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「本当の自分を知れ!」は、思ったより難しいけど、やる価値はあるぞ!という研究の話


「自分のことは自分が一番よく知っている!」などと、つい思ってしまうのが人間というものでございます。

 

が、『科学的な適職』などにも書いたとおり、近年の心理学の世界では「いや、自分が自分に対して思ってることって、だいたい間違ってるよねー」って研究がめちゃくちゃ多いんですよ。たとえば、だいたいの人は「自分は平均より頭がいい!」と思ってるし、「自分は他人よりも親切だ!」みたいに思っているって話が、いろんな調査で繰り返し観察されてるんですよね。

 

でもって、最近出た論文(R)はこの話題をさらに掘り下げてまして、「自己認識の限界とその改善法」について整理してくれていてためになります。ということで今回は、

 

  • 「なぜ“正しい自己理解”が重要なのか?」
  • 「どうやったら本当の自分に近づけるのか?」

 

という2つの問いについて探ってみましょう。

 

この研究は、最新の研究を網羅的に整理して、「自己認識の限界」とそれが人生に与える影響についてまとめたものです。ここで言う「自己認識」ってのは、「自分の性格・能力・好みなどに関して、どれだけ正確な理解を持っているか」のことで、たとえば、「私は几帳面だ」という信念があったとして、それが本当に事実と一致しているか?ってところを問題にしてるんですな。

 

そこでまず基本として、このレビューでは「私たちの意思決定は“自分をどう思っているか?”に左右される」って前提を強調しております。たとえば、「自分は人と関わるのが好きだ」と思ってる人は営業職を選ぶし、「自分はストレスに強い」と思ってる人は激務の仕事にチャレンジするかもしれないし、「自分は思いやりがある」と信じていれば恋人との関係に安心するでしょうから、これは当たり前の話ですね。

 

が、ここで怖いのが、「もしその『自分に対するイメージ』がズレてたら?」って可能性であります。もし上記のような場面でズレが起きていたら、自分のイメージに従って選んだはずの仕事や人間関係が、どこかでミスマッチを起こして、あとあと不満や後悔につながるだろうことは容易に想像がつくでしょう。つまり、「本当の自分を知らないまま生きる」と、人生の方向性を間違えることにつながっちゃうかもしれないわけです。

 

 

ただし、ここで問題は、「本当の自分を知るのは割と難しい」ってとこです。これまでの心理学の研究によると、

 

  • 自分の知性
  • 自分の魅力
  • 自分の誠実さ
  • 自分の優しさ

 

といった“社会的に望ましい特性”に関しては、私たちは平均よりも高く見積もる傾向があるってことがわかってまして、「優越錯覚」といった名前もついております。これはとく
にモラル系の特性で起きやすくて、たとえば「私は人に感謝できる」「私は思いやりがある」みたいな部分は、たいてい“盛って”認識されるものなんですな。研究チームによれば、とくに「自分は正直で謙虚だ」と考えている人ほど、周囲との認識がズレている傾向があるそうで、この傾向がある人は要注意っすね。

 

でもって、これがやっかいなのは、「すでに自分は十分いい人だ」と信じていると、その部分を伸ばす努力をしなくなっちゃうところ。実際、性格変容に関する研究では、 多くの人が「外交的になりたい」「不安を減らしたい」とは思う一方で、「もっと正直になりたい」「もっと感謝できる人になりたい」とは思う人は少ないって傾向が報告されてたりします。なんとも困ったもんですな。

 

じゃあ、どうやって「自分のズレ」を知ればいいのか?ってことですが、この点で最近注目されているのが、性格フィードバックの考え方なんだそうな。これは、

 

  • 自分自身の自己評価(セルフレポート)
  • 家族や友人、同僚など複数の“知ってる人”の評価(インフォーマントレポート)

 

を統合して、「あなたは他人からこう見られてますよ」と返してくれる仕組みのことでして、これにより「自分はけっこう公平なタイプだと思ってたけど、みんなの評価だとそこは平均以下だった……」みたいな“ズレ”を自覚できるわけです。

 

実験でも、「道徳的特性(正直さ・謙虚さ・感謝など)」に関するフィードバックは割と効果が高く出ていて、「自分を見直すきっかけになった」や「ちょっとショックだったけど役立った」という反応が多かったんだそうな。もちろん、これは道徳的な特性だけじゃなくて、あらゆるズレの矯正に役立つでしょうな。

 

もちろん、フィードバックなら何でも鵜呑みにしていいわけではなく、「以下のような条件を満たすものを選んでねー」って指摘もされておりました。

 

特徴説明
 一貫性がある複数人が同じことを指摘してくるかどうか
 具体的である「なんか違う」ではなく「会議で遮るクセがある」のような明確さがあるかどうか
 タイミングが適切感情的になってるときは受け止めづらいので要注意
 信頼できる相手から批判だけする人、ネガティブな人の言葉は割り引いてOK

 

この中でも大事なのは「一貫性」で、たとえば「あなたってちょっとせっかちだよね」と彼女・同僚・親友・上司・セラピストの全員に言われたら、それは“真実”と受け止めたほうがいいでしょう。まあ当然っちゃ当然ですけども。

 

さらに、このフィードバックを自ら実行していくのであれば、

 

  1. 「自分の正直さ・公平さ・感謝深さ」を10段階で自己評価してみる
  2. 信頼できる人に「私って、そういう点でどれぐらいだと思う?」と聞いてみる
  3. 両者にギャップがあったら、その理由を3つ書き出してみる

 

みたいなワークをしてみるのもアリでしょう。自己認識を高めたいなら、信頼できる他者からのフィードバックがカギになりますんで、これを積極的に求めに行くわけっすね。どんな世界でも自己認識はめちゃ大事なので、ちょっとお試しあれー。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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