「自分の性格には問題がある……」と悩んでいる人は、まずはアイデンティティを整えたほうが良いかも、みたいな研究の話
「パーソナリティ障害」って言葉も、すっかり世に広がった感があるわけです。「パーソナリティ障害」ってのは、いくつかの「性格傾向」が極端すぎて、日常生活に支障をきたすような状態のことを指してまして、
- ネガティブ思考が強すぎて人間関係が続かない
- 衝動的すぎて仕事が安定しない
- 自分に自信がなさすぎて人生に意味を感じられない
といったように、単なる「性格」では収まりきらないレベルの問題が生じるわけです。周囲は迷惑をこうむるし、本人も生きづらいしで、なかなか人生が大変なことになるんですよ。なので、パーソナリティ障害に対して、「情緒が不安定な人」とか「周囲との関係がうまくいかない人」みたいに、なんとなく“トラブルを起こしがちな性格”みたいな理解をしている人が多いかもしれません。
が、最近の研究(R)では、このパーソナリティ障害について「この問題の本質は性格がどうこうって話ではなく、むしろ“自分がわからない”という苦しみにあるのでは?」って結論になっていて、かなーり勉強になりました。要するに、性格が問題なんじゃなくて「アイデンティティのゆらぎ」が本当の原因かもって話ですな。
これはデンマークのオーフス大学が行った研究でして、合計850名以上の一般人と臨床患者さんを対象に、
- 一般的な性格特性(いわゆるビッグファイブ)
- パーソナリティ障害の診断指標(AMPD)
- 日常生活の困りごと(適応機能)
- アイデンティティの問題
といったいろんな観点から、どの要素がいちばん“生きづらさ”に影響しているかを調べたんですよ。良い研究ですねぇ。
なぜこういった研究が行われたかと言いますと、これまでパーソナリティ障害ってのは、DSM(精神疾患の診断マニュアル)に従って、「この人は境界性パーソナリティ障害に該当する!」「いや、回避性の傾向のほうが強いかも!」みたいな“カテゴリー分け”で診断するのが普通だったんですよ。しかし、近年は「人間の性格はグラデーションでできてるんだから、もっと柔軟にチェックしようぜ」って流れが強くなってきてまして、このポイントに取り組むために、あらためて細かくパーソナリティ障害を調べたわけっすね。
その結果、どんなことがわかったのかと言いますと、
- 機能障害(生きづらさを感じていて、うまく生きることができない)に最も強く関係していたのは、アイデンティティの混乱だった!
って感じだったらしい。いまいちわかりづらいかもしれませんが、ここでいうアイデンティティ混乱ってのは、たとえばこんな感覚のことを指しております。
- 「自分がどんな人間なのか、うまく説明できない」
- 「大事な価値観がコロコロ変わってしまう」
- 「心の中が空っぽのように感じる」
こんな風に、自分の輪郭がつかめず、一貫した“自分らしさ”という芯を持てない状態が、アイデンティティの混乱であります。こうした感覚を持っている人ほど、たとえ性格が平均的であっても、日常生活で強い困難を感じやすいことがわかったわけです。つまり、「あなたは神経質すぎる性格だからうまくいかないんですよ」みたいな話よりも、「あなたが“自分らしさ”を持てていないことのほうが、問題の本質なんですよ」みたいな視点のほうが、現実に即しているってことなんですね。「パーソナリティ障害=性格の極端な偏り」という考え方は、ちょっと見直しててみてもいいんじゃないか………と。
まあ、たしかに性格ってのはあくまで“傾向”や“クセ”と呼んだほうが正しいところがありまして、たとえば、ビッグファイブで「外向性が高い」と言われても、
- パーティではしゃぐのが得意
- でも知らない人とは話せない
- SNSでは饒舌だけど、実生活では無口
みたいに、いろんなバリエーションがあるはずじゃないですか。ところが、一般的な性格診断って、こういう“揺らぎ”や“文脈”を捨てて、「あなたはこういう人です!」って断定してしまいがちなんですよね(もちろん、だからこそビッグファイブなどは予測力が高いわけですけど)。
では、この研究を踏まえて、現実の世界でパーソナリティ障害に向き合うにはどうすればいいのか? そこで、カギになりそうなのが、
「自分って何者か?」という問いを掘り下げる
ことであります。これには、人間性心理学(ヒューマニスティック心理学)に近いアプローチで、このブログでもちょっと前に『「本当の自分を知れ!」は、思ったより難しいけど、やる価値はあるぞ!という研究の話』なんて話を書いたりしました。要するに、薬での対処やラベリングだけして終わるのではなく、その人自身の人生史、強み、弱み、関係性のなかにある“個別性”を大切にようぜ!みたいな考え方ですね。パーソナリティ障害ってのは「この薬を飲めばOK」みたいな問題じゃないんで、「自分はどんな人間なのか?」を見つめ直すのが地道ながらも確実な方法なのかもですなぁ。
ということで、今回の研究から学べるポイントをざっくりまとめると、以下の通りです。
- パーソナリティ障害の本質は、「性格の問題」だけじゃなく、「自分がわからない」ことにある
- 性格傾向よりも、アイデンティティの混乱が生きづらさに強く関係しているかもしれない
- なので、治療の現場では、“その人自身の掘り下げ”が必要
- 「自分とは何者か?」という問いは、心理的な健康と回復のための第一歩になる
最近では、性格診断やタイプ分けがSNSでも流行っていますが、それが「自分ってこういう人だから仕方ない」と思い込ませるように働いたら逆効果ですからねぇ。パーソナリティ障害にお悩みの方には、めっちゃ役立つ知見じゃないかと。


