2021年6月に読んでおもしろかった4冊の本と、その他3本の映画
月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2021年6月版です! 今月は映画もそこそこ見ることができましたんで、そのへんなども。
カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学
言わずとしれた生物学の基本書が11年ぶりにリニューアル!ということで、復習もかねて読ませていただきました。
その質の高さは折り紙つきなので言うこともないんですけど、印象としては旧版よりもエンタメ度がアップしていて、教科書なのに物語風のイントロが入ってたりと、以前より読みやすくなったんじゃないでしょうか。同時に、旧版にはなかった内容の確認問題もくわわってて、知識の定着もしやすくなってるのがいいですねー。
すでに「分子遺伝学」「生化学・分子生物学」も出てるんで、こちらも買い。
決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様
これまた言わずとしれた、水木先生の代表作ですね。水木先生の本はもはや伏して拝読するほかないので、個人的に好きな妖怪だけ並べておきます。
- 後追い小僧=ただ後をついてくるだけの子供の妖怪
- いそがし=とりつかれると働かなくてはいられなくなる妖怪。江戸時代からオーバーワークの問題ってあったんだなぁ、とか
- オッケルイペ=急にすごい音の屁が鳴る妖怪
- 河童の尻子玉取り=河童が尻子玉を抜くのは有名ですが、「従来は水中で襲うと思われた河童が、水上で尻子玉を抜く様子」を収録した「江戸化物草子」の図像を見た水木先生が、衝撃で2〜3時間身動きが取れなかったというエピソードが可愛すぎる
- 尻目=尻に目がついてるだけで何もしない妖怪
- すねこすり=雨の日にすねにまとわりつく妖怪。どうみても猫
- 寝肥り(ねぶとり)=ただめちゃくちゃ太っただけの女妖怪。水木先生もこれは「肥満症だろう」とコメントしてるのがおもしろい
美術の物語
こちらも言わずとしれた、美術史の定番本。なにせ高価だし重量もすごいんで、2年ぐらい積読してたのをようやく手に取りました。
で、最初は小難しい話が続くのかと思ってたら、全体的に論旨はとても明快。「古代人は世界をこう見てたから、こういう絵になったんですよー」「遠近法の発明は当時の人にはこれぐらいのインパクトがあったはずですよー」といった感じで、それぞれの絵画が「なぜこういう描き方をしているのか?」をわかりやすく教えてくれて楽しいです。
近年は「美術の見方」をわかりやすく書いた良書が増えましたけど、「あー、これが元ネタだったのか」と思う部分もチラホラありまして(エジプト美術のとことか)、やっぱ定番書は読んでおくべきだな、とか。
定額制夫のこづかい万歳 月額2万千円の金欠ライフ
月のおこづかいが2万千円の著者が、いかにやりくりしつつ趣味のレコードやお菓子に金を使うかを描くドキュメント漫画。著者だけでなく、月のこづかいが0円の人まで登場して、それぞれのライフスタイルを掘り下げていく内容になっております。
まずこのテーマを作品にしたのが素晴らしいし、特に2巻からは幸福論みたいなエピソードが増えてきて、ポジティブ心理学の教材に使えるんじゃないかとか。私は「経済成長はし続けるべきだ!」って考え方の人間なんですけど、2巻で提示される「制限が幸福を生む」ってパンチラインについてはおっしゃる通りだなーとか思った次第です。
映画大好きポンポさん
「映画作り」をテーマにした作品はいっぱいあって、
- 「現実と虚構の侵食だ!」(8 1/2とか)
- 「華々しい世界の光と闇だ!」(サンセット大通りとか)
- 「ものづくりへの愛憎だ!」(アメリカの夜とか)
みたいな話になることが多いんですけど、本作は後半から「人生とは物語の編集である!」って展開に進んでいって、「ありそうでなかったなー」とか思いました。テンポもいいし泣きのシーンもうまいし、なにより映画愛がハンパないしで、めちゃくちゃ感心させられました。
ファーザー
オフィシャルサイトには「最高の感動作」と書いてますが、実際には認知症にかかった老人の世界観を疑似体験できる地獄めぐりライド映画になってます。父と娘の感動作を期待して行くと死にますね。
通常、認知症の人の主観をそのまま描くと、記憶の混濁と幻覚の発生が入り混じる混沌とした作品になりがちなんですけど(アウト・オブ・マインドとか)、本作ではそのあたりが完璧に整理されていて、”ロジカルにカオスを描く”というすごいことをやっててたまげました。最新のCGを使わなくても、編集と撮影だけでこれだけ驚かすことができるんだなぁ、とか。
いずれにせよ、これを見ると認知症に苦しむ人に対して優しくなれるんで、共感力を鍛えるためにもよろしいのではないでしょうか。
ノマドランド
ご存じアカデミー賞受賞作。社会から外れて生きる人たちの「その日暮らしぶり」を追う社会派な作品かと思いきや、そのへんはあっさりと処理。ひたすら美麗な映像と音楽を背景に、「なにか大事なものを失った人たちの救い」とか「何もなくなった後の自我の有り様」とか「さよならだけが人生だ」みたいな感覚を浮かび上がらせる作りになってて驚きました。
それも、全体的には達観した視点を取るわけでもなく、かといって何らかの答えを求めてもがくわけでもないスタンスが貫かれていて、「この監督、人生何周目なの?」とか思ったら私よりはるかに年下で二度びっくりみたいな(笑 これはもう一回見よう。