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自己啓発本に書かれていることって、どれぐらい正しいのかねぇ……みたいな話

 
 

昨日「自己啓発本って意味あるの?」を調べた研究を紹介しまして、「自己分析ができている人なら意味があるんじゃない?」って結論になっております。

 

 

で、今回はその続きとして、「自己啓発本ってどれぐらい正しいの?」ってのを調べた調査(R)を見てみましょう。自己啓発本はいろいろ出てるけど、「内容は科学的に信頼できるのか?」みたいな問題ですね。

 

 

一般人は「自己啓発本」の妥当性を見抜けるのか?

これはマリー州立大学の研究で、同大学に通う学生に50冊の自己啓発本を評価してもらい、その信頼性を専門家の評価と比較する形で調査を進めております。要するに、一般人が「信頼できそう!」と思った自己啓発本と、専門家が「これは正しい!」とジャッジした自己啓発本には、どのような違いがあるのかを調べたわけですな。

 

その結果、どんな傾向が認められたのかと言いますと、

 

  • 学生が「信頼できる」と感じる本の傾向は、専門家の評価とあまり一致しなかった。評価の相関は中程度ぐらいだった。

 

  • 一般的には、大半の学生の場合、「わかりやすさ」と「実用性」の2つがそろっていれば、内容が科学的に正確であるかどうかに関わらず「信頼性が高そう!」と思ってしまう傾向があった。

 

  • ただし、不安やトラウマの解決に特化した書籍については、一般人でも専門家と同じぐらいちゃんとした本を選ぶことができた。多くの場合、認知行動療法(CBT)に基づく具体的な実践方法を紹介し、信頼できるデータが提示されているかどうかが評価のポイントだった。

 

みたいな感じです。あらかじめ予想されたことではありますが、一般的なユーザーが「どの本が科学的で信頼できるか?」を判断するのは難しいみたい。一方で、メンタル改善系の書籍については選択の信頼度が上がるってのはおもしろいですね(サンプル数が少ないんで、ただの偶然かもしれませんが)。

 

 

 

自己啓発本の効果はどこまで信頼できるのか?

それでは、続いて「自己啓発本にはどれぐらい科学的な裏付けがあるのか?」ってところを見てみましょう。ちなみに、ひとくちに「自己啓発本」と言っても、人によって定義が異なると思いますが、ここでは、

 

  • 心理的な困難に対処するために、自己管理や行動の改善を目的としたアドバイスやテクニックを提供する本

 

みたいな位置づけになってます。心理的な障害、ストレス、関係性の改善、自己成長など、幅広いテーマをカバーしつつ、具体的な行動手順やツールを提供する本、みたいなイメージですかね。

 

でもって、このタイプの本に、どれぐらいの妥当性があるのかと言いますと、ざっくり以下のようになります。

 

  • 自己啓発本の95%は、科学的な検証や根拠がないまま出版されているとする報告がある。アメリカ心理学会(APA)は、科学的根拠、専門家の知識、患者のニーズを反映した治療法を推奨しているが、こうしたガイドラインを満たしている自己啓発本はほとんど存在しない。

 

  • ただし、複数のメタ分析では、「自己啓発本を読むのは、何もしない場合よりは確かに効果がある」と報告している。特に、不安やうつ病の症状を和らげるために書かれた書籍については、専門家が治療に使用するのと同程度の改善が得られるケースすらある。例えば、あるメタ分析では、自己啓発本が「専門家による治療とほぼ同等の効果をもたらす」としており、不安症状や抑うつ状態には有効性が高いのかもしれない。また、ノルウェーの研究チームが行った研究によれば、睡眠に関する自己啓発本は、実際に読者の睡眠の改善と睡眠薬の服用回数の減少に役立ったとも報告している。

 

  • もっとも、すべてのテーマで効果が高いわけではなく、「習慣の改善」や「衝動の抑制」に関しては、自己啓発本の効果は限定的だると思われる。例えば、飲酒、喫煙、または過食を改善するための自己啓発本については、プラシーボ効果に近い場合も多いので注意されたい。この手の本は、目標を達成できなかった際に自尊心が低下し、逆効果になることもあり得る。

 

ってことで、大半の自己啓発本は科学的な妥当性がないものの、なにもしないよりはマシなことが多いし、特にメンタル改善が目的の場合には十分な意味があるのではないかってことですな。自己啓発本はテーマによっても効果が変わるよーってことで、ここらへんを見極めるのも大変そうですな。

 

 

 

どうやって自己啓発本を選ぶべきか?

本稿の大きな結論は以上です。ざっくり言えば「自己啓発本には間違いがたくさんあるけど、ちゃんと使えば役には立つよ」ぐらいの結論でして、やっぱこれぐらいのところに落ち着くんでしょうな。

 

さて、残念ながらこの研究では「どんな自己啓発本を選ぶべきか?」みたいなことは書かれていないんですが、ここで引用されている文献を見ると、だいたい以下のようなことが言えそうであります。

 

  • 本が「セラピスト」になるような書き方か:ヨーク大学などの研究によれば、優れた自己啓発本は優れたセラピーの原則に従っていることが多い。つまり、良書は読者との「信頼関係」を築くような構成になっており、読み手に「自分の問題を理解してもらえている!」と感じさせ、共感や安心感を抱ける書き方がなされ、具体的なアドバイスや実例が書かれていることが多い。これにより、読者はビブリオセラピーの効果を得ることができる。

 

  • 科学的根拠の有無を確認する:当たり前ながら、信頼性が高い自己啓発本は、心理学の最新研究やエビデンスに基づいている。なので、最低でも著者が実際の研究データや臨床研究を引用しているかを確認しておきたい。具体的な参考文献があるかも大事。

 

  •  実行可能で具体的なアドバイスがあるか:有用な自己啓発本には、読者が自分で実践できる具体的なステップやガイダンスが含まれていることが多い。曖昧なポジティブ思考や一般論に終始せず、例えば「1日10分の瞑想を行う」や「具体的な行動リストを作る」など、実際に役立つアプローチが示されている本は評価が高いケースが多い。

 

  • 誇張や過剰な期待を避けているか:「たった〇日で成功」「人生が変わる」といった誇大広告的な表現が多い本は信頼性に欠ける可能性が高め。信頼できる本は、限界やデメリットも正直に説明し、読者に過剰な期待を持たせないよう注意を払っている。例えば「継続が必要」「個人差がある」といった留意点が記載されている本が望ましい。

 

  •  適切な対象読者設定がされているか:「誰にでも効果がある!」ってアプローチを取っておらず、特定の状況やタイプの人向けて調整されているかも大切。信頼できる本は「対人関係に悩んでいる人向け」や「不安が強い方向け」といった明確な対象設定をしており、内容もそのニーズに合わせて構成されている。

 

もちろん、このガイドラインを守っても、ヤバい本にひっかかかることは余裕であるんですけど、なにも気にしないよりはマシでしょう。どうぞよしなにー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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