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少年ジャンプの性描写で性犯罪は増えるのか?問題

Minmin

週刊少年ジャンプの性描写が話題になっておりました。


お色気シーンがヒドすぎる!性犯罪を助長する!という議論でして、「電影少女」や「バスタード」世代の私からすると「そんなに過激かなぁ…」とも思うわけですが、とりあえず昔から定番の話題ではありましょう。


ただ、否定派の弁護士さんたちの話を見てると、いずれも「嫌だからダメだ!」ぐらいの話しかしてませんで、特に具体性はない感じ。ってことで、そのへんのデータをまとめてみようではないか、と。




1.漫画の性描写はダメ!派に有利なデータ 
ってことで、まずは「性描写は性犯罪を助長する!」派に有利なデータから。2015年にウィスコンシン大学が「メディアの性描写って性犯罪と関係あるの?」って問題をメタ分析したんですな(1)。


これは過去に行われた22件の観察データから、7カ国におけるポルノの視聴量と性的な行動の変化をくらべたもの。その結果をざっくり申し上げますと、

すべての行動と同じように、攻撃的な性行動は、様々な要素が組み合わさって起きる。多くのポルノユーザーは、攻撃的な性行動を取るわけではない。

しかし、多くのデータを分析すると、ポルノを多く消費する人ほど攻撃的な性行動に結びつくような考え方を持ち、実際の行動に出る確率も高いのは疑いようがない。

とのこと。メディアの描写は本当に有害な影響をあたえるんだ、と。なかなか説得力がありますねー。


が、これは観察研究なので、当然ながら問題点もいろいろあるわけです。たとえば、

  • ポルノのせいで攻撃的になるのか、攻撃的な人ほどポルノが好きなのかはわからない
  • このデータは「セクハラ発言」なども問題行動としてふくんでいるため、結果が大げさに出ている可能性が高い
  • 各国によって犯罪統計の取り方が違うため、変数のコントロールができない

といったところ。もちろんセクハラオヤジは嫌なもんですが、「最近ごぶさたなんじゃない?ウヘヘ」みたいな発言までふくめちゃうと、当然ながら数値は上振れするでしょうからね。


2.漫画の性描写は問題なし!派に有利なデータ 
続いて、「漫画の性描写は問題なし!」派に有利なデータです。まず代表的なのは1991年の研究(2)で、アメリカ、西ドイツ、デンマーク、スウェーデンで20年分の性犯罪データを調べたうえで、性的なメディアの普及度とくらべたんですな。


その結果をざっくり並べると、

  • 特に性的なメディアが広まったからと言って、性犯罪の発生率が増える現象はなかった
  • 西ドイツでは、逆に性的なメディアが広まるごとに性犯罪の発生率は減った

 といったところ。性的なメディアと性犯罪の増加は連動してなかったみたい。


この現象は、1999年に日本とインドネシアを対象にした調査(3)でも確認されております。上の研究と同じく性犯罪と性的なメディアの普及度をくらべたもので、

(1972〜95年の間に)日本では膨大なペースで性的なメディアの流通量が増えた。しかし、いっぽうで日本の性犯罪の件数は低下を続けている。

 って結果だったそうな。もちろん、これは「性的なメディアで性犯罪が減る!」って話じゃないものの、

  • 性的なメディアが増えたからといって性犯罪も増えるわけではない!

 とは言えましょう。いやー、難しくなってまいりました。


3.計量経済学の手法で調べたら「性的メディア無罪!」
そんなわけで、いまんとこ「これが答えだ!」って研究はないんですが、そのなかで面白いのが応用経済学の分野から出てきた2006年の論文(4)であります。


これはマヒドン大学の研究で、性的なメディアと性犯罪の関係を調べるために「操作変数法」を使ったんですな。これは、いろいろと要素が多くてよくわからん問題を解きたいときに使われる方法で、この研究では、以下のようなプロセスで解析しております。

  1. まだインターネットが普及してない、1990年代より前の性犯罪データを調べる
  2. 私書箱の利用者の増加率を調べる(※私書箱の増加と性的なメディアの普及率には明確な相関がある)
  3. 性犯罪と性的なメディアの横断研究に私書箱のデータを組み込む

 つまり、私書箱と性犯罪は互いに影響しないと考えられるので、たんに性的なメディアの普及率とくらべるよりもハッキリした関係性が出るわけですね。よく考えましたなぁ。


 で、結論がどうだったかと言いますと、

  • 性的なメディアの増加は性犯罪の低下と関係がある!

 って感じで、多くの観察研究と近い結論になってます。まぁ、なんか煙に巻かれたような気分になる方も多そうですが、個人的には「なるほどなー」と思わされましたね。


まとめ
そんなわけで、基本的には「よくわからん」ってのが結論なわけですが、少なくとも「メディアの性描写で犯罪が増加!」説を実証したデータはなさげ。規制の根拠としてはかなり弱いかなーという印象であります。


あと、日本の性犯罪率を調べた1999年論文(3)のなかで、「こんなに日本は極端な性描写が出回ってるのに性犯罪率は下がってる!凄い!」とか驚いてて笑っちゃいました(笑)
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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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