【質問】運動のときに電解質サプリって本当に飲む必要ありますか?
こんな質問をいただきました。
「トレーニングのときに“電解質サプリ”を飲むといいって聞きました。
集中力が上がるとか、筋けいれんを防ぐとか……本当なんでしょうか?」
確かに、ここ数年は、SNSなどでも「電解質ドリンク」や「ナトリウムサプリ」が人気でして、ジムでもペットボトルに青い液体を入れている人を見かけたりしますね。特にランナーの界隈では「飲まないと脱水になる」「パフォーマンスが落ちる」みたいなフレーズもよく聞くところです。
電解質ってのは、ざっくり言うと「体の中の電気の流れを整えるミネラル」のこと。ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムあたりが主要メンバーで、これらが体液のバランスを保ったり、神経や筋肉の働きをスムーズにする役目を担っております。
つまり「電解質=体のスイッチや電線みたいなもの」でして、汗をかくとそれらのミネラルも一緒に出ていくため、「補給しないと電気信号が乱れてパフォーマンスが落ちる」という理屈が広まったわけです。
特にスポーツ生理学の初期研究(1950年代〜1970年代)では、「激しい運動=電解質の喪失=筋肉のけいれん」という因果関係が信じられていて、そこから「運動後には塩分を摂れ!」という定番アドバイスが定着したんですな。
人体の自己調整システムをなめてもらっちゃ困る
いかにも正しい話のようですが、だからといって電解質を摂るべきかと言われると難しいところです。というのも、そもそもの話として、本当にそんなに私たちは“塩不足”なのか?ってところがあるんですよね。アメリカ国立衛生研究所(NIH)のデータ(R)によると、平均的な成人のナトリウム摂取量は1日3,400mg。日本人にいたってはさらに多く、成人平均で1日10g前後──ナトリウム換算で4,000mgを超えてたりします。
これに対して、世界保健機関(WHO)の推奨上限は2,000mgですからねぇ。つまり、ほとんどの人は、すでに塩分を摂りすぎているわけで、それでも「電解質が足りない」と信じてサプリを飲むのは、満タンのタンクにさらに水を注ぎ込むようなことになっちゃうんじゃないか、と。
さらに、「汗をかいたら塩を補給すべし!」とよく言われますが、これもちょっと怪しい感じがしております。なぜなら最新の研究によりますと、私たちの体は脱水や電解質変化に対して非常に優秀な自己調整システムを持っていて、結構な運動をしていても体内の濃度はほぼ一定に保たれるっぽいんですよ。言い換えれば、いくら汗をかいたからとて、血中ナトリウム濃度はほとんど下がらないってことですな。
というか、むしろ塩を取りすぎると血中ナトリウム濃度が上がっちゃって、そのせいで喉が渇いて水を飲みすぎてしまい、結果として腎臓にフル稼働が起きる可能性も大。つまり、体は「自然なバランス」を保つように働いているのに、サプリで無理にかき乱すことになりかねないんですよ。
実際のところ、マラソンやトライアスロンの研究(R)でも、運動中に血中ナトリウム濃度が下がる人より上がる人のほうが多いことがわかってたりします。ここにサプリを入れると「塩が足りない」どころか「塩を入れすぎて濃くなっている」状態になりかねないわけです。いわば“高ナトリウム血症”に近い感じでして、これで頭痛、吐き気、倦怠感などが起きちゃったら本末転倒と申しますか。
足がつるのは塩不足のせいか?
さらに、「足がつるのは塩不足のせいだ!」って話もよく耳にする話でしょう。
これも発端は、昔の運動生理学の考え方にありまして、筋肉が収縮するときには、ナトリウムやカリウムが神経と筋線維の間を行き来して「収縮せよ!」という電気信号を伝えるんですよ。なので、ナトリウムやカリウムが減ると、信号がうまく伝わらず、筋肉が暴走的に収縮しちゃう──つまり「けいれん」が起こる、と考えられていたわけです。
こちらも納得感がある考え方なんだけど、実際の研究(R)を見てみると、結論はわりと真逆。筋けいれんと電解質濃度の関連はほとんど見られていなかったりします。それもそのはずで、「足がつる」ときの主な原因ってのは、筋疲労や神経の過剰興奮によるところがメインなんですよ。なので、「運動で足がつった!」って時は、“塩が足りない”からではなく、たんに“体を使いすぎた”だけである可能性が高いわけです。
もちろん、電解質サプリが完全に無意味というわけではなくて、個人的には、以下のような条件に当てはまる人には意味があるかもなーと思っております。
- 90分以上の高強度トレーニングを頻繁に行う人
- 高温多湿の屋外で長時間活動する人
- 汗が異常にしょっぱい人(Tシャツに白い跡が残るようなレベル)
- 長期のケトジェニック・低糖質ダイエットで尿量が多い人
こうしたケースでは電解質のバランスが崩れることが多いんで、サプリによる補給は理にかなってるんじゃないでしょうか。一方で、普通の人が軽い筋トレやランニングをする程度なら、電解質の補給はまったく必要なし。たんに“高級な塩水”を飲んでいる状態になりかねないので注意してくださいませ。
では、運動中には何を補給すればいいかってことですけど、そこまで難しいことは考えなくて良いのではないかと。具体的には、運動前にコップ1〜2杯の水を飲み、運動中は喉が渇いたタイミングで少しずつ飲み、運動後は体重減少の1.5倍の水を補給(1kg減=1.5L水)するぐらいのイメージで十分。これでほとんどの人は十分に水分・電解質バランスを保てるはずであります。どうぞお試しあれー。