「この思考はもう考えない!」とがんばれば良いアイデアが出やすくなるのでは?という仮説の話
よく「思考を抑制するのは意味がない」なんてことを言うわけです。有名なのはウェグナーのシロクマ実験(R)で、「シロクマのことだけは絶対に考えないでください」と言われると、逆にシロクマのことばかり考えちゃう現象が確認されております。つまり、何かを考えないようにがんばるほど、逆にそのことが頭から離れなくなっちゃうわけっすね。
が、新しいテスト(R)では、この「思考を強引に押さえつける方法も意外と役立つのでは?」みたいな結論になってておもしろいです。
これは60人の男女を対象にしたテストで、みんなにいろんな写真を見せたあと、3つの技術のいずれかを使って記憶をクリアにするように指示したらしい。
- 置き換え:画像の思考を別の思考(山とかリンゴとか)と置き換えてみる
- クリア:心からすべての思考をクリアにするよう頑張る(瞑想に近いイメージ)
- 抑制:いったん自分の思考に焦点を当ててから、意図的にそれをストップするように頑張る
その際に、全員の脳をスキャンして、本当に思考が消えたかどうかをチェックしたら、結果はこんな感じになりました。
- 「置き換え」と「クリア」のほうが、よりスピーディに思考を減らすことができた
- ただし、「抑制」は効果が出るまで時間がかかったものの、思考を完全に消す効果が高かった
ってことで、どうやら「抑制」のほうが時間はかかれど、その分だけ思考を消す作用は強かったらしい。
チームいわく、
私たちのワーキングメモリ(記憶の短期貯蔵庫)には、一度に3つか4つの思考しか保存できない。
そこに新しいアイデアを浮かべるためには、汚れた皿でいっぱいのシンクのように、いったんワーキングメモリをきれいにしなければならない。
とのこと。なんか生産的なことをするためにはワーキングメモリが必要なんで、良いアイデアを思いつくためにも、いったん脳の作業場をクリアにしなきゃいけないよーってことっすね。
要するに、頭からすぐに何かを取り除きたい場合は、『クリア』や『置き換え』を使ったほうがよい。
あなたの脳に新しい情報を取り込むために頭を空にしたいなら、『抑制』を使うほうがよいだろう。
ってことなんで、
- ネガティブな思考をクリアにしたいなら『クリア』や『置き換え』を使用
- 仕事のパフォーマンスを上げたいのに無関係なことを考えちゃうような場面では、『抑制』を使う
みたいに切り分けたほうがいいのかもしれませんねぇ。
多くの人たちは、しばしば『この問題を解決するためには、もっとがんばって考えなければ!』と思いがちだ。
しかし、臨床研究によると、このような『がんばって考える作業』は、あなたの視界をせまくしてしまい、逆に抜け出すのを難しくしてしまうだろう。
あなたが本当に新しいアイデアを欲してるのならば、古いものごとを考えるのをやめるために、意図的に思考の強制停止を行う必要がある。
要するに、みんな良いアイデアを出そうとしてがんばるんだけど、それだとワーキングメモリに負担がかかるばかりで、逆に視野がせばまってしまうわけですな(いわゆるトンネルビジョンっすね)。ところが、ここでいったん「抑圧」のテクニックを使って脳に余裕を持たせてやると、そのぶんだけ多くの情報を一度にあつかえるようになり、結果として良いアイデアも思いつくようになるだろうって話です。
言われてみれば、認知行動療法の世界でも「嫌なことを考えそうになったら架空のクリアボタンを押せ!」みたいなテクニックは普通に使われますんで、思考の強制停止も十分に効果的なテクニックなのかもですなー。