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収入が下がると脳機能が下がり脳のサイズも小さくなるかも?という怖い観察研究の話

 

金に困ると頭が働かなくなる!」ってのはムッライナタン先生の「いつも『時間がない』あなたに」でも主張されてる話。これは経済学系のデータでよく言われることで、どうも人間ってのは「時間がない!」とか「お金がない!」といった状況下では、うまく脳が動かなくなりがちみたいなんですよ。

 

 

で、新しい実験(R)も似たようなポイントを調べていて、これがなかなか参考になりました。

 

 

これはフランス国立保健医学研究所の調査で、研究チームの問題意識はこんな感じ。

 

所得の不安定さは1980年代から記録的なレベルに達している。近年の研究によれば、この所得の不安定さメンタルヘルスや心疾患リスクの悪化と関係がある可能性を示している。

 

しかし、今回の研究は、所得の不安定さと認知機能の関係を調べた初めての内容だ。

 

とのことで、昔から「お金の心配があると心も体も悪くしちゃうのでは?」と言われてたし、「いつも『時間がない』あなたに」で紹介されたデータのように認知への影響も指摘されてきたけど、長期的に「お金と認知」の関係性を調べたものってないよねー、ってのが調査の動機になっております。

 

 

そこでどんな研究が行われたのかと言いますと、

 

  • 3,287人の若者(20 〜 35歳)を集めて、1990年〜2010年にかけて6回の調査を実行
  • 調査では全員の税込み所得をチェックしつつ、言語記憶や情報処理能力、実行機能なども判定。さらにはMRIも使って脳のボリュームまでチェック

 

といった感じになってまして、確かにかつて例のないレベルの観察研究ですね。

 

 

でもって、調査の結果、参加者を3つのグループに分けまして、

 

  1. 調査期間中に収入が低下しなかった人たち(インフレ率は調整済み)
  2. 収入が25%以上下がった人たち
  3. 調査期間中、収入が25%以上下がる体験を2回以上経験した人たち

 

すべてのデータを認知テストやMRIの結果とくらべたら以下のような傾向が確認されました。

 

  • 収入の減少は、認知機能の低下と相関していた(とくに情報処理スピードと実行機能のパフォーマンスの低下がいちぢるしかった。また、言語記憶の低下とは相関なし)

 

  • さらに、何度も年収が下がった人は、脳のボリュームも減る傾向があった

 

だったそうで、なんだかイヤーな結果ですねぇ。この傾向はBMIや血圧、喫煙習慣、運動習慣といった要素を調整しても確認されたんだとか。うーん、恐ろしい……。

 

 

もちろん、これだけで「収入が減ったら頭が悪くなる」とは言えないわけですけども、研究チームはこう申しておられます。

 

あり得る仮説としては、(年収が下がったせいで)不健康な行動をとる確率が増えたり、心理的なストレスが増加したり、環境の悪化を余儀なくされたり、神経を刺激してくれるような新たな体験の量が減ったり、ソーシャルサポートが減ったりといった事態が起きるからではないだろうか。

 

とのことで、収入が減ったせいでストレスが増え、健康的な活動ができなくなる可能性が示唆されておりました。まぁあり得るかもですね。

 

 

ちなみに、このデータの難しいポイントとしましては、

 

  • 収入の調査が自己申告に頼ってる
  • 認知テストがベースラインを計測してない

 

みたいなとこもありまして、今後のテストでは覆る可能性もあるかなーというところ。とりあえず、「お金のストレスはやっぱ心身に良くないのかなー」ぐらいにとらえとくとよさげです。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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