ミッドライフ・クライシスは本当か?最新12万人調査が示す中年期のメンタルの真実
「40代〜50代は“幸せの底”だ」みたいな話がよくありますな。いわゆる“ミッドライフ・クライシス”ってやつで、ドラマや映画でも、この時期は「何か大きな変化を求める時期」として描かれがちだったりします(中年男性がバイクを買って旅に出たりとか)。
確かに、40〜50代は仕事・家庭・健康などの面で負荷が重なる時期だし、若い頃のような体力・柔軟性の低下を実感しやすいのも事実。なれば、ミッドライフ・クライシスは避けられないようにも思えるわけですけども、最新の国際的な大規模研究(R)によると、この「中年期=幸せの底」って考え方は、かなり怪しいと結論してておもしろかったです。
これはフンボルト大学の研究なんですが、その内容を見る前に、そもそも「なぜミッドライフ・クライシス説が、メジャーになったのか?」ってところを押さえておきましょう。話のネタ元は行動経済学者たちが行った国際調査で、世界中で幸福度の変化を調べまくったら、20代から徐々に幸福度が下がり、40〜50代で底を打ち、60代以降に再び上がるというパターンが浮かび上がったんですね。これをもとに、「幸福度はU字型に推移する」って説が生まれて、ミッドライフ・クライシスの根拠になったわけです。
が、ここには批判もありまして、
- 幸福度やうつ症状のスコアは1〜2点刻みの単純スケールを10点満点に換算することが多い。そのため、この変換過程で「きれいなU字」に見えるだけじゃないの?
- この手の研究は横断研究が多く、「40歳と50歳の差が年齢によるものか、生まれた年代の差なのか」が分からなくない?
ってあたりがよく耳にするところです。確かに、どちらも説得力のある批判じゃないでしょうか。
ってことで今回の分析は、過去の研究よりも一気に大規模になりまして、
- 対象は世界の17カ国から約12万人!
- 調査は1938〜1974年の間に開始
- 年齢層は初回測定時に45〜65歳
- 縦断研究(同じ人を長期追跡)を複数組み合わせて統合分析している
みたいになります。残念ながら、この調査には日本のデータが含まれてないんですが、韓国と中国という割と近しいエリアは入ってますんで、ある程度の参考になるんじゃないかと。この手の分析としてはかなり大規模で、単一国・単一世代の限界を超えて、「中年期のうつ症状」が国・世代・個人差でどう違うのかをチェックできるのが良いですねー。
で、その結果を見てみると、「中年期のうつ症状」は国によって全く傾向が違う感じでして、
- うつ症状が低め:北欧諸国、地中海諸国、メキシコ
- うつ症状の改善傾向が見られる国:イングランド(後に生まれた世代ほど低スコア)
- 全体的傾向:国を問わず、教育レベルが低い人、離婚・別居者、慢性疾患が多い人は、中年期からリスクが高めになる
みたいになってます。全体的には、つまり「中年だからメンタルが落ち込む」ってわけではなく、「どこで、どんな条件で中年期を迎えるか?」がメンタルを左右するってことですな。
では、どのような「条件」が重要なのかと言いますと、研究チームは次のようなものを特定しておられます。
- 教育レベル: 学歴が低いほど、うつ症状スコアは高い傾向がある(これは世界共通)。知識・スキル不足が職業選択や収入の幅を狭め、ストレス耐性にも影響してるのかもしれない。
- 婚姻状況:離婚・別居は孤立感を増し、社会的サポートの減少につながるため、メンタルの悪化につながりやすい。
- 健康状態:当たり前だけど、慢性疾患が多いほどメンタル低下。痛みや不調は直接的に気分を落とすので、これは当然。
- 歴史的背景:同じ国でも、生まれた年代によって教育制度や経済状況、ジェンダー平等の進み具合が異なる。そのため、就業機会や社会的役割分担などで違いが出てくる。
ってことで、こうして見ると中年期の幸福度ってのは「年齢よりも“人生の置かれた条件”に依存している」って側面のほうが強そうっすね。言われてみれば当たり前のような気もしますけども。
さらに、この研究には嬉しい発見もありまして、多くの国では後に生まれた世代ほどメンタルが良好って傾向が見られてるんですよ。これも不思議な現象ですけども、考えられる理由としては、
- 精神疾患への理解と支援制度の充実
- 社会的スティグマの減少
- 職場や家庭における役割分担の変化
みたいなところが過去よりも進んだのが大きいのかもですね。もちろん、SNSや経済格差の拡大といった新たなストレス要因も生まれてますが、少なくとも「中年期=昔より不幸」を支持するデータは確認されておりません。
そんなわけで、もしあなたが「ミッドライフ・クライシスに入ったかも……」と思ってたとしても、それは単純に“年齢の呪い”ではなさそうであります。その代わりに見直すべきは、
- 健康状態(慢性疾患や生活習慣)
- 人間関係(特に孤立はメンタル悪化の最大要因の一つなので、趣味のコミュニティやボランティアなど、「仕事以外のつながり」を作る。)
- 仕事や収入などの社会的条件
ってとこでしょうね。これらは、年齢そのものよりもはるかにメンタルに影響するみたいなんで。
そう考えますと、このデータから言えそうなこととしましては、
- 中年期のメンタルは、年齢よりも“条件”で決まる。
- なので、「中年だから落ち込むのは当然」というのは思い込みである可能性が高いので、いまの自分の状態を「条件」と「選択」の結果として分析して、改善可能な部分に集中したほうがよさそう。
- 上記を気をつければ、「中年期はむしろアップデート期」に変わると思われる。
みたいになりましょう。とりあえずミッドライフ・クライシスは都市伝説っぽいので、「40代だから」「50代だから」という自己暗示をやめ、改善可能な部分から手をつけるのが良さそうであります。私も肝に銘じないと……。