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今週の小ネタ:整理整頓が脳力アップにつながる理由、オープンマインドの欠点、AIに否定的な人の特徴

 


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

    

 

 

整理整頓が脳力アップにつながる理由

「部屋を片付けると仕事がはかどるよ!」ってアドバイスはよく聞きますが、この考え方を神経科学的な方向から調べた研究(R)が出ておりました。

 

ざっくりどんな研究かと言いますと、

 

  1. 26人の男女を集めて、PC上の画像から特定の物を見つけるタスクを指示する。

  2. その際に、普通の状態でタスクをするパターンと、気をそらすものが画像に表示されるパターンに分ける。

  3. タスクを実行中の脳をスキャンする。

 

みたいになります。要するに、気をそらすものが存在する環境において、人間の脳の働きがどう変わるかを調べたわけですね。

 

すると、結果はこんな感じになりました。

 

  • 気をそらすものが多い環境で特定の目標に集中するとき、私たちの脳は、本来の作業に関わるものを特定するために、ガンガンに脳のリソースを使い始める。この働きは「注意セット」と呼ばれ、目標が変わるたびに、脳は古い注意セットを抑制し、新しい注意セットに焦点を切り替えねばならない。

 

  • 実験の参加者たちは、目標とは関係のないもので視野を埋め尽くされれば埋め尽くされるほど、本来の目標を達成するために、より脳のリソースを使いまくっていた。当然、これは激しい疲労につながり、やる気がなくなったり、本来の能力よりも生産性を下げてしまう可能性がある。

 

ってことで、私たちの脳がなにかを行う時は、目標ごとに「注意セット」を作り、目指すゴールとは関係がないものを、できるだけ抑制しようと頑張るんだそうな。しかし、周囲に気をそらすものが多いと、「注意セット」が新たに生まれてしまい、そのせいで脳のエネルギーが、ガンガンに消費されてしまうわけですね。

 

まー、この実験だと、果たして部屋を片付ければ生産性が上がるかどうかは不明なので、そこはご注意ください。たとえば、いかに部屋が汚かろうが、散らかったものが日常になりすぎて脳の注意をひかない場合は、リソースのムダづかいが起きないケースはいくらでも考えられますんで。

 

とはいえ、今回のデータを見れば、身の回りをキレイにしておくことで、メンタルの限られた帯域幅を最大限に活用できる可能性は十分にありそうなんで、やっといて損はないでしょう。

 

また、身の回りの整理ってのは、私たちに「自分は環境をコントロールできる人間なのだ!」って感覚をもたらし、ストレスの感情をやわらげ、幸福感を高める働きもありますから、その意味でも整理整頓はしとくのが吉でしょうね。

 

 

 

オープンマインドは良いことだらけだけど、欠点もあるぞ!

「オープンマインドは大事!」ってのは、このブログでもよく書いているポイントです。いつも心を閉ざしていたら、どんなチャンスも逃すことになっちゃうんで、新しいアイデアや思考を受け入れるのがよいのは当然でしょう。

 

が、なにごとにも裏表はあるもので、ベオグラード大学の研究(R)では、「オープンマインドにも欠点があるぞ!」って結論になっておりました。ここで言うオープンマインドは、ビッグファイブでいう「開放性」のことで、研究チームは、以下のように定義しておられます。

 

開放性とは、人生の様々な側面において、新しい経験や異なる経験を受け入れる傾向の個人差を表す、広範で複雑な性格特性である。

 

まー、開放性ってのは、ビッグファイブの中でも研究が進んでいない性格特性なんですが、どちらにしても「知的好奇心の高さ」と「既成概念にとらわれない思考」ってあたりは大方で共通してるんで、そんな感じに考えておけば良いでしょう。そのおかげで、開放性が高い人ほど知性も高い傾向がありまして、実にありがたい性格特性だと言えますね。

 

