6,147本の「映画」をテキストマイニングしてわかった「メガヒット作」の条件とは?
「売れる映画のプロットを解析したぞ!」って研究(1)がおもしろかったんでメモ。
これはコーネル大学の調査で、過去40年に公開された映画から6,147本を選びまして、
- それぞれの米国内での収益を調べる(うち3,051本は世界での収益を計算)
- IMDbのユーザー評価、レビュー数を調べる
- なんらかの賞を取ったかを調べる
- 全作品の制作費を調べる
ってあたりをチェック。さらに、それぞれの映画のスクリプトを文献解析にかけまして、
- シーンごとに、感情的にポジティブな単語とネガティブな単語のどちらが多いかをチェック
- 感情の上がり下がりの流れを時間ごとにプロット
- そのデータを、映画の収益&評価と比較する
って感じで統計処理しております。近ごろは「どんな小説が売れるのかをテキストマイニングで調べたよ!」って研究も多いわけですが、その映画バージョンですね。
結果、多くのヒット作に見られる「感情の流れ」を、研究チームは大きく6つに分類しております。
- 右肩上がり:どん底から成功に向かうパターン。「ショーシャンクの空に」とか「恋はデジャ・ブ」とか「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」とか
- 右肩下がり:ひたすらネガティブに向かうパターン。「サイコ」とか「ある愛の詩」とか、ラスト直前までの「トイストーリー3」とか
- 下がって上がって:普通の状態からいったん状況が悪くなり、また上がっていくパターン。「ゴッドファーザー」とか「ディパーテッド」とか「ブレードランナー」とか
- 上がって下がって:普通の状態からいったん状況が良くなり、また下がっていくパターン。「波止場」とか「ロング・エンゲージメント」とか「メリーポピンズ」とか
- 上→下→上:いったん状況が上がってから再び下がり、最後にはまた上がるパターン。「天才マックスの世界」とか「ベイブ」とか「スパイダーマン2」とか
- 下→上→下:いったん状況が下がってから再び上がり、最後にはまた下がるパターン。「オール・アバウト・マイ・マザー」とか「恋愛小説家」とか「リトルマーメイド」とか
ってことで、言われてみりゃそうかもなぁみたいな結論になっております。
でもって、なかでもヒットにつながりやすいパターンってのがありまして、
- 「下がって上がって」パターンが全体的にはベスト!
って結果だったそうな。全体的にみれば、このパターンがもっともボックスオフィスで成功しやすいそうで、その傾向はジャンルや制作費を問わないらしい。いわば黄金パターンですな。
もっとも、「下がって上がって」パターンがヒットしやすいのは、このタイプの映画が「好かれやすい」からではない、とのこと。このようなプロットは他人に話したくなる気持ちをかきたてやすく、とにかく口コミの源泉になり得るんだそうな。なるほどねぇ。
研究者いわく、
観客の好みを感情分析でマッピングすれば、顧客が本当に見たいものにフォーカスしたビジネスが可能になるだろう。これは、コンテンツの決定権を企業から顧客に移すことになる。
とのこと。こういった考え方には異論も多いでしょうが、この流れはどんどん加速していくでしょうから、使えるところは使ったほうが吉でしょうな。
ちなみに、この研究では他にもいろんな傾向が出ていて、
- 「上がって下がって」パターンは、制作費が低い映画に向いている。逆に制作費が高い映画には向いていない
- SF、ミステリー、スリラーの場合、「右肩上がり」のプロットはヒットしづらい
- コメディの場合、「右肩下がり」のプロットはヒットしづらい(そりゃそうでしょうな)
- 「下→上→下」パターンは、映画賞などには結びつきづらい(つまり批評家受けが悪い)
だったそうな。ここらへんもおもしろいっすねぇ。
ちなみに、小説のテキストマイニングについては「ベストセラーコード」っていうナイスな本が出てますんで、興味がある方はどうぞ。
こちらでも「下がって上がって」系のプロットがヒット作の特徴のひとつに上げられていて、ジョン・グリシャム「陪審評決」、マシュー・クイック「世界にひとつのプレイブック」、シャーレイン・ハリス「トゥルーブラッド8 秘密の血統」なんかが代表例になっておりました。
もっとも小説の場合は映画ほどの影響力はなくて、どちらかといえば、全編にわたって感情の波が一定の上下動を見せるほうが売れやすいらしい。小説の場合は消費の時間が長いんで、もうちょい混みいったエモーションの流れが必要になるのかもですな。