分解が促進される
- mTOR抑制 → 筋タンパク合成のスイッチが入りにくい
というメカニズムにより、「空腹トレ=筋肉が減る」と言われるわけです。フィットネス界隈では昔から囁かれてきた考え方で、つい先日も、いきつけのジムで指導していたパーソナルトレーナーさんも、似たようなアドバイスをしておりました。
が、その一方では「朝メシ前の筋トレは脂肪燃焼にいい!」という真逆の説も耳にすることがあったりして、これがなかなか難しい。じゃあ結局どっちなんだってことで、新しい研究(R)がこの問題にひとつの答えを出してくれてて勉強になります。
12週間、空腹 vs 食後で対決したら?
これは若めの成人を集めて12週間のトレーニングを行ったもので、参加者を2つのグループにわけております。
- 空腹トレーニンググループ:朝の空腹時に筋トレをする
- 食後トレーニンググループ:炭水化物1.0g/kgを摂った1〜2時間後に筋トレをする。
食事は両グループともカロリーが同じになるように設定し、DXA(体組成)、超音波(大腿四頭筋厚)、1RM(最大筋力)、パワーの違いがどうなったのかを評価したんだそうな。筋トレのペースは週2回でして、要は「朝イチ・空腹」vs「朝イチ・炭水化物補給済み」の状態で筋トレを行い、その効果を比べたわけです。ちゃんとトレーニングの内容と食事量もコントロールしてくれてるのがよろしいですね。
では、結果がどんな感じだったか見てみましょうー。
- 筋肉の厚み(大腿四頭筋):両群で有意に増加、群間差なし。
- 最大筋力(ベンチプレス):空腹グループ+10.53kg、食後グループ+4.89kg。統計的には差が見えるが、実用的には誤差レベルの可能性があるかなー、という印象。
- 下肢筋力(ニーエクステンション1RM):両グループとも同じぐらい増加した。
- 筋パワー:両グループで同じように改善した。
- 除脂肪量(≒筋肉量):空腹グループで+1.15kg、食後グループで+0.4kg。まあ有意だけど小さすぎるレベルでして、DXAの誤差範囲に収まりうる感じっすね。
ということで、これらすべてを総括すると、「空腹でも食後でも週2×12週の筋トレを続けていたら普通に筋肉は増えるし、筋力も伸びる!」ってことですね。もちろん、これは筋トレ初心者を対象にした試験なので、筋トレ歴が長い人にはその限りじゃないんですけども、基本的にはあんまり気にしてもしょうがないかもですね。
が、実は「空腹トレが不利」というデータもある
が、ここで難しいのが、一部には「やっぱ空腹トレのほうが不利なのでは?」と思わせるデータも出てたりするところです。たとえば、2022年のメタ分析(R)では、炭水化物を摂ってから筋トレした方が総ボリューム(トレーニング量)をこなせると報告されているんですよね。 とくに「45分以上の長時間セッション」では、糖を補給したほうが力を出し切れるようなので、45分を超えるセッションを普通にやっている方は、糖の摂取を心がけたほうがいいでしょうな。
つまり、短時間の朝トレなら空腹でもOKなんだけど、みっちり追い込むなら軽く食べた方がいい、ってのが現実的な落としどころでしょう。「空腹と食後はどちらがいいのか?」ではなく、セッションの長さと目的で決めていくのが良さそうっすね。
要点をまとめてみると、
- 空腹トレがハマる人:
- 朝型で、起きてすぐ動くと集中できるタイプ
- 食後の消化不良や胃もたれがトレに響く人
- セッション長が30〜45分、フォーム練・基礎メニュー中心
- 実践の際は、カフェイン+短時間集中+トレ直栄養。数字は欲張らず、フォームのクオリティを最優先する。
- 空腹トレがハマらない人:
- めまい・低血糖感・ソワソワで集中が切れる人
- 1時間以上の高ボリューム/高強度デーが多い人
- “とにかく扱う重量を伸ばしたい”という人
- 実践の際は、食後1〜2時間で胃を落ち着かせてから。炭水化物1.0g/kgぐらいが目安。
ということで、このRCTから得られる最大の知見は、「空腹か、食後か」という対立がそもそもズレているよなーってとこでしょうね。このブログでも何度も言ってますけど、筋トレの成果を上げるのに最も大事なのは継続性(やめない設計)と総負荷(ボリューム×強度×頻度)なんで、そこ以外にこだわりすぎてもあんま意味がないんでしょうな。