「たった15秒で脳年齢を計測できるテストがあるかもだぞ!」という実験の話
認知症といえば、今や世界中で約5,000万人が抱える社会問題のひとつ。しかも、その数は2050年までに3倍に膨れ上がると予想されているから怖いもんです。
ではどうするかってことですが、実は近年は、認知症ってのは、本人も周囲も気づかない20年以上前から静かに進行しているってことがわかっております。「症状が出てから治療すればいい」と思いがちですが、実際には自覚症状が現れる頃には、すでに脳の変化がかなり進んでしまっているものなんですよ。
そのため、最近では「できるだけ早く認知症の可能性をキャッチするのが大事!」って流れがありまして、ごく初期の“隠れた変化”を見つけ出すための新しいチェック方法を、いろんな研究者が探っている状況だったりします。はっきりした症状がない段階で、認知症のサインをチェックできれば、早くから予防に取り組めますもんね。
ってことで、このたびメキシコの研究チームが発表した論文(R)が、ちょっと興味深い方法を提案してくれております。まずはその要点を一言でまとめておくと、
- 「“特定のカテゴリーの単語”を最初の15秒でどれだけ言えるか?」を調べると、その人の“脳の健康度”をそこそこ予測できる!
みたいになります。たとえば、「動物の名前をできるだけたくさん挙げてください!」とお願いされたときに、最初の数秒は誰でも「イヌ、ネコ、ウマ、ゾウ……」と、どんどん浮かんでくるじゃないですか。でも30秒も過ぎると「あれ、他に何がいたっけ?」みたいに、少しずつ詰まり始める人が多いんじゃないかと。で、この「最初の15秒の“単語の瞬発力”」が、認知機能を最もよく反映するかもしれないんだそうな。これは便利なテストですなぁ。
この研究は、40歳以上のスペイン語話者74名(平均56歳)を対象にしたもので、「動物」「果物」「職業」「料理」「家具」などのカテゴリーを使って、みんなに1分の間にできるだけ多くの単語を挙げてもらったんだそうな。その際、1分間の回答を15秒ごとに区切って記録し、「最初の15秒」「次の15秒…」と、時間ごとに分析。その上で、うつや不安症といったメンタルの状態、年齢や教育歴も同時に調査して、すべてをひっくるめて分析したらしい。おもしろい研究っすね。
で、結果がどんなものだったかと言いますと、
- 最初の15秒間で出てくる単語数が、その人の認知機能スコア(MMSEやMoCA)と最も強く連動していた
- 年齢も重要な予測因子だが、「最初の15秒」の単語数は、それと並ぶほど強い指標だった
って感じだったそうです。なんでも、この「最初の15秒でどれだけ大量の単語を出せるか?」ってのは、記憶の貯蔵庫にため込まれた知識を一気に検索する能力に直結してまして、これが認知機能を反映するケースが多いみたいなんですな。逆に、認知機能が低下していると、最初のアイデアもなかなか出てこなくなってしまうそうで、なかなか恐ろしいもんですな。
これに加えて、うつや不安が強い人は、最初の15秒に挙げられる単語が明らかに少ないって傾向もあったそうで、こちらも恐ろしいところです。特にうつ状態では言葉が出てくるスピードが落ちやすく、これに加えて不安感も強かった場合は、後半(30秒以降)になるほどパフォーマンスが低下したんだそうな。
なんだか怖い話ですが、基本的に「心の状態」と「脳の処理スピード」はリンクしているので、この結果も不思議ではないのかもしれません。抑うつ傾向が強いと、頭の中のサーチエンジンが重くなっちゃって、どうしても動作は遅くなるものなんですよね。脳をうまく働かせるためにもメンタルの管理は大事。
でもって、この研究で注目すべきは、「最初の15秒だけで、高精度な脳のスクリーニングができる」ってところでしょう。これなら診察やオンライン面談でもパパっと実施できますし、本人にも負担が少ないですからねぇ。高齢者の認知機能チェックはもちろん、職場や家庭のメンタル&脳ドックとか自分の“脳年齢”のセルフチェックにも活用できそうなのが良いっすね。
もちろん、まだサンプル数が74人ぐらいしかなかったり、参加者が高学歴中心だったり、オンラインゆえの雑音リスクもあったりなど、まだまだ課題が多い研究なのも事実でしょう。正直、もうちょい多様な人を対象にした調査が進まないと、この結果がどこまで使えるのかどうかは判断しづらいところです。あと、MMSEとMoCAという2つの認知テストで結果が割れた(MoCAは“軽度障害あり”が多く出た)のも要注意ポイントで、ここらへんのテストには翻訳や出題形式の違いも絡むので、日本で応用するにはさらなる調整が必要かもしれません。
ここらへんの注意点をふまえたうえで、この研究を実際に使ってみるなら、
- ストップウォッチやスマホのタイマーを用意。
- 「動物の名前」や「果物の名前」など、特定のカテゴリーをひとつ決める(家族や同僚にお題を出してもらってもOK)。
- タイマーを15秒にセットし、スタートと同時に思いつく限りそのカテゴリーの単語を声に出して挙げていく。
- 15秒が経過したらストップし、言えた単語の数を数える。
みたいになるでしょうな。あくまで雑な“目安”でしかないので、数が人より少なくても落ち込む必要はないですが、定期的にやってみて数を記録して自分自身の変化を見るみたいな使い方ならアリなんじゃないでしょうか。どうぞよしなにー。


