2020年上半期に読んで良かった17冊の本
2020年上半期のおすすめ本を教えてくださいとのリクエストをいただいたので、軽くまとめておきます。今年の前半は自粛があったせいでいつもより本を読めまして、そこは良かったですね(そのぶん運動量は減りましたが)。
心と体の本
なぜ「やる気」は長続きしないのか
なぜ「やる気」は長続きしないのか―心理学が教える感情と成功の意外な関係
2018年に「意志の力よりも目標の達成率を激しく高める「3つの感情」とは?」ってエントリで紹介した本の邦訳版です。意志力に頼るのはやめようぜ!っていう近年の目標研究の流れに沿った一冊で、それよりも「ヒトとしてベーシックな感情を駆動した方がうまくいくよ!」って内容になってて納得でありました。
マインドフルネスであなたらしく
マインドフルネスであなたらしく -「マインドフルネスで不安と向き合う」ワークブック-
マインドフルネス系の本は山ほど出ていますが、その中でも「これは使いやすい!」と思った一冊。なにか目新しい知識が書かれているわけではないものの、説明の仕方がうまいので、マインドフルネスを学ぶ最初の本としてもいいんじゃないかと思った次第です。
ナラティヴ・セラピーのダイアログ
ナラティヴ・セラピーのダイアログ: 他者と紡ぐ治療的会話,その〈言語〉を求めて
ナラティヴ・セラピーは、クライアントが自主的に記憶を語っていくタイプの心理療法の一種。そこで実際に行わられる対話の例をすべてそのまんま示しつつ、「このセリフが後でこんな効果を……」とか「ここで質問をはさんだからクライアントの自己分析が進んだ」みたいにいちいち解説をはさんでいく本。セラピストはここまで対話に気を配っているのか……と呆然とさせられました。
あまりにも詳細すぎてすぐに実践するわけにはいかないんだけど、この対話テクをちょっと学ぶだけでもコミュニケーションの質は爆上がりするんじゃないでしょうか。
Lifespan: Why We Age
Lifespan: Why We Age—and Why We Don't Have To (English Edition)
長寿研究の第一人者であるハーバードのデビッド・シンクレア先生が、現時点で最良の抗老化知識をまとめたもの。「人類の平均寿命は113歳になる!」ってのが博士の予想でして、「老化」が進む原因を遺伝子ベースで教えてくれて有用でした。手っ取り早いアンチエイジングの知識が学べるわけじゃないものの、生物そのものに興味がある人には激しくおすすめ。
社会の本
経済政策で人は死ぬか?
「不況のときは緊縮政策は厳禁!なのに実践してない国が多いのはどういうことだ!」ってのを複数のデータをもとに主張する本。アイスランドが不況から立ち直った事例などが超面白くて勉強になります。これをもとに考えますと、不況におちいったら、
- とにかく消費税は下げる
- 政府はガンガン金をバラまく
- 特に費用対効果が大きいとこに公金を注ぎまくる(教育とか)
- 財政バランスとかどうでもいい
ってのをやっとかないと大勢が死ぬぞ!って結論にいたるわけですが、いやー、なかなか日本は大変ですな。
RANGE(レンジ)知識の「幅」が最強の武器になる
不確実性が高まる現代ではエキスパートよりもジェネラリストだ!知識の幅の方が大事だ!と高らかにうたいあげる本。正直なところ本書の主張がどこまで正しいかと言われれば疑問もあるのですが、なにせ私が雑食タイプの人間なので、とりあえずモチベーションを上げてくれる一冊でしたね。
ルポルタージュの本
ハイパーハードボイルドグルメリポート
テレビ東京で不定期にやってた「ハイパーハードボイルドグルメリポート」の書籍版。「世界のヤバい奴らは何を食べてるか?」ってのがテーマで、ロシアカルト宗教のボルシチとか、台湾マフィアの豪華中華とか、リベリアの墓地で暮らす元兵士の油カレーとか、グルメリポートの名を借りたハードなドキュメントになっていて、今年前半で一番おもしろかった本でしたね。
映像版のハイパーハードボイルドグルメリポートについては、ネットフリックスなどで見られますので合わせてどうぞ。私は何度か泣きました。
人喰い
1961年にロックフェラーの御曹司が、ニューギニアの部族に喰われた事件を追いかけるノンフィクション。開巻数ページでいきなり御曹司が喰われる様子が描かれてびっくりであります。
残り数百ページは「なぜこの部族は人を喰うのか?」ってとこに向けられてまして、「ヒトの価値観をガラガラと崩していくぞ!」って気合を感じました。まぁエグい描写もそこそこありますんで、そういうのが大丈夫な方だけどうぞ。
物語の本
源氏物語 A・ウェイリー版
1925年にイギリスのアーサー・ウェイリーさんが英語に訳した「源氏物語」を、再び日本語に再翻訳したという偉い本。文中にはカタカナが多用されてて「ワードローブのレディ、ベッドチェンバーのレディ」みたいな文章に乗れるかどうかで評価が変わりそうですが、私は非常に楽しめました。1冊あたり600ページ×全4巻なんで、読了には根気がいりますけどね。
彼女の体とその他の断片
フィラデルフィアの作家さんによるデビュー短編集。全体に寓話ホラーなタッチの話が多くて、おそらく「なんか生きづらいなぁ……、でもそれを押し殺して生きなきゃなぁ‥…」みたいな感覚がある人には響くんじゃないかと思われます。とりわけ、最初の「首にリボンを巻き続ける女」の語り口とラストにはびっくりさせられました。
漫画の本
サブリナ
妻を殺された男とその関係者が、ネット社会の雑な悪意に翻弄される話。ブッカー賞の候補になったそうで、どことなくデビッド・フィンチャーっぽいクールさと緊張感が漂ってて、グッと来ました。描かれる人物にほとんど表情がない表現も、チャレンジングでいいですねー。
セリー
人物が滅亡してく状況のなか、ひとりの男がアンドロイドと本を読み続ける話。もともと孤独にまつわる話が好きなんですが、これは墨汁と爪楊枝で描いた画面のおぼつかなさが内容にピタリとハマっていて、普通に泣かされました。内向的な読書好きにはガンガンに響くはず。
夢中さ、きみに。
学園が舞台のすっとぼけたギャグ漫画。全体的に気の利いた小ボケの連発で、「よくこんな細かい笑いを思いつくな‥…」と感心させられました。同じ作者の「女の園の星」も同じテイストの傑作ですね。
戦争は女の顔をしていない
第二次大戦に従軍したソ連の女性に行った名作インタビュー集を漫画化したもの。作者の主観ははさまず戦争に従事した女性の姿をひたすら描いていくスタイルで、ハードな絵柄でないぶんだけ陰惨さが際立つ感じっすね。あの原作を漫画にするだけでもすごいのに、ちゃんと傑作になっているのには恐れ入りました。