退屈をうまく使って"自己分析"をはかどらせる方法
「退屈が嫌い!」って人は多いかもですが、なにごとにもメリットとデメリットがあるのが世の常。実際のところ、
みたいな話もありまして、退屈も使いような気がするわけです。
でもって、イーストロンドン大学のティム・ローマズ博士による研究(R)では、「退屈を有効に使う方法」について新たな知見を提案してくれておりました。といっても、これはそこまで厳密な研究ではなくて、
- ローマズ博士自身が、シンガポールとロンドンを結ぶ飛行機に乗る
- フライトが始まってからしばらくは、いかなる種類の娯楽や気晴らしもしない
- その後、携帯電話を1分ごとに振動するように設定し、そのたびに自分の精神がどんな経験をしているかを簡単にメモする
- 1時間にわたって内省メモを取り続ける
みたいなないようになってます。つまり、あくまで博士の個人的な体験をひたすら書き出したわけっすね。
「そんな研究アリなの?」と思われそうですが、これはいちおう「解釈的現象学的分析(IPA)」って手法にもとづいてまして、意外と歴史のあるやり方だったりします。あくまで主観的な体験ですが、それはそれで重要なデータとして考えられるわけっすな(もちろん批判も多い手法ではありますが)。
で、具体的にどんな記録ができあがったかと言いますと、こんな感じです。
- 開始1分「 なぜこんなことをするのか、無駄なことだ」
- 開始2分「1分おきになんか書くの辛い!」
- 開始3分「時間過ぎるのはやっ!」
- 開始4分「あ、PCの画面汚いな」
- 開始5分「頭がぼーっとしてきた」
- 開始6分「PC画面に変な表示があるな」
- 開始7分「なんか音の波の中にいるみたい」
- 開始8分「「suites」という言葉の語源なんだろ?」
といった記述が60分まで続きまして、なかなかシュールなデータになっております。
そのうえで、すべての作業を終えて博士が何に気づいたかと言いますと、
- 最初は退屈だったが、やがて自分の思考を本気で観察し始めると、時間が早くなったり遅くなったりする感覚が交互に現れ、やがて二つの感覚が共存するようになった
- 「CAさんの制服に美しい模様があることに気づいた」など、今まではなんとも思わないこと好奇心が芽生えた
- 自分の思考が「不意に出てくる」ことに気づかされた
みたいな感じだったそうな。ローマズ博士いわく、
退屈とは、必ずしも一般に考えられているような無価値の状態ではない。むしろ魅力的な経験や新たな洞察をうながすことができる手段だ。
とのこと。お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、確かに博士が報告した感覚は、いずれも観察系の瞑想を行なったときの変化に似てるんですよね。私の場合も、しばらくヴィパッサナー瞑想などをすると、時間の流れが変わったり、日常の小さなことがおもしろくなったり、自分の思考の出現に敏感になったりといった体験をしてまして、「同じだなー」と思いました。
もちろん、これは個人のデータでしかないので、博士自身も「この研究は、退屈とは少なくとも否定的で満たされない状態ではないとの可能性を示唆するケーススタディ」だと釘を刺しておられます。が、個人的にこの実験は「新しい瞑想のテクニック」としても使えるんじゃないかなーと感じてまして、特に「黙って呼吸を観察するのは苦手で……」みたいな方は試してみるといいんじゃないかな、と。個人的にもちょっと試してみようかと思います。