【質問】シリコンバレーで流行の「ドーパミン断食」ってやるべきですか?
こんなご質問をいただきました。
ドーパミン断食はやるべきですか?シリコンバレーで流行っているらしいのですが。
ってことで、「ドーパミン断食」はアリかナシかという疑問です。「ドーパミン断食」ってのは、精神科医のキャメロン・セパ博士が考案したもので、以下の記事などが詳しいですね。
ご存じのとおり、ドーパミンは体内で分泌される神経伝達物質のひとつで、やる気や快楽に関する体内のシステムに関わっております。もしドーパミンがなかったら、私たちは何をするにもモチベーションが上がらず、なんの目標も達成できなくなってしまうはず。その意味でめっちゃ大事な物質なんですけど、テクノロジーが進化した現代では、スマホの通知、ゲーム、SNSみたいにドーパミンの分泌を刺激する要素が多いので、なんの対策も取らないと、本来やるべき重要なことに手が回らなくなっちゃうんですよ。
ってことで、セパ博士は、「現代のドーパミン中毒から逃れようぜ!」と主張しまして、以下の6つを定期的に完全に断つようにアドバイスしたんですよ。
- ストレスを解消するためだけの食事
- 過度のインターネットやゲーム
- ギャンブルや買い物
- ポルノや自慰行為
- スリルや目新しさを求める行為
- レクリエーショナル・ドラッグ
この主張には私も異存はないんですけど、ここに新しもの好きなシリコンバレーの人たちが飛びつきまして、
- ドーパミン断食は人生に悪影響を及ぼしている行動をコントロールするのにマスト!
- ドーパミン断食で脳が最初の状態にリセットできる!
- ドーパミン断食で快楽の閾値が下がり、不要なことに注意がそれなくなる!
みたいな話にまで拡大されまして、ちょっとしたブームになったわけですね。そのため、いまドーパミン断食を実践する人は、ちょっとでも美味いものは食べない! 運動もしない! 音楽も聴かない! 友人とのコミュニケーションもしない! といったように、快楽的な経験をすべて拒否してるんだそうな。シリコンバレーの人って極端ですよね。
では、このドーパミン断食について、私がどう思っているかと言いますと、
- セパ博士が提案する「ドーパミン断食」は良いと思う
- シリコンバレー式の「ドーパミン断食」は「ハァ?」って感じ
みたいになります。というのも、ドーパミンってのは、たしかに報酬に反応して分泌されるんですが、いくら刺激を避けまくったところで、分泌量が減るわけではないし、同じ快楽に反応しづらくなるわけでもなく、従って脳がリセットされる減少するわけではないんですよ。言い換えれば、しばらく快楽を断ったとしても、再び楽しそうなものを目にすれば、以前と同じようにドーパミンは分泌されるわけでして、その点でシリコンバレー方式は「意味がないでしょう!」としか言いようがないんですよ。
ただし、一方では、ネタ元になったセパ博士の「ドーパミン断食」には特に文句もありません。ここで博士が言ってるのは、「快楽を断って脳をリセットだ!」みたいな話ではなく、「私たちの注意をそらすものとうまく付き合おう!」と言ってるだけなんですよね。具体的には、博士がどんなことを言っているかというと、
- 望ましくない刺激、たとえばスマホやゲーム機は手の届きにくい場所に置こう!
- 特定のプログラムをインストールしたりして、SNSへのブロックを防ごう!
- スマホやSNSに使う時間を、もっと運動などに使おう!
って感じなんですよ。これは、心理療法の世界では「刺激のコントロール」と呼ばれ、昔から使われる定番のアプローチですからねぇ。このような行動を積み重ねていけば、自分にとって本当に大事なことに時間を使えるのは間違いないでしょう。つまり、ドーパミン断食ってのは、断食ともドーパミンともほとんど関係がないわけですな。
実際のところ、セパ博士は、ニューヨーク・タイムズのインタビューに、こう答えておられます。
ドーパミンは、依存症がどのように強化されるかを説明するメカニズムであり、キャッチーな用語を使っただけです。タイトルは文字通りの意味ではありません。
と言ってたりします(R)。要するに、博士自身も「ドーパミン」はただの言い回しで、実際には昔ながらの認知行動療法に近いものだと認めてるわけです。なので、私なんかは「普通に認知行動療法をやればいいんじゃない?」と思いますが、過度な期待さえしなければ、ドーパミン断食もよいんじゃないでしょうか。