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あなたがいくら稼いでも幸せになれない理由をちゃんと説明するぞ!という本を読んだ話

 

アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』って本を読みました。著者のモーガン・ハウセルさんは『サイコロジー・オブ・マネー』の作者さんで、行動経済学などをベースにおもしろい本を書いてる方ですね。

 

今作も前作の流れを受けて、「なぜ人間はお金の前で冷静でいられなくなるのか?」というテーマを、行動科学・幸福研究・進化心理学をまたぎながら深掘りしていてためになりました。タイトルは「お金の使い方」ですが、実際には 「人間はなぜ“幸せになれない使い方”を繰り返してしまうのか?」って問題を扱ってまして、耳が痛くなる人は多いんじゃないでしょうか

 

というわけで、いつもどおり本書から学んだポイントを紹介していきましょう。ただし、これは原著で読んだので、邦訳版とは一部表現が変わってるかもしれないとこはご注意ください。

 

  • お金には2つの使い方があり、①「人生をより良くするためのツールとして使う」か②「他人より上に見られるためのステータスとして使う」のいずれかに分けられる。

    この2つは、言葉にすると簡単だが実際には境界がめちゃくちゃ曖昧で、たとえば、

    ・「もっと広い家に住みたい」と思っているが、実はその裏には「隣の家より狭いのがイヤ」という比較の気持ちが働いている

    ・「もうちょい良い車が欲しい」と思っているが、実はその裏には「職場のあの人より良く見られたい」という比較の気持ちが働いている

    みたいなことは誰にでもある。自分では「人生をより良くするために金を使うぞ!」と思っていても、実際は「他人より上に見られたい!」って欲求があることは多い。

 

  • 研究でも、人間が求めてるのは“絶対的な豊かさ”ではなく“相対的な優位性”だとよく指摘される。人類の脳は、狩猟採集の時代からずっと「群れの中のポジション」を気にするようにできてきたので、ステータスゲームを避けるのは難しい。

    しかし、厄介なことに、ステータスゲームは一度入ったら終わりがない。いくらお金を持っていても、上には上がいるので、 “嫉妬の無限ループ”が止まらなくなってしまう。月面着陸したバズ・オルドリンでさえ、 「自分が“2番目”だったことにずっとこだわっていた」のは有名な話。お金に限らず、人間は「今持っているものより、持っていないもの」に注意が向きやすい という“生物学的クセ”を背負っており、結局のところ、このゲームに勝つ方法は“プレイしないこと”しかない。

 

  • さらに、お金は、油断すると私たちを乗っ取る方向に働く。「お金はツールであって、人生の中心になってはいけない」 とはよく言われることで、実際のところ、多くの人にとってお金は“金融資産”であると同時に“心理的負債”になりやすい。

    これは、つまり稼げば稼ぐほど人生が軽くなるどころか、 アイデンティティが“お金”に乗っ取られ、逆に苦しくなってしまうことを意味する。脳科学的に言うと、これはお金によって報酬系(ドーパミン)の暴走が起こった状態だが、困ったことにドーパミンは“手に入る前”が最も影響力が強くなるため、 お金が増えても永久に満たされないことになる。

    たとえば、大富豪のハーヴィー・ファイアストーンも、「シンプルな生活に戻りたいが、もう戻れない。そこに戻るのは“壊れた人間”だけだ。」との言葉を残している。これは、お金がアイデンティティに埋め込まれた結果、「後戻りできない自分」が形成されてしまう典型例と言える。

 

  • しかし、お金では直に幸せは買えないが、“幸せを生む条件”なら買うことができる。たとえば、収入に余裕があれば自由時間が増えるし、便利な住環境が整えば友人と会いやすくなるし、安定した生活を送れれば日々の不安が減る……みたいな感じである。つまり、お金が買えるのは、余裕ある時間、ストレスの少ない環境、人間関係を築きやすい生活、意味や目的を追いつづける“余白”などであり、これが幸福をもたらす条件となる。


  • また、ハウセルは「46歳で視力を取り戻した男性が、ただの病院のカーペットに感動した話」を紹介している。彼は病院のただのカーペットを見て「世界一美しいものだ」と感動したという。このような現象が起きたのは、人は“絶対的な豊かさ”ではなく、 “直前とのコントラスト”で幸福を感じる生き物だからである。そのため、全盲だった人にとっては、普通の人がスルーする景色が、めちゃくちゃ美しく感じられる。

    これはポジティブ心理学でも「快楽順応」として研究されている話で、どれだけ豪華なものを買っても、私たちの脳はすぐに慣れてしまい、だから幸せは長続きしない。むしろ、幸せになるために必要なのは変化や対比、つまり“ギャップ”のほうなのだと言える。

 

  • 幸福の本質は「満足できるかどうか」にある。ハウセルいわく「たとえお金をたくさん持っていても、ずっとお金のことばかり考えている人は幸せになれない」とのことで、 本当に幸福な人は、 お金のことを気にしすぎないし、足るを知って “今の生活”を味わうメンタルを持っている。

    結局、人生の満足度は、“すでに持っている幸福”に気づけるかどうかでしか決まらない。これは最近のマインドフルネス研究にもよく出てくる話で、 “注意の向け方”が私たちの幸福度を大きく左右していることがわかっている。

 

  • 近年の「収入と幸福の相関」に関する研究によれば、「そもそもメンタルが乱れている人がいくらお金を稼いだところで、問題は解決されない」ことがわかってきた。逆に言えば、メンタルの土台が整っている人であれば、お金が人生をブーストしてくれることもわかってきた。

    つまり、幸福のコアにあるものは、人間関係、健康、意味や目的、良心の呵責がない生活、安心感といった“金で買えない領域”にあって、 お金はその土台を支える「補助ツール」にすぎない。

 

 

というわけで、いろいろ書いてきましたが本書の結論をざっくりまとめると、

 

  • とにかくステータスゲームを降りる! → SNSの比較習慣を減らすだけでも幸福度は上がるんで

  • お金を「自由時間」と「人間関係」に変換する → こちらも幸福研究でよく見かける話

  • 快楽順応を前提に、“小さな変化”を生活に入れる → 旅行、初めての店、いつもと違う散歩ルート…などに気を配る

  •  お金をアイデンティティにしない → 「何を持ってるか」じゃなく「何を大事にしているか」に注意を戻す

  • 自分にとっての“幸福を生む使い道”を見つける → 性格によって最適解はまったく異なるので、他人の正解は参考にしない

 

みたいな感じっすね。とりあえず、「お金は“幸せの材料”にはなるけれど、“幸せそのもの”ではない!」と考えるだけでも、そこそこ心が軽くなっていいんじゃないでしょうか。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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