フォームを崩してまで筋トレを追い込む意味はある?って問題を調べた研究の話
筋トレをやっている人なら、誰でも一度は悩んだことがあるであろうテーマに
- フォームを崩してでも最後までやるべきか、それともキッチリしたフォームを守るべきか?
って問題があったりします。たとえば、ダンベルカールをやってて「もうそろそろキツいな……」みたいになってきたときに、つい腰を使って反動でダンベルを持ち上げてしまうこととかあるじゃないですか。私もよくあります。心の中では「フォームが崩れた!」と分かっていながらも、「まぁいいか……」と妥協している人も多いんじゃないかと。
では、実際のところ、このような「強引なフォームの追い込み」には意味があるのか? それとも、やっぱり最後まできっちりしたフォームを保たないと筋肉は育たないのか? ってことで、そこらへんをガッツリ調べたデータ(R)が出ておりました。
この研究は、「チートレップとストリクトレップはどっちが優秀なのか?」を調べたもので、まずは用語を簡単に説明しときます。
- チートレップ=直訳をすると「ズルをする動作」。つまり、「反動や勢いを使ってウエイトを持ち上げること」を指していて、たとえば「アームカールで腰を使って体をスイングさせる」「トライセップスプッシュダウンで肘が前に出てしまう」「ラットプルダウンで身体ごと後ろに倒れる」みたいなやつです。
- ストリクトレップ=どんなに疲れようが、正しいフォームをひたすら守り続ける方法。一般的には、こちらのやり方が推奨されることが多い。
ってことで、通常はチートレップは「ダメなフォーム」とされていて、トレーナーに注意されることが多いはず。ただし、その一方では「限界を超えるためにはあえてフォームを崩すのもアリ!」みたいな考え方もあり、ベテランのトレーニーの中には「最後の1〜2回はチートで絞り出せ!」と指導する人も多かったりします。難しい問題ですねぇ。
実はこれまでチートレップとストリクトレップを直に比べた研究はなかったんですが、このたび上記の研究チームが実験をしてくれたんですな。
この研究は、30名の筋トレ初心者を対象にしたもので、「チート vs. ストリクト」の効果を8週間にわたって検証しております。具体的なデザインをまとめとくと、
- バイセップカール&トライセップスプッシュダウンを週2回のペースで行う。
- 各種目あたり4セット、8〜12回を「限界まで」行う。その際に、片方の腕はストリクト、もう片方の腕はチートで行う。
- 超音波と3Dスキャンを使って、上腕の筋肉の厚さと周囲径を記録した。
って感じになってます。なかなかよろしい実験じゃないでしょうか。
で、その結果がどうだったかと言いますと、
- どっちも同じくらい筋肥大した!
だったんだそうな。ストリクトでもチートでも、筋肥大の量に大きな違いはなかったそうで、これはちょっと意外ですなぁ。
ただし、これは必ずしも「チートレップでも問題ない!」って話ではなくて、データを見ていると、「チートレップはトータルの筋トレボリューム」はかなり多かったにもかかわらず、両者の筋肥大には差が出ないんですよね。これってのは、つまり「たくさん重いものを動かしても、それが筋肥大につながるとは限らない」ってことを意味してまして、逆に「やっぱチートレップはダメだなー」ってのを意味してるとも言えるんで。
また、今回の実験の参加者は「筋トレ未経験者」なので、そもそも何をやっても筋肉が増えやすい状態だったのも注意っすね。いわゆる「ニュービー・ゲインズ」が起こりやすいので、チートだろうがストリクトだろうが刺激さえあれば反応しちゃって「差が見えにくくなった可能性」もあるんで。
ただ、それでも「もしチートが筋肥大にとって明らかに不利」だったとしたら、もう少し目立った差が出ていてもおかしくはないので、今回の結果は必ずしも「チート=悪」とは言えないよーってとこを表してはいるんでしょうな。
それでは、結局のところ「チートレップをどう使えばいいの?」って話になりますが、私がこのデータを見て思ったのは、
- チートレップのメリット
- チートレップはフォームが多少崩れても、筋肥大に大きな悪影響はなさそうなので、限界突破の手段として有効な気がする(精神的にもモチベアップになるし)
- 高重量を扱えるので、「重さへの慣れ」がつくのもよさそう
- チートレップのデメリット
- フォームが崩れるため、下手をすると関節や腱への負荷が大きくなるかも
- どうしても効かせたい筋肉への刺激は散りやすくなるし、そればっかやってると悪いクセが定着しがちかも
ってあたりっすね。簡単に言うと、「メインはストリクトを心がけつつ、追い込みの手段としてチートを取り入れるのはあり」って感じかなーという。「あと1〜2回どうしても上げたい!」というときにだけチートレップを織り交ぜるのが実用的じゃないでしょうか。
今回の研究であらため思ったのは、筋肥大の鍵は「いかにトレーニングの量を増やすか?」であって、それさえ達成されれば「どんなフォームか?」は二の次なんだろうなーってことでして、「限界を突破する最後の1回」としては良い気がしますな。
私自身も最近では、レッグプレスやショルダープレスの終盤で「よし、1回だけチートいくぞ!」って感じで使うことがあるし、これが意外と効いてる感覚があるんですよね。もちろん、やりすぎるとヒジや腰を壊すので、あくまで“スパイス”的な使い方にとどめておりますが。