ネイビーシールズの狙撃兵が「戦場の恐怖」を乗り越えるためにやっている2つのこと
「恐怖を飼いならす(Mastering Fear)」って本を読んだら、いろいろパンチラインが多い一冊だったんでメモしときます。
著者のブランドン・ウェッブさんは元ネイビーシールズのスナイパーで、アフガン紛争なんかにも従事した筋金入りの軍人。当然、死と隣り合わせな修羅場を何度も経験しているわけですが、そこでもっとも役に立ったのは、キツい身体トレーニングでもサバイバルの知識でもなく、
- 恐怖心をどうやって乗り越えるか?
の技術だったらしい。軍隊のようなプラクティカルな組織が、いかに恐怖に立ち向かうための訓練をしているのか?ってのが本書のお題目であります。
で、ここで結論から言っちゃうと、ネイビーシールズでは以下の行動を教えるらしい。
もし恐怖に飲まれたら、やることは2つだけだ。
- 恐怖に気づく
- 恐怖の方向性を変える
これはニューエイジ系心理学のような、あいまいなアイデアではない。科学的な事実にもとづいている。
ってことで、自分の内部に恐怖心がわいたら、「恐怖のエネルギーを別の方向に変える」といいよーとのこと。ちょっとリアプレイザルに近い考え方かと思います。
ブランドンさんいわく、
「恐怖を飼いならす」作業は、肉体的に強くなることではないし、タフガイやマッチョになることでもない。攻撃的になることでもなく、ストイックに動くことでもなく、体を鍛えることでもない。
実際にすべきは、己の頭の中でどのような会話が行われているかに気づき、その内容を変化させることだ。
とのこと。つまり、脳内で展開する「自動思考」を意識して、その中身を変えていこう!って話でして、とても認知行動療法に近いっすね。
わたしは、新米の軍人に脳内の会話を変える方法を伝えている。
たとえば、少年野球の試合で、選手がバッターボックスに立ったとしよう。そして、コーチと父親が叫ぶ。
「がんばれ!ストライクを取られるなよ!」
ここで何が起きるだろう? 当然、少年はストライクを取られてしまう。かわいそうな少年は、バッティングミスに意識が集中してしまい、頭がいっぱいになるからだ。
いわば、少年の脳内でハムスターが呪いの言葉を吐きながら車輪を回している状態だ。
「三振!三振!三振!三振!三振!三振!三振!三振!三振!三振!三振!三振!」
結果、少年はハムスターの言葉にしたがってしまう。
それでは、代わりにコーチはどうすべきだったろう? 正解は、少年に「正しい行動」を思い出させることだ。
「構え、深く呼吸し、ボールを見つめ、球筋を正しく判断せよ、もし球がストライクゾーンを外れたら見逃せ、ストライクゾーン内だったら振り抜け」
わたしが軍隊のスナイパーに教えていることは、基本的にこれと変わらない。自分で自分をコーチする方法を伝えるわけだ。
認知行動療法でいう「非機能的な思考」を、もっと現実的で使えるものに変えていくわけですな。この授業、受けてみたいすなぁ。
かつてわたしは、ニューヨークのバーで働くバウンサーや、メイシーズの入り口を守るガードマンなどを研究したことがある。彼らは人の行動を見抜き、トラブルを未然に防ぐエキスパートだ。
調査によれば、トラブル対応の98%は脳内モノローグのコントロールにかかっている。たとえば、こんな具合だ。
「いま俺は相手を見ている。ここでトラブルなど起きるはずがない。ここにはトラブルの相手などいない……」
ある意味、ジェダイマスターのような精神に近いかもしれない。
もちろん、これは現実を否定してるわけではありません。ガードマンなどをしてると、つい「あいつも怪しい……」といった気分にとらわれがちなんで、より現実的な思考に修正してるんですね。
次に何かが起きたら、自分に言い聞かせてみよう。
「何が起きようと、お前は最適なタイミングと場面で解決できる。もちろん、トラブルを頭のなかに侵入させることもない」
これは、私がアフガン紛争で実際に行ったことだ。
恐怖は幻想ではない。現実だ。だからこそ、自分が恐怖に飲まれておらず、まだ生きているという事実を己に言い聞かせねばならない。恐怖を乗り越えるための第一歩は、恐怖を受け入れることだ。
ただ、これはまさに「言うは易く行うは難し」で、いったん恐怖にハマっちゃうと、そんなに余裕ある行動ができないのも事実ではあります。そのためにも、日ごろからアクセプタンスと自動思考キャッチを鍛えとくしかなさそうですねぇ。