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ネットを炎上させてる人が、実はネット利用者の0.47%しかいなかった件「ネット炎上の研究」

Nettrolls

 

ネット炎上の研究」って本がやたら面白くてビックリ。「ネット炎上は誰が起こしてるの?」って疑問をデータで解き明かしたうえに、炎上が起きないシステムや政策の提言にまで踏み込んだすばらしい一冊でありました。えらいなぁ。

 

 

ネット炎上に積極的に参加している人は全体の0.47%

本書の問題意識は、「ネット炎上は多くの人の情報発信を萎縮させてしまう!」というもの。炎上が続くとみんなビビっちゃって、良い情報も回らなくなっちゃうんじゃないの?ってことですね。わたしも佐野さんのエンブレム問題のときは「有名になんかなるもんじゃないなー」とか思ったクチですんで、まことにごもっともではないかと(笑)

 

 

研究では、ネットで19,992名にアンケート調査を行い、ネット炎上へ参加した経験をチェックしたんですね。というと「ネットアンケートに答える人なんでヘビーユーザーばっかじゃないの?」という突っ込みが出そうですが、そのへんもちゃんと考慮されております。このあたりのバイアス調整の説明も面白く、統計に興味がある方の参考にもなるんじゃないでしょうか。

 

 

さて、調査の結果わかったのは以下のような話であります。

 

  • ネット炎上に参加したことがある人は全体の1.1%だけだった。
  • そのうち、ネット炎上に積極的に参加している人は0.47%しかいない

 

つまり、どんなに激しく燃え盛っていても、実際にガソリンを注ぎ込んでるのは数十人ぐらいの可能性が高いわけですね。それなのに火事の大きさだけ見ると「全国民が怒っている!」ように錯覚してしまい、ときに社会問題にまで発展しちゃうんだ、と。

 

 

「ネットで暴れてる人って実は少ないんじゃない?」って話は昔からありまして、例えば2014年にマニトバ大学が行った調査だと、「荒らし」の割合はネットユーザー全体の5.6%ぐらいだったとか。「ネット炎上の研究」が出した数値よりだいぶ大きいですが、マニトバ大の調査は「荒らし」の定義が広いうえにバイアスも調整してないんで、実際はもっと低くなるだろうなーと思われます。

 

 

いずれにせよ、ネットを荒らす人間の数が一般的なイメージよりだいぶ少ないのは間違いなさそう。このデータだけでも勇気がわく人は多いんじゃないでしょうか。少なくともわたしはホッとしました。

 



 

ネット炎上の参加者は高所得で子持ちが多い

そのほか、調査から得られた知見としては、

 

  • ネットに誹謗中傷を書き込むのは女性より男性のほうが多い。
  • 若者ほど炎上に参加しやすい。
  • 子持ちほど炎上に参加しやすい。子どもがいるほど政治への関心が高くなるからかも。
  • 年収や世帯年収が高い人ほど炎上に参加している。
  • SNSの利用時間が長い人ほど炎上に参加しやすい。
  • 学歴や住んでる場所は炎上とは関係がない。

 

みたいな感じ。若者やSNSの利用時間は感覚的にも納得ですが、年収が高いほど炎上に参加しやすいってのはおもしろいですねぇ。

 

 

本書ではネットの炎上ユーザーを「特異な人たち」と呼んでるんですが、残念ながら彼らの人間性に関する統計調査はなし。その代わりにいくつかの事例紹介がついてまして、これを読む限りでは「ダークトライアドじゃないの?」としか言いようがない印象であります。

 

 

ダークトライアドは、マキャベリズム・ナルシシズム・サイコパスという3種類の性格を合わせた呼び名でして、どの社会にも一定数が存在すると考えられております(サイコパスは1%ぐらい)。くわしくは「サイコパスとナルシストは顔を見ればわかるらしいぞ」をご参照ください。

 

 

実際、上にあげたマニトバ大論文(1)でも、荒らしのパーソナリティを調べたら、ダークトライアドとサディズムの数値が飛び抜けてたそうな。本書のなかでも、「ネットの誹謗中傷で逮まった犯人は、誰も後悔の念を見せなかった」なんてエピソードが紹介されてまして、いかにもサイコパスっぽい感じ。

 

 

また、2013年に出た調査(2)などを見ると、ダークトライアドの特性を持つ人は経済的に成功してるケースが多いんですよね。サイコパスはリスクを恐れないし、ナルシストは表面的な魅力が高いし、マキャベリストは人心操作が上手いんで、企業内で成功する確率が高いんだそうな。このあたりが、炎上ユーザーの年収の高さに結びついてるのかも。

 

 

もしネット炎上の原因がダークトライアドなら、本書で提案されてる「サロン型SNS」(誰でも情報を読めるが、発信者は限定する)の仕組みはかなりよさそう。なんせダークトライアドは「誰かを痛めつけたい!」って衝動で動くので、発信さえ限定しちゃえば興味が薄れそうですもんね。

 

 

そんなわけで本書は、ネットで情報を発信してる方はもちろん、ネットを使うすべての人に激しくオススメ。ネット炎上の世界だけでなく、「世の中そんなに怖い人はいないんだよー」というポジティブな事実を、あらためてデータ付きで伝えてくれる意義深い一冊かと思います。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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