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肉はメンタルに良いのか悪いのか?そして、ベジタリアンはメンタルに良いのか悪いのか?問題

  

 

ベジタリアンはメンタルに良いのか?」って問題をガッツリ調べたメタ分析(R)が出てましたんで、これはぜひ中身をチェックしておきましょう。

 

 

 

最新メタ分析が示す「肉とメンタル」の意外な関係

この大規模メタ分析は20本の研究と17万人超のデータを統合したもので、研究チームは「肉を食べる人」と「肉を食べない人(菜食主義者・ヴィーガン)」を比較して、うつ病や不安症の症状にどのような差があるかを調べたんですよ。細かい話をするまえに、分析の大きな結論をまとめておくと、

 

  • 肉を食べる人のほうが、うつも不安も軽い傾向があった!

 

みたいになります。効果量も言っておくと、

 

  • うつ:g = 0.216(p < .001)

  • 不安:g = 0.17(p = .02)

 

って感じでして、簡単に言えば肉を食べる人ほど気分が安定し、精神的に健康だったんですよ。おもしろいもんですなぁ。

 

さらに興味深いのは、研究の質が高いほど、「肉=メンタルが健康」の関係が強く出たってところでしょう。要するに「データがしっかりしている研究ほど、“肉=メンタルに良い”傾向が明確だった」ということでして、こいつはちょっとベジタリアンにはがっかりですな。

 

では、なぜ肉を抜くとメンタルに良くないのか?メカニズムをいくつか考えてみますと、こんな感じになります。

 

① 脳の材料が足りなくなるから

肉をやめることで最も大きく減るのは、ビタミンB12、鉄、亜鉛、DHA・EPAといった栄養素。これらは「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンやドーパミンを合成する材料であり、脳の神経伝達を維持するために欠かせないんですよ。

 

この点で、たとえばB12が不足すると、神経細胞の絶縁膜(ミエリン)が傷ついて、信号伝達がスムーズにいかなくなったりするんですよね。すると、思考スピードが落ちたり、気分の浮き沈みが激しくなったりするわけです。

 

② 慢性炎症がメンタルを蝕む

もうひとつのポイントは「炎症」であります。鉄や亜鉛などのミネラルは抗酸化や免疫制御にも関与してまして、不足すると体内の炎症レベル(CRP値など)が上昇するんですよ。菜食によってミネラルやオメガ3が不足すれば、このプロセスが加速して慢性炎症が発生。そのせいでセロトニン合成が阻害され、やる気や幸福感を生む神経経路を鈍っちゃうんじゃないか、と。

 

③ 「優しさ」と「脆さ」が表裏一体なのかも

心理的な側面から見ると、菜食主義者には「共感性が高く、倫理意識が強い」傾向があると報告されてたりします。もちろん、これは素晴らしい資質なんだけど、同時にストレスや社会的不安に敏感になりやすいとこもあるんですよね。つまり、「心が繊細な人が菜食を選びやすい」という因果の逆転も十分に考えられまして、これも判断が難しいところです。

 

研究チームもこの点を指摘してまして、肉の摂取量だけでなく、性格特性やライフスタイルがメンタルに影響している可能性もあるんじゃないかと言っておられます。

 

 

とはいえ、「肉を食べれば幸せ」ってことでもない

で、ここまで読むと、「じゃあ肉はメンタルに良いのか!」と思うかもしれませんが、残念ながら、そういう話でもないんで注意してくださいませ。というのも、今回の研究の大半は観察研究なんで、「肉を食べたから元気になった」のか、それとも「元気な人が肉を食べているだけ」なのかはよくわかんないんですよ。また、1件だけ含まれていたランダム化比較試験(RCT)もたった2週間の短期実験なので、やはり厳密な因果はよくわからんとしか言えないところです。つまり、現時点では「肉がメンタルに良いかはわからん」としか言えないんですよね。

 

ということで、この研究をふまえての現実的な提案をしてみると、こんな感じになるんじゃないでしょうか。

 

  1. 極端な食事をやめる:動物性食品と植物性食品を善悪で分けても意味がないので、両者を競合ではなく補完関係と考えるのがファーストステップ。どちらか一方を排除すれば、もう一方が肩代わりできない欠乏が起こるので、野菜や豆類からは抗酸化物質や食物繊維を摂り、肉や魚からは必須アミノ酸やミネラルを補うみたいな感じで考えるとよろしいのではないかと。

  2. 菜食を選ぶなら、補うべき栄養を明確に:倫理や環境の観点から菜食を選ぶのは素晴らしいことなんだけど、その場合は「足りない栄養をどう補うか」を同時に考えてくださいませ。具体的には、

    ビタミンB12:動物性食品にしかほぼ含まれないので、ベジタリアンはサプリ必須。

    鉄・亜鉛:吸収率が低いため、豆や海藻、ナッツを多めにするべし。

    オメガ3脂肪酸:魚を食べない人は藻類由来のDHAサプリを摂取すべし。

  3. 魚を取り入れた“ゆるベジ”が最強:完全菜食よりも、魚を取り入れたペスコ・ベジタリアンのほうが、健康・寿命・メンタルすべての指標で有利というデータが増えております。魚に多く含まれるEPA・DHAは、うつ症状の改善効果が多数報告されており、2019年のメタ分析では「抗うつ薬に匹敵するレベル」とも結論づけられてますんで、ここは参考にしておきたいっすね。基本的には、週に2〜3回、サーモン・サバ・イワシなど脂ののった魚を食べるだけでも、メンタルの安定度はかなり違ってくるはずであります。

 

ってことで、私たちが口にする食べ物ってのは脳の調整にも欠かせないので、上のようなことは必ずやっといてくださいませ。ざっくり言いますと、タンパク質は思考の速度を、脂質は情緒の安定を、ミネラルは集中力を、ビタミンは神経の修復を担ってると言えますんで。菜食を選ぶにせよ、肉食を選ぶにせよ、どちらでも“欠けたものを補う”意識がなければ、脳は必ず不調を起こしますんで。

 

まあベジタリアンの思想は尊いとは思うものの、人間の脳は“雑食”で進化してきたんで、基本的には肉を食うほうが調整が楽なのだろうと推測できるんじゃないでしょうか。どうぞよしなにー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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