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自己啓発本ってメリットあるの?を調べてみた研究の話


 

「自己啓発本ってどうなの?」ってのは、よくある議題でしょう。

 

「1000冊読んだ僕が選ぶ最高の本10冊!」みたいなリストの中身が自己啓発本ばかりだったせいで、人文系クラスタから「そんなもん本じゃない!」叩かれまくって炎上する事件も、もはやネットの風物詩になっております。個人的には「他人が勧める本にわざわざイチャモンつける理由がよくわからんなぁ」ぐらいにしか思いませんが、「自己啓発本ってどうよ?」ってテーマは、人心をかき乱すものがあるんでしょうな。

 

で、自己啓発本の批判はいろいろあって、ちょっと考えただけでも「同じことしか書いてない」「個人の感想しか書いてない」「読んでも効果がない」などが思い浮かぶはず。そこで今回は、この中から「自己啓発本って効果があるのか?」ってポイントに的を絞って調べた研究(R)をみてみましょう。割と古めの研究ですが、今でも参考になる知見が述べられてますんで、チェックしておくと役立つはず。

 

 

自己啓発本のヤバいところ

これはオランダで行われた調査で、当時書店で人気があった自己啓発本を57冊ほどピックアップ。大衆向けのポップサイコロジー本を中心に分析を行い、過去の研究やメタ分析の結果を用い、ビブリオセラピー(読書療法)としての効果や、実際の臨床データとの比較を行っております。たとえば、軽度のうつや不安の改善に自己啓発本がどれぐらい効くのか、また逆に悪影響を及ぼす場合があるのかについて、過去のエビデンスを元に考察したわけですな。

 

では、自己啓発本の有効性はどうかって話ですが、どんなものでもそうであるように、やはり「良いところ」と「悪いところ」が浮かび上がっております。まずは悪いところから見てみましょう。

 

  1. シンプルに間違っていることが多い:自己啓発本のアドバイスは、科学的な根拠に乏しいことが多い。たとえば、心理学者M・ポールによると、「怒りを発散させればスッキリする」「ポジティブなことを考えれば幸せになれる」といったアドバイスは、逆にストレスを強化させてしまう。また、無理にポジティブ思考を強要することで、逆に自己否定感が増したりするケースも珍しくない。


  2. 「自分を信じれば何でもできる」という過度なポジティブ思考が害悪:多くの自己啓発本は「ポジティブ思考」を推奨するが、すべての人がポジティブ思考に向いているわけではない。特に不安感が強い人には、このアプローチが逆効果となるので注意が必要である。心理学には「防衛的悲観主義」という考え方があり、これは「事態は悪くなるに違いない!」と予想しておくことで、精神的な安定を図る方法であり、こちらのやり方が向く人もいる。


  3.  「一律のアドバイス」である点:自己啓発本のアドバイスは、基本的には「一律のアプローチ」を取っており、読者の性格や状況に合わせて個別に指導できるわけではなく、「こうすれば成功する」というような一般論が展開される。これは、心理療法のような専門的なサポートを受ける必要があるケースでは、特に問題となりやすい。たとえば、社交不安障害を抱える人が「人間関係のコツ」を学ぶ自己啓発本を読んでも、症状の根本解決には至らないことが多い。

 

ということで、いずれも納得感のある内容じゃないでしょうか。個人的にも、「間違いが多くてアドバイスが一律」ってのは、自分の本を書く時にもめっちゃ気をつけているポイントっすね。

 

 

 

内容が科学的に正しいかどうかに関わらず、自己啓発本で得られるメリット

では、続いて、自己啓発本の明確なメリットをみてみましょうー。

 

  1. ビブリオセラピー(読書療法)」としての効果がある:心理系の自己啓発本は、特に軽度のうつや不安に悩む人にとって、「ビブリオセラピー(読書療法)」としての効果が認められている。これは、書籍を通じて自分自身を見つめ直し、自己改善のための行動を促す働きがあるからである。

    オランダの研究でも、自己啓発本には「自分の考えや感情をより深く理解する」働きがあり、生活の質を向上させる効果があると報告されている。そもそも、自己啓発本を積極的に取り入れる読者の多くは、自分の気持ちや行動を分析する能力が高く、自己改善にも意欲的であることが多い。


  2.  積極的なコーピングを促す:自己啓発本には「自分で問題解決に取り組む」というメッセージが含まれているため、受動的な態度ではなく、積極的にコーピング(対処行動)を行うきっかけを与えてくれる。たとえば、ストレス解消の方法や自己肯定感の高め方を学ぶことで、読者が積極的に生活の質を向上するアクションを取ることが多い。


  3. 「希望」を提供する力がある:自己啓発本のもうひとつの大きな価値は、希望を提供する力である。不安や絶望感に囚われがちな人にとって、「自分も変われるかもしれない」というメッセージは、とても大きな意味を持つことがある。たとえ科学的な根拠が弱くても、そうした前向きなメッセージが心の支えとなるケースは少なくない。

 

ってことで、こちらでは「自己啓発で自己を見つめ直す時間を得るのが最大のメリットなのだ!」ってポイントが強調されておりました。まぁ、よしんば内容が科学的に間違っていたとしても、「この記述に照らして自分は今どのような状態か?」をちゃんと考えられる人であれば、決して無駄にはならないでしょうね。

 

 

雑なまとめ

ここまで見てきたように、自己啓発本は一概に「良い」とも「悪い」とも言えず、読み手の使い方や、読み手の状況に合ったアドバイスを見極められるか次第ってところですね。この文献でも「自己啓発本は読者自身の努力と自己分析が求められる」と指摘されてまして、自己啓発といえども、ちゃんと使おうと思ったら、決して楽なもんではないってポイントが強調されておりました。

 

もちろん、「科学的に間違ってる時点でダメだ!」って意見もありましょうし、私もできれば妥当性があるものを読みたいとは思っております。しかし、逆に言えば、いかに科学的に正しいアドバイスが書いてあろうが、自己分析が進んでいない人が読んでも無駄に終わりかねないってことなんで、そこは肝に銘じておきたいとこじゃないでしょうか。

 

と、こうなると「自己啓発本ってどこまで科学的に妥当なの?」ってのも気になりますが、そこらへんはまた別の文献が調べてくれてますんで、次回はそのあたりを見てみましょう。どうぞよしなに。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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