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ひとりだと脳の働きが拡大されないからグループマインドが必要だよね!みたいな話 ----「拡張された精神」

 

というわけで、近ごろちょこちょこ紹介している「拡張された精神」って本の覚え書きの続きです。

 

 

前回は「現代の仕事環境は人間の脳に向いてない」って話を押さえましたので、今回は最後に「周囲の人間が脳の働きに与える影響」について見ておきましょう。仕事場の環境によって知性の発揮され方が違うように、ヒトの脳は周囲の人間によっても脳の働きが変わってくるわけですね。

 

 

事実、友人の影響力の大きさは過去に何度も報告されていて、

 

 

といったデータがあったりしますからねぇ。人間は社会的な動物なんで、そりゃそうだよなーと言いますか。

 

 

にも関わらず、「現代人の多くは『個人』を重視しすぎじゃない?」と著者は憂いてまして、そこが本書の大きな問題意識になってます。確かに、ビジネスや教育のみならず、アートの世界などでも「能力値が高い個人」みたいな存在にフォーカスが当たりすぎるきらいはありますな。

 

 

が、当然ながら個人の作業には限界がありまして、他人の助けがなければ自分だけの思考に凝り固まってしまい、満足なアイデアが出せなくなるのはわかりやすい話でしょう。特に情報量が多すぎるタスク、複数の専門知識が必要な場面、多くの要素が絡み合った複雑な問題を抱えている場合では、個人でどうこうするのは難しいですからね。

 

 

そんなわけで本書では、「グループマインド」の重要性を強調しておられます。これは、すごーく雑に言うと「人が集まってひとつになって考えること」で、グループ内のメンバーを単一の「私」ではなく、「私たち」と自然に考えられている状態を意味します。

 

 

グループマインドの利点もまた複数の実験で報告されてまして、

 

  • 注意力が高まる:チームが同じ対象や情報に同時に集中することで注意力の共有が生まれ、ひとつのタスクに多くのリソースを注ぐことが可能に。その結果、学習効果や記憶効果が高まっていき、正しい情報に基づいて行動する可能性も高くなる。

 

  • モチベーションの向上:グループへの帰属意識が高まることで、モチベーションがアップしやすくなる。その結果、失敗に強くなり、仕事がより楽しくなる。これは内発的なモチベーションなので、金や名誉といった外発的なモチベーションよりも持続しやすい。

 

といったデータが存在しております。人間はコミュニティへの所属を求める生き物なので、それがモチベーションの改善につながるのは当然でしょうね。

 

 

ただし、グループマインドを活性化させるには、単に一緒に作業するだけでは不十分でして、なんらかの方法で集団のスイッチを入れねばなりません。日本の会社でも、グループがまったくひとつになっておらず、効率がめちゃくちゃ悪いケースはおなじみですからね。

 

 

では、どうすれば「グループマインド」のあるチームを作れるのか?ってことで、著者は4つの処方箋を提示しておられます。

 

 

 

処方箋1. 一緒に学ぶ

まず提案されてるのが、ひとりで自分のペースでだけ学習するだけでなく、チームのメンバーと一緒に勉強するってやり方。例えば、

 

  • 仲間になった者同士で教え合う
  • 学習内容をみんなでディスカッションする

  • 参加者でお互いに意見を交換しながら答えを導きだしていく
  • グループで特定のお題についてリサーチを行い、みんなでプレゼンしてもらう

 

といったやり方がありまして、いわゆるアクティブラーニングとかグループワークの考え方ですね。その効果はすでに認められていて、仲間と一緒に新しい概念を理解すれば学習効率も上がるし、活発なコミュニケーションが生まれるしで、グループとしての親密度が上がることがわかってたりします。

 

 

 

処方箋2. 一緒にトレーニングする

上記と同じような考え方で、グループで一緒にトレーニングをしてみるのも吉。調査によると、チームがグループとして一緒にトレーニングを行うと、以下のようなメリットが得られるんだそうな。

 

  • 個別のトレーニングよりも今後のプロジェクトでのエラーが少なくなる

 

  • 部門や分野を超えた会話が進むためサイロ効果が軽減される(サイロ効果は、専門家が進むことで他の部署や事業者とコラボレーションができず、特定の考え方に凝り固まってしまう現象。いわゆるタコツボ化)

 

  • チームメンバーと一緒にトレーニングすると、グループ全体のパフォーマンスが向上する

 

というわけで、とりあえずは個人のトレーニングよりもメリットは多いみたいなんで、なんらかのスキルに磨きをかけねばならないときは、集団でやってみるのがおすすめです。

 

 

 

処方箋3. 感情を共有する

みっつめの処方箋が感情の共有です。チームで一緒に考えねばならない場面では、たんにプロジェクトの中身やリソースだけを共有するのではなく、感情もシェアしとこうぜ!って考え方ですね。感情は社会的な接着剤の役割を果たすので、チームをひとつにまとめるには欠かせないんですよ。

 

 

こちらは戦場での紛争や自然災害の生存者を対象とした研究から得られた知見ですが、グループを団結させるための手法はそれほど過酷である必要はなくて、「他の人に自分の気持ちを話してもらう」ようにうながすだけでもOK。研究によると、グループメンバーに「もっと率直に話そうぜ!」と持ちかけ、「めちゃくちゃ、感情を聞きたいんだよ!」って気持ちを強調することで、少しずつグループマインドが育っていくと報告されているんだそうな。

 

 

ただし、ここで自分だけが「率直に!」といっても話が進まないケースは多いので、まずは自分から素直な感情を吐露する必要はあります。まずは自分から口火を切らないと、全体は動きづらいのでご注意いただければと。

 

 

 

4. 儀式に参加する

グループマインドを鍛える最後の処方箋は、「みんなで儀式を行おうぜ!」というものです。儀式といっても怪しいものじゃなくて、要するに「グループのメンバーが一緒に参加する、意味のある組織的な活動」であればなんでもOKであります。

 

 

シンプルな儀式の有効性を示す例としてはバブソン大学が行った実験がありまして、同氏は132人のMBA学生を対象に、ふたつの企業の契約交渉をシミュレートするロールプレイングゲームを行ったんだそうな。このシミュレーションは、相手の好みを見極めることができた学生が最も成功するように設計されており、ベンチャー全体の利益を最大化するためには、自分の会社の利益だけを考えるのではなく、相手側と協力しなければならないんですな。

 

 

その結果、何がわかったかと言いますと、

 

  • 交渉の際に一緒に食事をした参加者は、食事をしなかった参加者に比べて、平均で12%高い利益を得ることができた

 

だったそうです。要するに、「一緒の食事」といった普通の儀式でもグループマインドは育ち、そのおかげで収益も上がるのではないか、と(あくまでシミュレーションではありますが)。

 

 

 

そんなわけでグループマインドを鍛える手法は以上ですが、一方で著者は「グループマインドにはデメリットもあるから気をつけてね!」と言っておられます。どういうことかと言いますと、

 

  • グループマインドで集団の慣習に従いすぎる結果、本当だったら否定したはずのアイデアでも、他人の意見に賛同してしまうことがある

 

  • みんながひとつになりすぎた結果、会議の席などで最初の人が発言したことに全員が賛同し、最後までそれに引っ張られてしまうケースが多い

 

のような話です。チームの仲が良いのはいいことなんだけど、そのせいで同一性が高まりすぎてしまい、多様性がある意見が生まれにくくなるわけですね。いわゆるグループシンクですな。

 

 

ここらへんは痛し痒しの問題なので、グループマインドを意識しつつ、意識的にひとりの時間を確保していくしかないんでしょうなぁ……。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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