AIが選んだサプリで−12%のダイエットに成功!?という論文にツッコミを入れつつ、AIの可能性を探るエントリ
「AIが選んだサプリを使ったらダイエットに成功しまくったぞ!」という研究(R)が、いろんな意味で面白かったので内容をチェックしときましょう。これはロシアとアメリカの研究チームが行った実験で、まずは大きな結論から言いますと、
AIが“個別に処方したサプリ”を6ヶ月飲み続けた人は、医師が処方したサプリを飲んだ人より明らかに多く痩せた
みたいになります。AIがチョイスしたサプリのダイエット効果がハンパなかった!という話でして、この結論だけ見ると、「やはり現代はAIの時代!AIはついに人間の医師を越えた!」みたいに思っちゃいそうなんですが、実際に内容を読んでみたら、「サプリ研究かと思ったら、実はこれって心理実験では?」と感じられる不思議な内容だったんですよね。
この調査の対象は40〜60歳の男女60人で、BMIは25以上。いわゆる"軽度肥満〜肥満"の人たちを対象にしたダイエット実験であります。
実験では、全員に「1日−500kcalの食事制限」と「週150分の運動」をしてもらうという定番のダイエットプログラムを指示。そのうえで、
あるグループにはAIがサプリを個別に処方する
もう一方のグループには医師がサプリを個別に処方する
って感じでグループ分けして、6ヶ月後の成果を比べたんだそうな。
その結果を簡単にまとめてみると、
- AIグループ:平均 −12.3%の減量に成功
- 医師グループ:平均 −7.2%の減量に成功
みたいになってます。6ヶ月で体重の12%減というと、70kgの人なら8.4kg減ってことなんで、この結論だけみると「時代はAIダイエットだ!」と思いたくなるとこですな。
では、もうちょい掘り下げてみましょう。論文では処方の細かいレシピは公開されてないんだけど、よく出てきたサプリは次のようなものでした。
食物繊維(イヌリン・サイリウムなど)
緑茶エキス(カテキン)
CLA(共役リノール酸)
カプサイシンやカフェイン入りの“燃焼ブレンド”
ビタミンD、クロム、マグネシウムなどのミネラル
オメガ3
ということで、実に定番と申しますか、ダイエットサプリについて少し調べたことがある人なら、「はいはい、いつものメンツね」って感じじゃないでしょうか。
一応これらのサプリ、痩せる効果はゼロではなくて、たとえば緑茶エキスなら−1kg弱ぐらいのダイエット効果が言われているし、食物繊維は食欲をわずかに抑制する働きがあるし、CLAは脂肪減少にわずかに貢献することが報告されてますからね。ただし、ここで大きく問題になるのが、「これらのサプリをすべて合わせても、せいぜい2〜3kg分の効果しか説明できないよなぁ」ってところなんですよ。それぞれの効果はあくまで微妙なもんでして、いかにひとまとめにしたところで、たいした成果は出ないってのが一般的な考え方なんで。
にもかかわらず、この研究におけるAIグループは、医師グループを約3kg以上も上回ってるんですよね。なんとも面妖な結果じゃないでしょうか。
で、なんでこのような結果が出たのかを考えてみたんですが、よく内容を読んでみると「AIのナッジ効果がデカいからじゃないか?」って気になってきました。というのも、このAIってのは、ただ個人に適したサプリを選んでくれるだけではなく、
遺伝子データや血液データを解析してくれる
定期的にフィードバックを返してくれる
経過データを見ながら処方を調整してくれる
という人間では不可能なレベルの手厚いサポートをしてくれる感じになってたみたいなので。
これは、行動経済学でいうナッジに近いところがありまして、これだけAIがサポートしてくれると、以下のような行動変化が自動的に起きるんじゃないかと。
自己効力感アップ:「自分は科学的なプログラムにサポートされているのだ!」という感覚が生まれる
コミットメント強化:「自分のデータはAIに見られているから、次の測定で結果が悪いとバレる!」という意識が生まれる
監視効果(ホーソン効果):「AIに見られている!」と思うと、人はがんばりやすくなる
投資効果:使うサプリの数が増えるほど「元を取らねば!」と努力する
一貫性の原理:AIが遺伝子や血液データを解析したことで当事者意識が生まれ、「これは自分で選んだダイエット法なんだ!」という気分になる
言い換えると、AIのおかげでナッジ的な要素が強まり、それによって参加者たちはダイエットのモチベーションが上がったんじゃないかなーって気がするわけです。AIが処方したサプリを信じる気持ちがやる気を生み、それによって参加者は食事と運動に本気を出せたってことなんじゃないか、と。そうでもないと、−12%のダイエット成果は、さすがに説明がつかないので。
ということで、この研究から現実的な教訓を引き出すのであれば、
- AIにナッジさせてモチベーションを高めるのはアリだ!
ってことになるかもしれません。要するに、この実験のようにAIの力を借りて、
- AIに進捗を毎日可視化してもらい、監視効果を生む
- AIに毎週フィードバックを出してもらって、外部評価を強める
- AIに行動を細分化してもらって、小さな達成感を得る
- AIにスケジュールを出してもらって、意思決定を自動化する
- AIに励ましてもらって「やってる感」を演出し、自己効力感を高める
みたいに運用してみるといいんじゃないでしょうか。確かに、ここらへんを人間の医師にやってもらうのは不可能なんで、行動変容のためにAIを使うってのは有効かもなーとか思ったりしました。論文が意図する結論とは違う感じになりましたが、まあそんなところでひとつ。


