よい考えを浮かびやすくする最大のコツは「考えない」こと
よく考えるには考えてはいけない
「よく考えたければ考えるな!」みたいな論文(1)がおもしろかったんでメモ。
これはバル=イラン大学の研究で、「ヒトの脳がよく働くのはどんなとき?」って問題について調べたもの。全部で3つの実験をおこなってまして、だいたいのデザインはこんな感じです。
- 全員の参加者に「語彙連想タスク」をやってもらう
- そのうち半分は「7桁の数列」を記憶しながらタスクをこなす
- 残りの半分は「2桁の数列」を記憶しながらタスクをこなす
語彙連想タスクってのは、ひとつの言葉に対して連想した言葉を瞬時に返すゲームのこと。「犬」と言われたら「首輪!」とか「ハチ公!」とかできるだけスピーディに答えるわけですね。このときに、できるだけ元の言葉から離れたユニークな解答が出せると高得点。
脳の負荷によってアイデアの浮かび方が変わる
で、一連の実験を繰り返してなにがわかったかというと、
- 7桁の数列を覚えたグループ(=脳の負荷が大きい)は連想タスクのオリジナリティと創造性が低くなった(白→黒みたいな)
- 2桁の数列を覚えたグループ(=脳の負荷が少ない)は連想タスクのオリジナリティと創造性が高くなった(白→雲みたいな)
って感じです。どれだけ認知に負担がかかってるかによって、脳の働きが大きく変わってくるわけですな。
この現象は脳の処理スピードにも影響をあたえてまして、脳の負荷が少ないグループは、負荷が大きいグループより返答が速いうえにアイデアの質もよかったそうな。
探求モードと活用モードを意識する
この現象について研究チームは、私たちの脳には「探求モード」と「活用モード」の2つがあるんだってポイントを強調しておられます。
- 探求モード:好奇心がアップして、周囲の新しい情報を求めようとするモード
- 活用モード:好奇心が低下し、すでに慣れ親しんだ情報に頼ろうとするモード
新しい土地に旅行に行けば探求モードに切り替わるし、自宅に帰ってくれば活用モードが起動するしで、多くの人は2つの状態を切り替えながら生きてるわけっすね。
これはどっちがいいって話じゃなくて、両者のバランスが大事だよーってことです。探求モードばかりだとリスクばっか取って危険な行動をしがちだし、活用モードばかりだと新しい発見がなくなって進歩しなくなっちゃいますからね。
ヒトの脳は探求モードがデフォルト
が、この実験で大事なのは、「ヒトの脳は探求モードがデフォルトなんだ!」って事実がわかったとこ。どうやら脳が普通の状態(特定の負荷がかかってない状態)だと、私たちは自然と探求モードに入ってるようなんですな。
この実験からわかるのは、人間は「探求モード」こそがデフォルトの状態だということだ。私たちの脳は、慣れ親しんだ思考を離れて、代わりにユニークなアイデアを出そうとする基本的な性向を持っている。
とのこと。本来、ヒトの脳は良いアイデアを生み出す状態がデフォルトなのに、多くの現代人は日常的に頭に負荷を与えているせいで、活用モードに入りっぱなしの人が多いのではないか?ってのがここでの問題意識です。
その原因はさまざまでしょうが、現代で多いのはやっぱ「反すう思考」でしょうね。過去の失敗なんかを頭のなかで何度も考えてしまう現象で、近年では鬱病の最大原因などと言われております。実際、鬱病や不安症の人は、集中力は上がるかわりに創造性がガクンと落ちることがわかってまして、
- 反すう思考が起きる
- 脳の負荷が高まる
- 脳が活用モードにシフト
- 脳が考えられなくなる!
って流れになってるのかなーと愚考する次第です。つまり、ちゃんと考えたいなら思考の量を減らすのが大事ってことですな。
さらに研究チームいわく。
ヒトの脳が探求に向かうようにできているのは、脳の報酬システムと大きな関わりがある。周囲の「新しいもの」に注意を向ける機能は、脳の報酬と学習のシステムが関係している。新しいものを見つけると、ヒトの報酬と学習機能が活性化するのだ。すなわち、新しい情報とは、それだけで脳にとっては報酬なのだ。
とのこと。探求モードはそれだけで脳にとって快適な状態を生み出すわけですねー。
まとめ
そんなわけで、ついいろいろ考え事をしちゃうような人は、いざというときに頭が上手く働いてくれない可能性が大なので、定期的に脳のメモリを解放してあげるのが吉。その方法としては、
あたりが定番になってくるかと思われます。ただ、「脳には探求モードがあるんだ!」と理解したうえで「あえてボーっとしてみる」のも有効なんで、軽く意識してみるだけでもよいかと思われます。