他人の意見を聞いたほうが正解率が上がるのに、なぜ私たちは「相談しないのか?」問題
人生で大きな決断に直面したときに、皆さんはどうしてますでしょうか? 友人や家族、あるいはネットの匿名フォーラムに助言を仰ぐ人もおりましょうし、「直感で決める」「とにかく自分で考える」というタイプの人もおりましょう。
「他人に聞く」のと「自分で決める」のとどちらがいいかってのは難しい問題ですけども、いまんとこ多くのデータが示すのは「基本的には他人の意見を受け入れたほうが決断の精度は上がるよ!」ってとこでしょう。たとえば、ある研究(R)では、他者と相談することで、
- 人は自分の判断にはバイアスがないと思いがちだけど、他人と話すと自分の認知的バイアスや誤信に気づきやすくなるよー
- 自分の判断を他人に説明しようとすると、その過程で思考が整理されて、より合理的な選択が可能になるよー(いわゆる「アウトプット効果」)
みたいな効果を得られるとされております。たいていの人は物事を判断するときにバイアスがかかるので、他人の視点を取り入れることで、より客観的・冷静に問題を捉えやすくなるんだって話ですね。ここらへんは、他にも複数のデータの裏付けがありまして、よほどのことがない限りは他者の判断を仰いでみるのが正解なんじゃないかと。
世界12カ国3,500人以上に、決断スタイルを尋ねたら
で、新しい研究(R)も、「他人に意見を聞く問題」をテーマにしたものなんですが、過去の類似研究とはちょっと趣旨が異なってまして、
- 人間って「自分で判断したい!」と思うバイアスがあるんじゃない?
ってところを掘り下げております。多くの人は、そもそも「他人に相談しない」ってバイアスを持っていて、そこを脱しないと良い意思決定ができないのではないか、と。意外とありそうでなかった観点ですな。
これはウォータールー大学などの研究で、12カ国・3,500人以上を対象に、意思決定時のスタイルを尋ねたクロスカルチャー研究になります。参加者のプロファイルは幅広くて、学生から地域住民、さらには先住民族コミュニティ(南米アマゾンの例あり)まで含まれていて、「教育レベルも社会構造も異なる人々」を幅広く集めていてすごい。
で、調査では、参加者に以下のような意思決定の場面を提示してます。
- 臨時収入を得たら、どう使うか?
- 近所の人を助けたいが、自分の時間やリソースをどこまで犠牲にするか?
- 旅行に行きたい場所が2つあったら、どちらを選ぶか?
- 大学をどこにするか?
でもって、それぞれの問いに対して、以下の4つの戦略を提示したんだそうな。
- 直感で決める
- 熟考・論理的思考で決める
- 友人や知人に相談する
- 広いコミュニティや集団、群衆の知恵に頼る
ってことで、おおまかに分けると「自分で決める」系が2つ、「他人の助言を聞く」系が2つって感じですね。この調査では、すべての参加者に「4つの戦略のうちどれを使いたいか?」「4つの戦略のなかで、どれが最も賢明だと思うか?」「自分の文化ではどれが多いと思うか?」「この選択をしたらどんな気分になると思うか?」などを尋ねまして、ざっくりと以下のような結果が出ております。
- どの国・どの文化圏でも、「自分で決める」という選択肢が最も多く選ばれていた。
- 「友人に相談する」「コミュニティ・群衆知恵に頼る」という選択肢は、概して少数派。
- 国ごとの差が少ないこともポイントで、たとえば中国では自己判断を好む人が約69%だったのに対して、スロバキアでは約87%だった。
- 参加者は「自分は自己判断するけど、他の人は他人に相談してそう」と感じていた。
この結果について、研究チームは「自分で判断したがる傾向は、あらゆる文化に共通する傾向ではないか」と言っておられます。要するに、どんな国の人も「自分で判断するぞ!他人には相談しないぞ!」と思うバイアスを持っているんじゃないのか、と。
なぜみんな「他人に相談しない」のか?
では、本当は他人に尋ねるのが良いにも関わらず、みんな自分で判断しようとするのかってとこが気になりますが、研究チームは以下のように推測しておられます。
- 決断の「所有感」が欲しい:人は自分で決めたという実感を持ちたいもの。誰かの意見や周囲の声に自分の意見を左右されてしまうと、「ああ、自分の責任じゃないもんな」と無意識に感じてしまい、もしその決断がうまくいかなかったときに精神的な負担が増す可能性がある。
- 熟考の魅力:今回の調査では、「自分で熟考するぞ!」ってやり方が、最も支持を集めていた。つまり、みんな他人に尋ねるよりも「自分でじっくり考えたのだ!」という実感が欲しいのではないかと考えられる。
- 文化・社会的な調整役割:文化の影響もありそうで、調査では「独立志向文化」の方が「自己で判断するぞ!」って傾向が強く、「相互依存文化」の方が「他人に相談するぞ!」ってスタイルを少しだけ取り入れる傾向があった(あくまで少しだけ)。
ということで、どうも私たちは「自分で決めた実感を持ちたい」という欲求や「自分で考えたほうが納得できる」といった理由から、他人の意見を聞かずに自分の考えだけで突っ走ってしまう傾向があるみたいっすね。これはよろしくないですなぁ。
このバイアスを抜け出すのはなかなか難しそうですけど、これをほっとくと「一人よがりの意思決定」がクセになって視野の狭い選択ばかりするようになりかねませんからね。できるだけの対策は取っておいたほうが良さそうな気がしております。たとえば、
- 決断前に「自分で熟考」→「相談」ルーティンを設ける:問題が起きたら、「まずは自分で最低2〜3日熟考したあと、信頼できる他者に意見を仰ぎ、最後に自分で決める」って流れをルーチン化しておくとよさげ。
- 「相談」への考え方を変えてみる:なかには「相談は依存だ!恥ずかしいことだ!」と思いがちな人もいるんだけど、そんな思いが湧き上がったときは「いや!これはより良い判断のための知見を集めているのだ!」と考えてみる。
- “相談しなかった自分”を振り返る機会を設ける:もしなんらかの決断が失敗したら、その時の意思決定までのプロセスを振り返ってみて、「なぜ相談しなかったか」「相談すればどうなっていたか」を考えてみるのもよさげ。
みたいな感じじゃないかと。いずれにせよ、世界の多くは「自分で決めたい!」と感じる心的な傾向を持ち、そのせいで意思決定の精度が落ちている可能性はありますんで、これはどうにかしておきたいところっすね。私もふくめて、自分なりの「自己判断&相談」のルールを設定してみておくとよいかもですなぁ。


