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「観るだけで強くなる」筋トレ ― AO+MIを使った脳内トレーニングの科学

   

 

筋トレと聞くと、「重いものをガンガン動かす!」ってイメージがまず浮かびますな。肉体の痛みなくして成長なし!みたいな考え方であります。

 

しかし、最近のスポーツ科学では、同時に“イメージの重要性”も指摘されるケースが増えてまして、「観るだけ」または「イメージするだけ」でも筋トレのフォームが整い、筋力すら向上する可能性がある!って話が出てきてるんですよ。

 

で、つい先日、中国の研究チームが行った実験(R)も「観るだけ or イメージだけ」トレーニングの効果を調べてくれてて良い感じでした。

 

 

 

AO+MIとは? ― 脳のリハーサル効果

これは19〜22歳のテニス経験者30名を対象にした試験で、週3回のペースで6週間にわたりサーブの映像を見てもらい、自分がその動作をしているとイメージするように指示したんだそうな。その際に、全体を2つのグループにわけまして、

 

  1. 実験グループ:映像に「どの筋肉を使うべきか」を色付きで可視化(例:体幹=青、大臀筋=赤)したものを観る

  2. 対照グループ:普通のサーブ映像だけを観る

 

って感じで様子をチェックしたんですね。

 

ここで大事な用語をチェックしておくと、研究では「AO+MI」ってタームが使われております。これがどういうことかと言いますと、

 

  • AO(動作観察):正しいフォームの映像を見ること。

  • MI(運動イメージ):自分がその動作をしていると頭の中でシミュレーションすること。

 

みたいになります。この2つを組み合わせると、脳の「一次運動野」や「運動前野」といった領域が、実際に体を動かしたとき同じように活動し、いわば脳の中でリハーサルをしている状態になると考えられているわけですな。

 

この手法はスポーツ心理学では以前から知られていて、ゴルフやダーツ、ダンスなどの動作学習に効果が確認されております。最近は筋トレにも応用され始めていて、「観て・イメージするだけ」でフォーム修正や筋力強化が可能だとする研究が増えているんですな。

 

では、この「AO+MIの効果やいかに?」ってことで、結果はこんな感じになりました。

 

  • 対照グループ:介入前後でほぼ変化なし。相変わらず「腕主導のサーブ」をしていた。

  • 実験グループ:介入前は同じく腕主導だったが、6週間後には「体幹・下肢主導」にシフトし、広背筋や大臀筋がより連動して働くようになった。

 

ということで、AO+MIを実践したグループのみフォームの質が劇的に変わったというわけです。もちろん、この結果はテニスに特化したものなんですけど、個人的には、これは筋トレにもそのまま応用できるんじゃないかと思うわけであります。

 

 

 

筋トレにAO+MIを応用するなら?

では、具体的にAO+MIを筋トレにどう使うのか?ってとこが気になるでしょうから、実践例を考えてみましょう。スクワットを例に考えてみると、以下のようなステップになりますね。

 

  • ステップ1:正しい映像を用意する:プロのリフターやコーチの模範フォームを撮影するか、ネットで正しいフォームの指導動画を探す。

  • ステップ2:AO(観察):映像を正面+側面から観て、「大臀筋がここで主に動いている」「ここで体幹を安定させている」などを確認。

  • ステップ3:MI(イメージ):映像を止めて目を閉じ、自分がその動作をしている感覚を5〜10回反復。足裏の圧力、大臀筋の収縮感までリアルに想像してみる。

  • ステップ4:AO+MI(統合):映像を観ながら、自分が動作している感覚を重ねる。実験だと正面40回+側面40回=計80回を1セッションにしているので、これを参考にするといいかも。

  • ステップ5:実際のウォームアップ:軽重量で同じ感覚を再現。「脳内リハーサル」で得た感覚を、現実の動作で再現してみる。

 

こんな感じでイメトレを繰り返すことで、適切なフォームが自然に身についていく……と考えられるわけです。「正しいフォームを見て学べ!」ってのはよく聞くところですけど、うまくやれば実際にめっちゃ役立つ手法なんじゃないでしょうか。

 

ちなみに、AO+MIが筋トレに役立つって研究は過去にもありまして、

 

  • ノルディックカールの研究:3週間のAO+MIでハムストリングスの筋力が有意に向上(R)。

  • 肩のトレーニング研究:5日間のAO+MIで肩屈曲の筋力が増大(R)。

  • 系統的レビュー:筋力・スピード・反応時間・持久力が改善した事例が多数(R)。

 

なんてデータが豊富にそろっていることからも、筋トレの学習効率を上げてくれるのは間違いないでしょう。もちろん「映像を観るだけでマッチョになる!」なんてことはないんだけど、筋トレをやってる人なら取り入れる価値はあるでしょう。

 

実践の際は、週3回を目安に1セッションは10〜15分でお試しください。スクワット、ベンチ、デッドリフトみたいな「複雑な動作」ほど効果が出やすいので、正しいフォームにお悩みの方はお試しください。また、イメージする際は「筋肉の収縮感」「重量の感覚」まで具体的に思い浮かべることをお忘れなく。「観て、イメージして、実際に動く」って順序で進めれば、フォーム習得のスピードも精度も飛躍的に上がるはずであります。お試しあれー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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