このブログを検索




不確実性を味方にする方法――ケンブリッジの統計学者が教えるリスクとの共存法

 

不確実性の技法(The Art of Uncertainty』って本を読みました(R)。著者のデビッド・シュピーゲルハルター先生はケンブリッジ大学の統計学者で、本書は「リスクと確率を理解して、予測不可能な世界を生き抜こうぜ!」みたいな本になっております。「リスク・リテラシーが身につく統計的思考法」とかに近い内容ですね。

 

歴史的なエピソードや統計のおもしろ知識などを大量に使いつつ、「不確実性はそんなに恐ろしいものじゃないよ!」ってのを教えてくれつつ、未知の事象をどう受け入れるかを教えてくれてて良かったです。ということで、本書から勉強になったところを見てみましょうー。

 


スポンサーリンク

 

  • 人間はみんな、不確実性とともに生きていく必要がある。不確実性の定義は複数あるが、本書では「無知の意識的な知覚」と表現している。これは、不確実性とは自分と外部世界との関係を示すものだってところを強調する考え方である。

    たとえば、「コイン投げをして表が出る確率はどのくらいだろう?」と尋ねられれば、大半の人は「50パーセント」と答えるはず。しかし、実際にコイン投げをして「表が出ると思いますか?」と尋ねられると、多くの人は意見をためらうようになる。

    この例でわかるように、不確実性の評価は、私たちの知識、個人的な判断、仮定、信頼に依存している。コインを投げてからそれを隠すと「認識論的不確実性」が生じる。つまり、不確実性には主語があり、それは私たちなのだと言える。

 

 

  • 私たちはみな日常会話で「おそらく」「多分」「可能性が高い」といった言葉を使う。しかし、このような曖昧な表現は、重要な意思決定を行う際には非常に危険だったりする。1961年にケネディが大統領に就任した直後に起きたキューバ危機では、当初CIAはカストロ政権の攻撃が成功する確率を30%だと判断した。しかし、ケネディに提出された最終報告書では数字が消され、「成功の可能性は高い」という表現に置き換えられていた。そのためケネディは作戦を承認したが、結果は大失敗に終わってしまう。後に軍はもっと明確な表現をすべきだったとの後悔を明らかにしている。

    上記のような失敗をふまえて、現代の諜報機関は、言葉を確率に変換するための尺度を決めている。報告書で「可能性が高い」という表現が使われる場合、それは55パーセントから75パーセントの確率を意味し、30パーセントの成功は「可能性が低い」と表現される。気候変動においても、同様の尺度が言葉と数字の変換に使われている。

 

 

  • 運は「個人的に解釈される偶然の作用」と呼ばれ、運の種類を理解しておくのが重要となる。

    運には3つの種類が存在し、著者が最も重要だと考えるのは「構成運」である。つまり、自分がどのような時代に、どのような遺伝子を持って、どのような環境で生まれたか、という自分の力ではどうにもならない運のことである。

    また、運の種類には「状況運」というものもある。これは、適切な時に適切な場所にいたか、あるいは不適切な時に不適切な場所にいたかを意味する運である。

    3つめは「結果運」で、特定の瞬間にうまくいったかどうかを意味する。

 

 

  • 科学、気候変動、リスク分析、ギャンブルなど、多くの分野における研究は、ある程度まで数学的・統計的モデルを使っている。これらのモデルは、現実の理解を目的としているが、それらは「地図」であって「領域」ではないことを肝に銘じる必要がある。ここで得られる世界の理解は常に不正確であり、統計学者ジョージ・ボックスが言う「すべてのモデルは間違っているが、中には役に立つものもある」という言葉を肝に銘じておいたほうがよい。

    統計パッケージの出力結果は、推定値、信頼区間、P値などを提供してくれるが、これらは決して正確とは言えない仮定に基づく統計モデルに基づいている。それゆえに、得られる結果はすべて不正確だと言える。一方で、それでもなお多くの分析は有用だとも言える。

 

 

  • パンデミック発生中、英国では8つの統計チームが、新型コロナウイルスの感染スピードを表すRの平均値を推定しようと試みた。ここでは12の異なるモデルが採用されたが、そのせいで結果には大きなバラつきが見られた。 多くの不確実性の幅は重複していなかったため、すべてが正しいはずがない。そこで、すべてのチームは毎週のように会合を開き、すべての結果を統合して、モデル間の相違を反映した総合的な回答を導き出した。これは、科学における透明性の優れた実証例だと言える。統計モデルは常に間違うが、同じ問題に複数の独立したチームが取り組むことで、ある程度まで精度は高められる。

 

 

  • 専門家は信頼されたいと願うが、専門家は信頼性を実証するよう努めるべきである。そのためには、もちろん誠実さが必要になるが、加えてあらゆる決定のメリットとデメリット、あるいはあらゆる医療介入の潜在的な利益と弊害について、バランスよく説明する必要がある。ここで最も重要なのは、「自分自身は誰かを説得しようとしているのか?」「相手の思考と行動を操ろうとしているのか?」「純粋に情報を提供し、より良い意思決定ができるように相手を力づけようとしているのか?」を、まずは判断しなければならない。

 

 

  • さらに、信頼されるためにもうひとつ大事なのは、不明な点については率直に述べ、証拠の質が低いのか、中程度なのか、高いのかを明確にすることである。さらに、誤解を未然に防ぐために、証拠が何を意味し、何を意味しないのかを説明し、誤った情報の拡散を防ぐよう努めるべきである。

    たとえば、ワクチンは「安全かつ効果的だ」と言うのではなく、「〇〇のような状況で一部の人々に接種するには十分安全で十分効果的である」と言わねばならない。さまざまなコミュニケーション手段をランダムに試した試験では、説得よりも情報提供を重視した情報の伝達スタイルを用いたほうが、ワクチンに懐疑的な人々の信頼を高めることができることが示されている。 逆に言えば、「相手を説得するぞ!」という目的で設計されたメッセージを発信すると、信頼を得たい人たちからの信頼を低下させているのだと言える。

スポンサーリンク
ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM