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加重ベスト・ウォーキングは筋肉と骨の改善にめっちゃ効果的!はどこまで正しいのか問題

 

最近、健康界隈でよく聞くのが「加重ベスト・ウォーキング」であります。重りがついたベストを着つつ歩き回ることで「骨が強くなる!」「筋肉も増える!」「脂肪も燃える!」などの効果を得られ、とくに更年期世代の女性に人気が高いんだそうな。年を取ると骨粗鬆症や筋力低下が切実な課題になるので、それを「歩くだけで全部解決だ!」と言われたら、そりゃあ魅力的に響きますよね。

 

それと同時に、過重ベストはガチの筋トレーニーの間でも人気がありまして、「筋肉が増えまくる!」「筋トレの効率が上がる!」などと言われております。確かに、体に重いものをつけながら運動をすれば負荷が上がるのは間違いなく、そのぶんだけトレーニングの成果が上がりやすい気はしてきますもんね。

 

では、果たして過重ベストには意味があるのかってことで、近年もいくつかのデータが出てきてますんで、その効果をテーマごとに見てみましょうー。

 

 

 

過重ベストの効果はどんなもんか?
  • 骨密度への効果はたぶんないまずは「骨を強くする」という主張について。これは「体に重さをかければ骨に刺激が入る→骨が強くなる」というシンプルな理屈で、確かに直感的には納得感があるでしょう。ところが、研究データを詳しく見ると、この点についてはかなりイマイチっすね。

    1998年の研究:閉経後女性18名に9か月間ほど加重ベストを着せてスクワットやランジなどを実施させた実験。結果は「骨密度は変化なし」。一方で筋力や体組成にはちょっとした改善が見られました(R)。

    2000年の研究:こちらは5年間の長期研究(R)で、ベストを着てスクワットやジャンプをした女性に股関節の骨密度がわずかに上昇する現象が見られた。しかし「歩き」ではなく「筋トレ動作込み」での話。

    2013年の研究:こちらは唯一「ウォーキングの効果」に絞って検証した研究(R)。検証の結果は「ベスト有り・無しで差なし」というもので、過重ベストを着たところで骨形成や骨吸収マーカーには変化がなかったそうな。

    ということで、「加重ベストを着て歩くだけでは骨密度は上がらない」としか言えなさそう。おそらく骨を強くするには長期的かつ高負荷の刺激が必要で、ちょっと重いベストで散歩したくらいでは焼け石に水なんでしょうな。

 

 

  • 筋肉にはたぶん刺激が足りない次に「筋肉が増える・筋力がつく」という主張でして、「背中に重りを背負えば筋肉が余計に働くはず!」って発想には納得感があるところです。が、いまのところ過重ベストで筋肉量が増えたという明確なデータがないのが難しいところっすね。いちおう、わずかに筋力が上がったって報告はあるんだけど、いずれもスクワットやランジを含んだプログラムでの話であり、歩くだけでの効果は確認されてないんですよ。

    まあ筋肉ってのは「漸進的過負荷」という原則のもとでしか成長しないので、要するに筋繊維に「もうこれ以上は無理!」と感じさせるレベルの負荷をかけなければならないんですよ。ところが、加重ベストを着てのんびり30分歩いたところで、筋肉にとってはせいぜい「ちょっと重い買い物袋を持った」程度の刺激なので、これだと筋肥大は起こりづらいでしょうね。ガチの筋トレーニーであれば、意味はあるかもですが……。

 

 

  • 脂肪燃焼への効果は誤差の範囲:では「脂肪燃焼効果」はどうかってことですが、これもどうにも望み薄な感じがしております。それと申しますのも、そもそも筋トレの消費カロリーの増加はごくわずかで、せいぜい数十kcalの差なんですよ。さらには、運動による消費カロリーは、食欲増加や日常活動の低下で帳消しになりまして、運動で消費したカロリーの20〜50%しか実際の減量には反映されないというデータもあるぐらいですからねぇ。

    実際のところ、2020年の長期研究(R)でも、過重ベストの有り無しで体重変化は変わらなかったとされております。さらに長時間ベストを着けた参加者の一部は「腰痛や背中の痛み」を訴えており、むしろリスクの方が大きい可能性さえありそう。

 

 

過重ベストは「歩き」ではなく「筋トレ」で使えば意味があるとは思う

と、ここまで読んで「じゃあ加重ベストは意味ないんだな!」と思った方もいるかもしれませんが、あくまで上記は「過重ベストウォーキング」の話でして、使い方次第では便利なトレーニングツールになり得るのは確かでありましょう。たとえば、

 

  • 自重スクワットやランジの負荷アップに

  • カーフレイズやプランクの強度を高めるのに

  • 家でダンベルやバーベルを揃えるほどでもない人の「ちょい足し負荷アイテム」として

 

みたいな感じですね。「過重ベストウォーキング」に意味があるとは思えませんが、「筋トレの補助器具」としてならアリなんじゃないかと。とはいえ、最近の研究(R)では、肥満の高齢者を対象に「減量+加重ベスト」vs「減量+筋トレ」vs「減量のみ」という比較を行ったところ、いずれも骨密度は落ちてしまいベストを着ても筋トレをしても差は出なかったとのことなんで、「体重減少による骨量減少」は加重ベストごときでは防げないと見たほうがよさそうではあります。やはり骨や筋肉を守るには王道の筋トレが必要になるんでしょうな。

 

ということで、ここまでの話をまとめると、

 

  • 加重ベストで歩くだけ → 骨・筋肉・脂肪には効果なし

  • 加重ベスト+筋トレ → 多少のメリットあり

  • 骨や筋肉を守りたいなら → 結局は地道な筋トレが最強

 

みたいになりますね。特に骨密度は反応が遅いんで、短期間でどうにかなるものではなく、半年〜1年ぐらいの継続的な負荷が必須になるでしょう。さらに、筋肉に至っては「限界近くまで追い込む刺激」が不可欠なので、歩きながらベストを着たくらいでは到底追いつかないのは間違いないでしょうな。

 

まあ「過重ベストを着ると散歩が楽しくなる!」ってことであればベストを着てもいいと思いますが、ただし「筋肉・骨のため」と思うならスクワットや腕立てなどの筋トレを必ず加えるべきでありましょう。どうぞよしなにー。

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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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