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問題がどうしても解決できない!ってときは「マルチアイデンティティ」でGO!


  

悩みを解決したいときは、他人の視点で考えてみよう!」ってアドバイスは昔からあって、その正当性はわりと確認されているところです。自分の視点だけだと解決策がせばまっちゃうので、意識的に他人の身になって考えてみると、思わぬアイデアが浮かぶ可能性が高まるわけですな。

 

 

でもって、新しいデータ(R)も「いろんな視点を採用したほうが問題解決力が高まるよ!」って話で、その結論を手っ取り早く申し上げますと、

 

  • 自分のなかにある複数のアイデンティティを意識しても問題解決力が高まるよ!

 

という感じになります。「無(最高の状態)」でも強調したように、わたしたちの中にはいろんな自己が併存しているので、それらを意識してみるだけでも、他者からアドバイスをもらうのと同じような効果が得られるというんですよ。言われてみりゃそうかもしれないっすね。

 

これは3つの実験で構成された研究で、おおまかなデザインは以下のような感じになってます。

 

  1. 48人の6歳と7歳の子供たちを2つのグループに分ける

  2. 片方のグループには、子供たちに自分のいろんなアイデンティティについて考えてもらう。たとえば、「あなたはAさんの友達であるときはどんな人になりますか?なにか違う行動を取ったり、違う話し方をしますか?」「あなたは本を読んでいるときは”読書家”になりますよね。そのとき、あなたはいつもとは違う考え方をしていませんか?」といったように、日常のいろんなアイデンティティについて質問して、それぞれのキャラの違いに理解を深めてもらう

  3. もう一方のグループはアイデンティティについては考えさせず、「あなたには足が2本あります」「あなたには口がひとつありますね」みたいな会話で、自分の体について考えてもらう。

  4. その後、全員の子供たちに、4種類の問題解決タスクと柔軟な思考が必要なタスクをやってもらう(たとえば、「レゴが入ったボウルを持ったクマが、木の高い枝にあるハチミツに手を伸ばすにはどうすればいいですか?」みたいな問題が出た。当然、レゴを重ねても木には届かない)。

 

誰でも日常的にキャラを切り替えているのは間違いない話で、場面に応じて「友人」や「会社員」「夫」「日本人」「親」みたいにいろんな自己を持っているはず。このような複数の自己が「どのようなキャラなのか?」を考えてみることで、問題を解決する能力が高まるのではないかと考えたわけですね。

 

 

すると、その結果は研究チームの思ったとおりでして、

 

  • 自分の複数のアイデンティティを振り返った子どもたちは、4つのテストすべてにおいて別グループの子供たちを上回っていた!

 

との結果だったそうな。たとえば、上述のクマのパズルを解けたのは、「自分の身体について考えたグループ」が12.5%だったのに対し、「複数のアイデンティティについて考えたグループ」はおよそ半数の子供が解けたらしい。そこそこの違いが出ましたねぇ。

 

 

 

さらに、ここでは数十人の別の子供を対象とした2つの追跡調査をしてまして、以下のような結論も出してくれています。

 

  • 自分の複数のアイデンティティを考える行為には意味があるが、他人の複数のアイデンティティについても同じような効果は得られない

 

  • 自分の複数のアイデンティティを考えることで得られるパフォーマンスの向上は、その複数の人格の存在が一時的なものではなく「自分の中にある確固たる自己の一部だ!」と思えたほうが効果が高まる

 

ってことで、他人のアイデンティティを考えてもあんま意味がないし、それと同時に一過性のアイデンティティについて考えてもメリットは低いんだよーという結果です。ここらへんは「海外旅行や異文化を訪れることで幸福度が高まる」って話にも近いところがあって、簡単に言えば、

 

  1. 海外の異文化体験のおかげで、あらためて自分の多様な社会的アイデンティティを振り返る機会が生まれる

  2. アイデンティティを振り返ることで、複数の自己がさらに明確になる

  3. 複数の自己が明確になったおかげで、過去に味わったいろいろな経験や視点の記憶が活性化される

  4. より柔軟な思考が可能になる!

 

みたいな流れです。

 

 

まぁこの実験はめちゃくちゃ短期間かつ小規模なので、より多くのサンプルと多様な参加者で追試に成功してもらわないと、「複数のアイデンティティで問題解決力アップだ!」とは言いづらいとこもございますが、研究チームいわく、

 

今回の発見は、人種やその他の社会的アイデンティティにかかわらず、誰もが多面的な考え方から恩恵を受ける可能性があることを示唆する。自分のアイデンティティを多面的に考えるという単純なことが、多様化する社会の中で心の開放性を高める可能性がある。

 

ある人は、女性でありながら白人であり、教師でありながら親であり、少女でありながら友人である。個人が自分の複数のアイデンティティを自動的に振り返ることはないかもしれないが、意識的に複数のアイデンティティを振り返ることで、創造的な問題解決や柔軟な思考にプラスの効果があるかもしれない。

 

とのこと。自分の複数アイデンティティについて考えるぐらいなら誰でもすぐできますんで、難しい問題にブチ当たったら試してみるのも悪くないでしょうね。私も文章を書いてるときはほぼライターアイデンティティで取り組んでるんで、今後は「本好き」とか「猫愛好家」とかも採用していこうかと思いました。

 

 

ちなみに、上にあるクマの問題の答えは、「逆さにしたボウルの上に立ってハチミツに手を伸ばす」だそうです。うーん。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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