今週の小ネタ:「なんのために生きてるの?」に答えられる人は、うつになりにくい? サフランで男性機能が変わる? 美しさの正体は「脳のコスパの良さ」だった?

ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
「なんのために生きてるの?」に答えられる10代は、うつになりにくい?
皆さんは10代のころ、「自分の人生には意味がある」と思っていたでしょうか? 正直、私はなんも考えてなかったですし、そもそも大人になっても人生の「意味」なんてわからん……という人の方が多いかもしれません。
が、最近の研究(R)によれば、この「自分の人生には意味がある」「目標に向かって生きている」という感覚(=人生の目的意識)が、10代のメンタルヘルスにけっこう大きな影響を与えるよーって結論になってて面白かったです。
これは17~19歳の若者2,821名を対象にした研究で、みんなに「この1カ月間、自分の人生に目的があると感じた頻度」を質問し、その後でうつ症状の有無を約10年間フォローアップしたんだそうな。うつの測定には「K6スケール」という心理的な苦痛を判断する指標を使ってまして、「新たに発症したうつ」だけを対象に分析したらしい。気合いが入った研究で良いですね。
でもって、この研究の結論をひとことで言いますと、
- 10代の時点で目的意識が高かった若者は、その後10年間でうつになる確率が35%も低かった。
という感じだったんだそうで、なかなか驚きですね。しかもこの効果は、性別、人種、裕福さなどをすべて調整した後でも変わらず、「目的意識のメリットは誰にでも平等に働く」というのが大きなポイントですね。
となると、その詳しいメカニズムが気になるところですが、研究チームの推測によりますと、
- 心の「骨組み」になる:目的があることで、自分の行動や感情に一貫性が生まれる。これを心理学では「心理的スキャフォールディング(足場)」と呼び、つまりストレスや不安に襲われても、心の支柱があるからブレにくくなるのかもしれない。
- 感情のコントロールがしやすくなる:目標がある人は、ネガティブな感情に対しても上手に対処しやすい傾向がある。過去にも「目的意識が高い人は感情調整スキルが高い」という結果が出ており、これが原因なのかもしれない。
- 健康的な行動を取りやすくなる:目的を持っている人ほど、運動をしたり、睡眠を大事にしたり、ドラッグやアルコールに依存しにくかったりと、健康的なライフスタイルを送りやすいという特徴がある。
- 社会的なつながりが深まる:「目的を持って生きている人」は、他人との関係も良好な傾向がある。社会的なつながりは、うつの予防因子として非常に強力。
といったあたりの理由が述べられておりました。ここらへんは大人にも十分に適用されそうな内容ですな。
まあ、そうは言っても自分の“人生の目的”を考えるのはなかなか難しい作業ですけども、研究チームもこの点は認識していて、今後は「目的意識を育てる介入方法」が重要になると述べておられます。たとえば、
- 意味のある目標設定を手伝う(進学、趣味、キャリアなど)
- 社会貢献的な活動に参加する(ボランティア、地域活動)
- 自分の価値観や大事にしたいことを言語化するワークを行う
みたいな感じになるんでしょうな。個人的には「ライフ・レビュー・セラピー」とか良さそうな気がしますが。
もちろん、この研究も限界はありまして、正直「目的」の定義がシンプルすぎる感じだし(「この1カ月、どれくらい人生に目的を感じましたか?」という質問1つだけで判断)、本人の主観に大きく依存しているところがありますので、このあたりは注意したいっすね。とはいえ、それでも10年間にわたる大規模追跡調査で「目的意識の高さがうつを予防する」という傾向が一貫して見られたのは重要な知見だと思われますんで、頭の隅に置いておくといいんじゃないでしょうか。
サフランで男性機能が変わる?
サフランの抗酸化作用については、このブログで過去に何度も取り上げております。ご存じのとおり、サフランはパエリアなどに使われる黄色いスパイスで、近年は「体に良い!」って研究がめっちゃ増えているんですよ。
というのも、サフランには、以下のような有効物質が入ってるんですよ。
- クロシン:抗酸化作用が高いことで知られる
- サフラナール:香りのもと。気分にも作用するらしい
- ピクロクロシン:サフラン特有の苦味のもと
- クロセチン:血流改善などに関与する可能性あり
このような成分たちのおかげで、サフランは昔から「気分がよくなるハーブ」として使われてまして、さらに最近ではサプリの形で摂取する人も増えており、軽度のうつや不安、食欲抑制、睡眠の質の改善などを目的に使う人も増えてきてるんですよね。
でもって、新しい研究(R)では、この「サフランが男性機能にも効くかも?」って結論が出てて面白かったです。
これはED(勃起不全)を抱える24人の男性(平均36歳)を対象にした試験で、みんなを以下の2グループに分けて4週間観察したんだそうな。
- サフランカプセルグループ:15mg×2カプセルを1日2回
- 無処置グループ:何もせず見守るだけ
測定した項目は、勃起機能、性欲、性交満足度、オーガズム、全体満足度などで、4週間の実験を終えた時点で、サフランを摂取したグループにどんな変化が出たかと言いますと、
- 勃起機能が有意に改善!
- 性欲・性交満足度・全体満足度もUP!
- ただしオーガズム機能には有意な変化なし
みたいな感じだったらしい。サフランのおかげで「元気が出る」系の効果が確かに見られたってことですね。
この結果について、研究チームは「サフランの神経伝達物質への作用や、血流改善効果によるものではないか?」と指摘しておられます。さらに、サフランは性腺刺激ホルモン(GnRH)の分泌も促す可能性があるので、それが性欲アップにも関係しているんじゃないか、と。
もちろん、この研究はオープンラベル試験(つまり、参加者も「自分がサフランを飲んでる」と知っていた)なのでプラセボ効果の可能性はめっちゃあるし、対照群が「偽薬」すら飲んでないんで 比較対象として弱いしで、弱点だらけであることはご了承ください。かなりバイアスが入りそうなデザインなんで。
とはいえ、個人的には「とりあえず試してみる」のもアリだと思ってまして、それというのもサフランには、
- サフランは比較的安全性が高い(大量摂取はNGだけど、通常量なら問題なし)
- メンタルにも良い影響がありそう
- 気分改善・ストレス緩和・睡眠サポートなどの実績も増えている
ってメリットがありまして、ここらへんが非常に良い感じなんですよね。実際、EDの原因には精神的な要素がかなり大きいので、気分が上がればそっちも上がる、というケースも珍しくないですし。もし「サフランサプリを試してみようかな?」と思ったときは、1日60mg前後の摂取から試して、最低でも2~4週間は継続してみてくださいませ。
美しさの正体は「脳のコスパの良さ」だった?
私たちが「美しい」と感じるものとは一体どのようなものなのか?を調べた研究(R)が面白かったんで、内容をチェックしておきましょう。アート、自然、建築、ファッションなどなど、世の中には美しいとされるものが山ほどありますが、そこにはどのような共通点があるのかってことですね。
これはカナダのトロント大学チームが行った実験で、「人によって美の好みは違うはずなのに、なぜ多くの人は同じものを『美しい』と感じるのか?」ってのを調べた内容になっております。
実験は2ステップ構成になってまして、
ステップ①:AIに見せて「脳のコスト」を数値化
まずはAIの助けを借りて、画像ごとの「視覚的エネルギーコスト」を測定したそうで、画像認識に強いニューラルネットを使い、約5,000枚の現実世界の画像(風景・物体など)をAIに見せて、どれだけの「脳ユニット」が働いたかを記録。そのうえで、このAIが感じた「処理コスト」と、実際の人間がつけた美しさの評価(1,000人超のデータ)を比べたらしい。ユニークな研究ですなぁ。
ステップ②:実際の人間の脳をfMRIで確認
ただし、上の実験だけだと「いや、それAIの話でしょ?」って疑問が出ちゃうので、実際の人間の脳でも同じことが起きているのかをfMRIで確認。参加者4名に、同じ5,000枚の画像を見てもらいながら脳活動をスキャンし、BOLD信号(脳の酸素消費=エネルギー使用量の目安)を記録したとのこと。
みたいな感じで進められてます。すると、その結果はどちらも似たような感じになってまして、
- 脳の処理がラクな画像ほど「美しい」と評価されていた
って傾向が見られたらしい。逆に脳の視覚野が頑張っている画像ほど「美しい」とは感じられなかったようで、つまり「脳にやさしい=美しい」って関係性があったわけですね。特に高次視覚野(シーンや顔を認識する領域)ではこの傾向が強く、「脳があまりエネルギーを使わずに処理できる画像 → 好感度が高い」というパターンが見られたというんですな。
こういう現象が起きる理由は簡単で、人間の脳はデフォルトで“省エネ志向”だからです。簡単に言えば、私たちの脳ってのは、
- 情報が多すぎる
- 予測がつかない
- 形が複雑すぎる
みたいに処理しづらい映像に対しては、「これちょっとしんどいな……」という拒否感が出る仕組みになっているんですよ。その逆に、
- シンプルな構造
- 規則性がある
- 見慣れたパターンに近い
といった処理しやすい画像には、自然とポジティブな感情が湧いてくるみたいなんですね。
こうなると、「だったら真っ白な壁が一番美しいのでは?」と思っちゃう人もいるかもですが、そこは注意が必要でして、研究チームは「一定の“刺激レベル”を超えないと、そもそも美しさの判断が始まらない」とも指摘しておられます。要するに、真っ白な壁はめっちゃ処理しやすいものの、情報量が少なすぎて脳が働き出さないってことですな。逆に、現代アートのような難解な作品は、最初の印象では「うーん…」でも、じっくり見ることで脳が「報酬」を感じることもあったりするわけです。
というわけで、このデータを見る限り、美しいと感じる画像は脳が省エネで処理しやすい傾向があるようで、私たちの美しさの判断は「脳のコスパ」に影響されてるところも多いんでしょうな。

