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7,000歩が最適解?科学が導いた「ちょうどいい健康習慣」を調べたメタ分析の話

 
 

「1日1万歩歩きましょう!」なんてスローガンを目にしたことがある人は多いでしょう。スマートウォッチやアプリの通知で「今日の歩数は目標まであと2,000歩です!」なんて言われて、日々焦っている人も多いんじゃないかと。

 

ただし、近年は「1万歩神話」はけっこう怪しいと言われてまして、最近発表されたメタ分析(R)でも、そのへんをガッツリ調べてくれておりました。

 

 

ほぼ30万人のデータをかき集めたメタ分析

まずは概要からまとめておくと、これは「前向きコホート研究31本をまとめて解析したメタ分析で、対象になったのは293,562人の男女(健康な人も疾患持ちも含む)。アメリカ、イギリス、日本などで行われた調査をピックアップしていて、歩数の計測には加速度計や歩数計などのデバイスを使っております。

 

その上で「日々の歩数」と「健康アウトカム」の関連性を調べまして、

  • 総死亡率
  • 心血管疾患
  • 心血管死
  • がん死亡率
  • 認知症
  • 2型糖尿病
  • うつ症状
  • 転倒

 

といったあたりをチェックしております。「長生きとQOL(生活の質)」に直結する項目がだいたい入ってまして、これはめっちゃありがたいですね。

 

で、どんな結果が出たのかってとこが気になりますが、1日あたりの歩数と健康リスク低下の関係は以下のようになります。

 

歩数全死亡率心血管疾患認知症うつ症状糖尿病がん死亡率
2,000歩基準基準基準基準基準基準
3,000歩−23%−7%−10%−5%−3%−18%
5,000歩−43%−18%−27%−14%−9%−34%
7,000歩−47%−25%−38%−22%−14%−37%
10,000歩−48%−30%−45%−33%−22%−40%
12,000歩−55%−31%−42%−39%−27%−50%

 

ということでして、つまり7,000歩まで歩けば、大きな健康効果の「大半」は獲得できるってことですね。まあ一日1万2000歩までリスクは低下し続けてはいるものの、そこまで劇的な改善でもないので、そこまで実践するかどうかは自分のライフスタイルとの相談になりそうな感じっすね。

 

なかでも7,000歩の効果として目立つのが、

 

  • 全死亡率 −47%
  • 心血管疾患 −25%
  • 認知症 −38%
  • うつ症状 −22%
  • がん死亡率 −37%

 

ってあたりは結構な変化で、どれも生活の質や寿命に直結する重大項目なのがうれしいところですね。個人的には、認知症とメンタル系に効いているというのが特にありがたいポイントかなーと感じております。忙しくてジムに行けない日でも、「せめてちょっと歩く」だけで脳と心の健康が守られると思えば、だいぶ気が楽になっていいんじゃないかと。

 

ちなみに、よく指摘されることですが、「1日1万歩を目指そう!」ってアドバイスは1965年の日本の万歩計メーカーのキャッチコピーが起源になってて、科学的な裏付けはなかったりするんですよね。当時の製品名が「万歩計(まんぽけい)」だったので、なんとなく「1万歩を目標にするぞ!」みたいなムードが生まれた経緯があるわけですが、今回の研究で、その数字がちょっと過剰気味だったことが明らかになった感じですね。多くの人は「7,000歩くらいなら達成できそうかも…」と思うでしょうから、この現実的なラインがわかったことが、今回の研究の最大の収穫かもしれませんな。

 

となると、「じゃあ実際、7,000歩ってどのくらい歩けばいいの?」って疑問がわいてくるかもですが、ざっくりした基準としては、

 

歩数ゆっくり(80歩/分)普通(100歩/分)速歩き(120歩/分)
7,000歩約88分約70分約58分

 

みたいになります。要は1日70分ほど歩けばOKってことですね。なので、たとえば、

 

  • 朝の通勤で15分
  • 昼休みに20分
  • 夕方の買い物ついでに15分
  • 夜の散歩で20分

 

など、細かく分けて歩けば、意外と到達しやすい数字じゃないでしょうか。

 

 

 

歩けば歩くほど健康に? それとも限界アリ?

もうちょい掘り下げとくと、この研究は、「歩けば歩くほどリスクが下がる」んじゃなくて、「ある程度で効果が頭打ちになるよー」ってポイントを明らかにしているのもナイスですね。たとえば、

 

  • 死亡率や認知症リスクの減少は、7,000歩を超えるとゆるやかに停滞する。
  • 逆に、うつ症状や糖尿病のリスクについては、12,000歩まで増やすことでさらに改善が見込める傾向もある。

 

みたいな感じでして、病気ごとに「最適歩数ゾーン」が異なるってのもポイントになりましょう。このあたりは「自分にとって何歩がベストか?」を考える参考になりそうですね。

 

もちろん、この研究にもいくつかの限界はありまして、

 

  • 歩数は数日間しか計測しておらず、長期的な生活パターンは不明
  • 自転車、筋トレ、水泳など、歩く以外の運動は考慮されていない
  • 歩数が健康に与える影響の「因果関係」までは断定できない

 

といったあたりはご注意いただきたいところです。とはいえ、31本もの研究で「7,000歩ぐらい歩いておけばいいんじゃない?」って結論が出たのは心強いですな。

 

ということで、最後に実用的なアドバイスをまとめておくと、

 

  • 目標は「1日7,000歩」でOK(それだけで死亡リスクが47%下がる)
  • それ以上歩くと一部の疾患リスクはさらに下がるが、無理に1万歩を目指さなくてもいい(むしろ7,000歩の方が続けやすい)
  • 7,000歩は分割して歩いてもOKで、1日トータルでカウントされれば問題なし
  • 歩くだけでメンタルや認知機能まで改善する可能性あり

 

という感じですね。たとえば、1日の仕事が立て込んでいても、「今日は昼休みに10分多めに歩いておこう」とか、「ポッドキャストを聞きながら散歩しよう」といった“スキマ運動”でも効果があるってことですね。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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