が、この研究チームによれば、開放性が持つ「人と違うことを考える」という特性は、「認知、感情、行動の歪み」に変わる可能性があるとのこと。開放性が高い人は、いろんなことを考えられるせいで、目の前の目標とはまったく関係がない思考や感情に意識が向かいすぎてしまうかもしれないんだそうな。

 

ってことで、研究チームは、540名の男女(18歳から65歳)を集めて、みんなに性格テストを実施。開放性の高さと、統合失調、主観的な幸福感の関係を調べたところ、結果は以下のようになりました。

 

  • 開放性を構成する要素の中で、想像力、芸術的興味、感情の動きやすさが高い人ほど、躁病のレベルが高くなった。

 

  • 開放性を構成する要素の中で、冒険心、知性、自由主義が高い人ほど、主観的な幸福度も高くなり、統合失調の傾向も低かった。

 

  • 特に主観的な幸福感との関係が大きかったのは冒険心で、新たなイベントに挑むことが多い人ほど幸せになりやすかった。

 

ということで、ざっくりまとめてみると、「開放性の高さは気分が悪くなるリスクをはらむが、知性と冒険心が高ければリスクを最小限に抑えられるだろう」って感じになりますね。これをもうちょい簡単に言うと、

 

  • とにかく自分が今までやったことのないアクティビティに参加すれば、主観的な幸福感は高まる。

 

  • さらに、ボキャブラリーを増やしたり、自分の知らないアートを探求したりと、知性にうったえかけるアクティビティも主観的な幸福感を上げてくれる。

 

といった感じで、「正しい」種類の開放性を意識して使うことで、オープンマインドの欠点を可能な限り抑えて、幸福感を高められるわけですね。開放性が高い方は、ぜひ参考になさってくださいませ。

 

 

 

AIに否定的な人の特徴とは?

AIの進化が止まらない昨今ですが、一方では悲観論もよく耳にするわけです。「AIが人間の仕事を奪う!」「なんだかわからないけどAI怖い!」みたいなヤツですね。個人的には「AI楽しいなー」としか思わんですが、未知の存在を怖がるのも人間の性ですからねぇ。

 

ってことで、タンペレ大学の先生方が行った研究(R)では、「AIの恐怖は3つの欲求を満たせばやわらぐ!」という結論になっておりました。その3つの欲求が何かと言いますと、

 

  1. 自律性
  2. 有能性
  3. 関連性

 

って感じです。もうおわかりのとおり、自己決定理論で言われる人間の基本的な欲求ですね。この3つの欲求については、「私たちが「自然好き」なのは人間の3大欲求を満たしてくれるからだ!」をご覧ください。

 

で、これはヨーロッパ6カ国を対象とした研究で、自己決定理論とAIに対する否定的な態度の関係を調べたんですよ。すると、3大欲求とAIへの恐怖には明確な相関がありまして、

 

  • わりとどんな国でも、有能性と関連性が高い人ほど、AIに対して肯定的な態度を取っていた。

 

  • なぜかフィンランドだけは、自律性が高い人も、AIに対して肯定的な態度を取っていた。

 

  • 研究チームが参加者の自律性と関連性を高めたところ、みんなAIへの態度がより肯定的になり、否定的な態度が減った。

 

ということで、自分で自分のことを決めることができ、自分の能力を高めることができ、他者と良い関係を結んでいる人ほど、AIに対して肯定的な態度を取っているらしい。


まー、この結果を実生活に活かすのは難しいですが、研究チームいわく、


AIと対話する際に、個人の基本的な心理的ニーズが満たされるようにすることで、より柔軟で生産的な方法で、これらの技術の受容と利用を改善することができる。

AI技術を業務に導入している組織が、従業員のエンゲージメントや満足度を高め、AIによる職場の変化を受け入れるには、企業側が従業員の自信を高めるようにし、AIユーザー同士の親密な環境を作ると良いだろう。

 

とのこと。それにしても、自己決定理論ってのは使い勝手が良い理論ですなぁ。 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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