このブログを検索




“私はうまく年を取っている”と言えるようになるために必要な要素はなにか?みたいな研究の話

 

ここ数十年、加齢研究の世界では「老化はただの下り坂ではない」という考えがじわじわと広がっております。かつては「年を取る」って現象にはネガティブなイメージが多く、「人生の終わりに向けた消耗戦」とか言われたもんですけども、近年は「むしろ歳を重ねたからこそ到達できる生き方があるよねー」みたいなビジョンを掲げる研究者たちも増えてきてるんですよ。

 

それと同時に、専門家から「見直したほうがいいのでは?」と言われ始めたのが、「うまく年を取っている人」に関する考え方です。もちろん、うまく年を取るのは大事なんだけど、昔からある「完璧な高齢者像」はちょっとハードルが高すぎるきらいがありまして、たとえば、

 

  • まったく病気をしていない
  • 認知や身体機能になんの衰えもない
  • 社会的にバリバリ活躍している

 

みたいな感じっすね。しかし、実際の高齢者は、なんらかの不調や制限を抱えてることがほとんどなので、とても現実的とは言えない理想像でしかないんですよね。

 

ということで、そんな理想すぎる老化のイメージを見直そうとしたのが、オーストラリア・カーティン大学が新たに行った研究(R)であります。研究チームは、イギリス・アメリカ・オーストラリアの3地域で、約2,000人に以下のような超シンプルな質問を投げかけたんだそうな。

 

  • あなたにとって、成功した老い方ってどんなものですか?

 

この質問をみんなにぶつけてみたところ、参加者の答えは大きく6つのテーマに分類されまして、これが「成功する老い方の6つの柱」とでも呼ぶべき示唆的な内容になってるんですよ。ざっと紹介してみると、

 

  1. 自立と社会参加 →「趣味を楽しむ」「未来の計画を立てる」「ボランティアや仕事を続ける」など、能動的な生活態度がカギ。

  2. 身体活動と健康感 →「適度な運動」「エネルギーがある」「見た目が若い」など、身体を動かすことの大切さが強調されている。

  3. レジリエンス(回復力)と受容 →「昔ほど動けなくても、それを受け入れられること」「自分自身に対する健全なまなざし」がポイント。

  4. 人とのつながり →「家族や友人」「地域との関係」「ペットとのふれあい」など、社会的なつながりが幸福感に直結するっぽい。

  5. 健康の維持・促進 →いわゆる病気の予防や健康管理も当然含まれる。

  6. 認知的な健全さ →「頭がしっかりしてる」「考える力がある」というメンタルの健康も大事な要素。

 

みたいなラインナップになります。どれもこのブログではおなじみの観点ですな。

 

個人的にこの研究がユニークだと思うのは、「“成功する老い方”は、医療的な健康よりも“内面的な姿勢”に左右されやすい」って観点を提示してくれてる点っすね。というのも、この研究で最も多く挙げられたのが“自己決定感”でして、たとえばある参加者はこんなコメントをしております。

 

「かつてできていたことができなくなった。でも、それを受け入れて、“今の自分”を責めないこと。失ったものではなく、新たに得たものに目を向けるようにしている。」

 

こんな風に「変化を恐れずに、自分の選択で“今”を生きる」って態度を保つのが「自己決定感」の要所で、とにかく「昔は〜できたのに」とは言わずに、「今だからできること」を探すのが最大のポイントになるっぽいんですよね。

 

なので、結局のところ「成功する老い方」を見つけるいちばん簡単な方法は、

 

  1. 「私にとって、いい老い方ってなんだろう?」と自分で考える
  2. その答えを自分の意志で実行する

 

みたいになるんでしょうかね。この問いを立てるだけで、意識はずいぶん変わるんじゃないでしょうか。世の中には「老化=ネガティブ」という前提もまだ根強くありますが、今回の研究のように「自分の生き方を自分で考える」ことが、いちばんのアンチエイジングなのかもしれませんなぁ。

 

というわけで、「老い」についてちょっと前向きに考えてみたい方は、以下のステップを試してみると良いかもしれません。

 

  1. 自分にとっての“理想の老い”を言語化する:まずは、静かな時間に「自分はどんな風に歳を取りたいか?」を考えてみる。「自由に旅行がしたい」「近所の子どもたちにピアノを教えたい」「気の合う仲間とコーヒーを飲みたい」など、どんな些細なことでもOKで、紙に書いてみるのがオススメ。

  2. 実現可能な小さな行動を設計する:たとえば「趣味を再開したい」と思ったならまずは道具をそろえる、「人とのつながりを増やしたい」なら近所のカフェに通う、地域のボランティアに1回だけ顔を出す、みたいな小さなアクションを決める。「週1回30分だけやってみる」みたいにめっちゃ小さい行動でもOK。

  3. 過去と比較せず、“今の自分”にやさしくなる:「昔はもっと○○だったのに」と考えるクセを見直し、「今だからこそできること」に目を向けるようにしてみる。気持ちの切り替えがうまくいかないときは、日記をつける、散歩に出る、誰かに話してみるなどの行動で気分を変える。

 

こんな風に、小刻みに自己決定感を高めることが、老いを前向きに変える第一歩になるんじゃないかと思うわけです。 「老いる」ってのはただの衰えではなく、「選び直す自由が増えることだなー」ぐらいに考えてみると、肩の力が抜けていいんじゃないでしょうか。

 

 

 


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM