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「パワーポーズ」で本当に最高の自分は創れるのか?

Power

 

自信よりもプレゼンスを目指せ! 

「〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る」を読み終わりました。著者のエイミーさんはハーバード・ビジネス・スクールの教授で、以下のTEDの動画で有名になった方であります。

 

 

  

エイミーさんの主張をざっくり言うと、「自信をつけたきゃ自信があるフリをしろ!」というもの。カラダとココロは連動しているので、意識して自信ありげな姿勢や態度をとっていれば、遅れて自然に自信がわいてくるんだ、と。

 

 

ただし、本書の原題は「プレゼンス(存在)」でして、一般的な「自信」よりももうちょい広い概念を指しております。エイミーさんいわく、

 

真の自分を発揮するためには、自身のさまざまな側面、感情、思考、表情、しぐさ、行動などが一致していなくてはなりません。

 

とのこと。自分のポテンシャルを引き出すには、考え方や感情などがシンクロしている必要があるわけですね。マインドフルネスとかフローなんかにもつながる考えかたですな。

 

 

本の前半は、ほぼ「プレゼンス」の説明に使われてるんですが、心理学における「自信」研究の総ざらいみたいな感じで楽しく読めます。要するに、たんに自分の価値を信じられるだけでなく、すべての要素がスムーズにリンクしていないとプレゼンスにはならないんだ!って話でして、このあたりは激しく納得でした。

 

 

たとえば、ウソをついている人は思考と感情としぐさがバラバラになるので、時間がたつほどプレゼンスは崩壊。幸福感が下がるのはもちろん、相手にもどこかうさん臭い印象をあたえちゃうわけですな。

 

 

ほかにも、下心を隠しながら女性と会話をしていれば、やはりコミュニケーションの内容にまで意識が向かわず、どうしてもギクシャクした身体表現になりがち。その結果、相手に挙動不審な印象を持たれちゃったりとか。異性とのコミュニケーションが苦手な方に、ありがちな現象と申せましょう。



 

 

 

  

しかし、パワーポーズには不利な結果が出ている

 というわけで前半は非常に楽しいわけですが、どうにもモニョってしまうのが後半のパートであります。

 

 

ここでエイミー博士は、自身の実験を引き合いにしつつ「パワーポーズでプレゼンスを身につけよう!」って主張を展開していくんですね。パワーポーズは「自信がある人が自然に取るしぐさ」のことで、具体的には以下のような感じ(1)。

 Body language power

 

エイミー博士の実験では、これらのポーズを数分取るだけでテストステロンがアップし、リスクを恐れずに行動できるようになったというんですな。これは数年前にかなり話題になった研究で、わたしも「これはすばらしい!」と思った記憶がございます。

 

 

が、実はエイミー博士の実験は2015年に追試(2)が行われてまして、パワーポーズに不利な結果が出ちゃったんですよ。

 

 

追試を行ったのはチューリッヒ大学の研究チームで、200名の男女を対象にしたもの。エイミー博士のオリジナル論文は参加者が21名だったんで、このあたりも追試のほうが有利であります。

 

 

実験の方法はオリジナル版と同じで、みんなにパワーポーズを取ってもらったあとで、テストステロンや態度の変化をチェック。続いてギャンブルゲームをプレイしてもらい、自信に満ちた行動が取れるかどうかを調べたらしい。

 

 

その結果をならべると、

 

  • テストステロンの増加はみられなかった
  • リスクを恐れずに行動するようにはならなかった
  • ただし、一時的に気分が改善した参加者は多かった

 

みたいな感じ。パワーポーズは少しのあいだ気分がよくなるだけで、実際の行動やホルモンレベルには何の影響もないんだ、と。完全にエイミー博士の実験が否定された形であります。

 

 

もちろん、エイミー博士もすぐに新たな論文(3)を出しまして、33件の過去データを取り上げたうえで反論を展開。

 

  • 追試ではパワーポーズの効果を事前に参加者へ説明したのがよくなかったんじゃないか?
  • パワーポーズの時間が長すぎるんじゃないか?

 

 みたいな疑問を述べております。

 

 

この議論にはまだ決着がついてないものの、正直、いまの時点ではエイミーさんのほうが不利な印象。追試のほうがサンプル数が多いのもありますし、反論で出てきた33件のデータをみると、どれも効果が小さすぎて「パワーポーズは使える!」って結論を出しづらいんですよ。

 

 

そもそも「パワーポーズの効果を事前に参加者へ説明すると効果がなくなる」って反論が正しいとすれば、「〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る」を読んだ時点で、パワーポーズの効果がなくちゃっちゃうんじゃなかろうか、と。

 

 

まぁ追試でも「パワーポーズで短期的に気分が良くなる」って結果は出てるんで、あくまで軽くヘコんだときの応急処置にはいいのかも。そこから実際の行動へつなげるためには、さらに別のブーストが必要になっていきそうな感じではあります。

 

 

そんなわけで、本書はいろいろと楽しい一冊ではありながら、「パワーポーズ」については強力な反証が出ちゃったことは押さえておきたいところ。個人的にはマインドフルネスセルフコンパッションのほうが性に合う感じ。

 

 

2016/09/30追記:その後、パワーポーズにはさらに不利な見解が出てしまいました。うーん、残念。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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