不眠のダメージを数倍に悪化させる「不眠アイデンティティ」の恐怖
不眠そのものよりも不眠への思い込みが重要
「どうしても不眠が治らなくて…」 みたいなお悩みをよくいただくわけです。当ブログでは、快眠サプリとか睡眠チェックリストとかいろんな手法を紹介してきたわけですが、これらの方法を試してみてもなかなか改善せず、疲れがたまっていくばかり、みたいな。
まー、眠れない原因はいろいろなんで「端から試してみて!」としか言えないんですが、直近で出た論文(1)では「不眠そのものよりも、不眠への誤った思い込みのほうが問題なのだ!」って結論になってて参考になります。
本当に不眠の悪影響をもたらすものはなんなのか?
これは、睡眠研究の泰斗として有名なケネス・リックスタイン博士によるレビュー論文。世界中のスリープラボで行われた20件の実験データをチェックして、「本当に不眠の悪影響をもたらすものはなんなのか?」って問題について調べたんですね。
それぞれの実験は、おもに睡眠の質と主観的な睡眠の満足度について調べてまして、「眠りにつくまで何分かかりますか?」みたいな質問を使ったり、睡眠ポリグラフ検査で脳波などを客観的に調べたり、いろんな報告から不眠について探っております。
それで、まずどんなことがわかったかというと、
- 睡眠の質が低いだけでは不眠にはならない!
ってことです。たとえば1995年に400人を調べた実験では、「睡眠の質が低い」と判断された人でも、不眠になる人とならない人がハッキリわかれたんだそうな。
ここでいう「睡眠の質が低い人」の定義ってのは、「最低でも週3回以上のペースで、入眠までの時間が30分以上かかる」ぐらいの感じ。いかに寝付きが悪かろうが、毎晩の睡眠時間が足りなかろうが、決して不眠になるわけじゃないんだ、と。
自分の睡眠への考え方がキーポイント
では、なにが不眠になるかどうかを分けるのかというと、
- 自分の睡眠の質に不満があるかどうか
だったそうな。どんだけ毎日の睡眠時間が足りなくても、自分に対して「まぁこんなもんだろう」ぐらいに思ってる人は、必要以上に日中の疲れや不安感が悪化しないらしい。まぁ「よく眠るためには「よく眠れた!」と思い込むだけでOKだった」って話もありますし、それだけ睡眠は思い込みに左右されやすい現象なんでしょうな。
さらに、このレビューでは追試論文もチェックしてるんですが、それによると、自分の睡眠に不満がない人(ただし睡眠の質は低い)は、睡眠の質が高い人にくらべても、とくに不安や鬱の発症リスクが高まることもなかったそうな。
ついでに面白いのが1,700人以上を調べた実験で、自分の睡眠に不満がある人が高血圧になる確率は、不満がない人にくらべて300〜500%も上らしいい。考え方の違いだけで、ここまで差が出るものなんですねぇ。
ちなみに、この問題は「睡眠の質は高いのに自分の睡眠に不満がある人」でも同じでして、睡眠に不満がない人とくらべた場合、やはり日中の疲労や不安が有意に高まるんだとか。実際、このレビューだと、「本当はよく眠れてるのに『自分は不眠だ!』と思ってる人」の割合は、全体の不眠患者のうち37%にものぼったらしい。いやー、すごいもんですね。
不眠アイデンティティには認知行動療法がベスト
リックスタイン博士は、このように自分の睡眠に不満がある人を「不眠アイデンティティ」と呼んでおります。本当はそこそこ眠れているのに、なんらかのバイアスのせいで「俺はちゃんと寝てない!」と思っちゃうパターンですな。
なかなか難しい問題ですけども、これを解決するためには「やっぱ認知行動療法が有効じゃないかなぁ」とのこと。たとえば、「15分以内に眠りに落ちるのが正しい睡眠だ!」と思ってる人の場合は、
- 15分以内に眠れない
- 「自分の睡眠はおかしい!」と思い始める
- 不安が悪化する
- より眠れなくなる
のような悪循環にハマりがちなんで、まずは根っこにある「15分以内の寝付きが正常」ってバイアスを正して、「どんな人でもすぐに眠れるときと眠れないときがある」みたいに、もっと現実的な考え方にスライドさせてくわけっすね。
まぁ、自分が睡眠に対してどんなバイアスを抱いているか?を判断するのは難しいんで、地味に自動思考キャッチトレーニングをやるか、心当たりがある方は認知行動療法系のセラピーに行ってみるのをオススメします。とりあえず「不眠アイデンティティってのがあるんだなー」と意識するだけでもだいぶ違うのではないかと。