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2022年3月に読んでおもしろかった6冊の本と、2本の映画と1本のバラエティ

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2022年1月版です。あいかわらず新刊の作成で死んでまして、今月に読めたのは15冊ほどで、映画は1本も見られませんでした。つらい……。

 

 

 

アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第3巻 生化学・分子生物学

 

2021年6月からチビチビ読んでたシリーズの最終巻をやっと読了。言わずとしれた生物学の基本書ですが、この3巻はATPとか遺伝子組み換えみたいに運動や食事とのつながりが強い分野の記述が多く、すぐに自分の生活改善にも取り入れやすい……とは言わないものの、あらためて「人体精密すぎる!」と思わせる記述が多いし、これからの健康管理のブレイクスルーに関わる知識が詰まってますんで、押さえとくと役立つんじゃないでしょうか。

 

 

 

心理学をまじめに考える方法

 

こちらも言わずと知れた心理学の基本書で、いまんとこの最新版。心理学と銘打ちながらも1〜7章までは「あらゆる科学に共通する考え方」をていねいに教えてくれる内容になってまして、「そもそも科学ってどういうことなの?」とか「クリティカルシンキングって何?」みたいな方の欲求も満たしてくれることでしょう。ちなみに2016年の本なんで、ここ数年話題の「心理学の再現性の危機」などには触れられてないのでそこはご注意ください。

 

 

 

ゲノム編集食品が変える食の未来

 

「ゲノム編集とかよく聞くけど怖くないの?」とか「ゲノム編集って何が違うの?」という方に好適な一冊。ゲノム編集食品の可能性をわかりやすく教えてくれるだけでなく、「いかにリスクのレベルを判断して管理していくか」という現代人にとってマストな考え方の枠組みの基本も学べますんで、非常によろしいのではないでしょうか。

 

 

 

野の古典

 

エロ描写満載の「古事記」や「御伽草子」とか、ゲスな恋愛ばかりな「伊勢物語」とか、日本の古典における学校では教えてくれない部分を選別して教えてくれる本。「論語」パートの「40にして惑わずってのは、日本で広まってる意味とは違うんだよー」とか、「古今和歌集って呪詞だよねー」とか、古典の独特な読み方を学んでいくうちに、「身体性がある読書って現代では失われたスキルだよな……」みたいなことを考えさせてくれる良い本でした。個人的には「能は観客を夢幻のうちにさまよわせるために意図的に眠くなるようにしている」って話に「マジか!」って気分になりました。

 

 

 

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか

 

落合さんが中日の監督をやってた頃の話を、周囲の選手目線からまとめた本。わたくし、いまだスクイズの意味すらよく知らないレベルの野球音痴なのですが、本書は「コーチングってどういうこと?」という誰もが共感できるポイントに触れてまして、読み応えがございました。これを読む限り、落合さんはビッグファイブでいうところの「内向性超高め+協調性超低め」の組み合わせな印象で、「古い慣習とか古い組織を改革するのってこういう人だよなー」とか思いました。ここで披露される落合式のコーチングは、選手によってはぶっつぶれるケースもありそうですが、そのあたりもふくめておもしろかったです。

 

 

 

冗談

 

ここんとこずっとやってる「未読の古典を読んでみよう」シリーズの流れで読んだ一作。原著が1967年なんで現代小説に属する作品ですけど、まぁミラン・クンデラさんはすでにレジェンド作家なので、勝手に古典枠に入れさせてもらっております。

 

で、本書は、共産主義の国で暮らす青年が軽い冗談一発で人生が崩壊する話で、当然ながら今のロシアの状況に重ねながら読んだわけです。が、個人的には、共産主義社会の閉塞を書いた話というよりは、「ちょっとのボタンのかけ違いでその後の人生が決まることってあるよねー」系の話として楽しめました。デカい歴史の中では人生なんぞ風の前のちりに同じ系の話とも言えますか。

 

 

 

ウエスト・サイド・ストーリー

 

わたくし、本作のもとになったミュージカルは「イキりチンピラの無益な小競り合い」としか思えず、バーンスタイン先生の音楽だけを楽しんでいたタイプの人間でございました。ところが、このスピルバーグ版は、気合が入りまくった絵作りをベースに「社会から弾き出された人間の悲喜劇」を強調してくれていて、ようやく「これならわかる!」って気分にさせられて良かったです。もちろん、チンピラがイキリあうところは今も昔も同じなんですけど、今作は「基本的にいろんなもめごとは二項対立のイキりあいで起きる!」って真理をより強く見せつける感じになってますね。

 

 

 

ドリームプラン

 

ふたりのテニス王者を育て上げた父親の実話。というと、感動ファミリースポ根ドラマが想像されますが、実際に描かれるのは「ずば抜けた狂気で概念の牢獄を突破する男」の物語で、「なぜ最強のテニスプレーヤーが生まれたのか?」や「真のコーチングとは?」といった論点はほとんど深堀りされない珍妙な味わいの作品になってます。スポ根ものを想像して鑑賞すると肩透かしは間違いないすね。

 

ただし、男が見せる狂気の背景には、人種差別への抵抗と家族愛が横たわっているもんで、「俺は正面から限界を打ち破る」と言い続けた男が、娘たちとともにテニスコートの正面から出ていくラストにはやはり胸アツ。「この人はやりすぎだけど、うーん、でもやっぱこういう人じゃないと世界を変えられんのかなぁ……」とひたすら思わされる、絶妙なバランスに感服しました。いろんな人に嫌われながらアップルを成長させた、スティーブ・ジョブズのストーリーと似てますかね。ウィル・スミスの制裁ビンタばかりが話題になってますが、見て損のない映画かと存じます。

 

 

 

トークサバイバー

 

ドラマとトークを組み合わせたバトル系エンタメ。徹底して頭脳だけを酷使させるルール設定になっていて、それぞれ脳の働かせ方が違う芸人さんが異なる技をくりだす様子は、さながらジョジョとか呪術廻戦系の異能バトルのごとし。なかでも、普段は話術で勝負しないタイプの芸人さんが、あるトークテーマを与えられた瞬間に無双するシーンには激しく感心しまして、「お笑いに限らずすべての表現はフレームの設定で決まる!」ってのをあらためて痛感した次第です。勉強になるなぁ。

 

 

 

その他、おもしろかったもの
  • 競売ナンバー49の叫び:トマス・ピンチョンの「一番読みやすい」と言われてる作品。それでもかなりの読みにくさでしたけど、目に入るすべてのものが意味ありげに見えちゃう世界観は好きでした。
  • 九条の大罪:巻が進むにつれてウシジマくんと違いがなくなってきた感もありますけど、やはりおもしろい……。
  • ジャンボマックス:日本版ブレイキング・バッドのノリで進んでいて、いまんとこめちゃ楽しいです。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。