今週半ばの小ネタ:ガムでストレス解消! サイコパスの特徴! 魚は癌の予防になるのかな?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
ガムを噛むとストレスや不安が軽減されるかもしれない
「ガムを噛むのはストレスがかなり減りそうだけど、まだ精度が高い研究はないよー」みたいな話を結構前に書いたんですが、新たに「ガムでストレスが減るかどうかをガッツリ調べたよー」ってメタ分析が出ておりました(R)。
この研究は、「チューインガムがストレスや不安を軽減するか?」ってとこを調べてまして、ガムの効果に関する臨床試験のエビデンスを包括的に評価することを目指したものです。具体的には、8件の先行研究をメタ分析した内容になっていて、
- 試験の参加者は全体で494人
- 介入期間は5分~19日間
- 参加者の平均年齢は20~29歳
- 試験は英国(5試験)、オーストリア(2試験)、トルコ(1試験)で実施された
って感じの内訳になってますね。その結果がどうだったのかと申しますと、
- チューインガムは不安とストレスの両方を軽減する。ただし、その効果量は小さい
- チューインガムの効果は、介入期間が短期間(1日未満)の試験と長期間(1日以上)の試験では、めだった差がみられなかった
だったそうです。これを見る限り、前回のエントリに書いたほどの効果はないものの、それなりに不安とストレスをやわらげる働きはありそうですね。
もちろん、この研究で使われたデータは全体的に質が低いですし、ランダム化の手法や盲検化の方法についても「どうなのかなー」と思えるところがありますんで、「ストレス解消にはガムが第一だ!」みたいなことはまったく言えないんですけど、手軽で安価なストレス対策法として、手持ちの武器のひとつとして持っておくとよろしいのではないでしょうか。
サイコパスって実際にはどんな人なの?
サイコパスってどんな人なの?って議論は昔からありまして、「共感がない」とか「表面的な魅力がある」とかいろんな特徴が指摘されてきたんですが、「どれがサイコパスの中核的な特徴なの?」ってとこはまだ意外と意見がわかれてたりするんですよ。
そこで、新たにロングウッド大学などから出た研究(R)は、「多くの専門家がサイコパスと認めた実在&架空の6人の人物に共通する特徴を探してみたぞ!」と主張していておもしろかったです。多くの人が「このキャラはサイコパスでしょう!」と認める人物をピックアップして、おおまかな特徴を調べてみたわけですね。
で、研究チームが使った「典型的なサイコパス」は以下の6人です。
- テッド・バンディ:1970年代に少なくとも30件の殺人を犯したことを認めた連続殺人犯。
- クライド・バロウ: 「俺たちに明日はない」のモデル。一般人や刑務官を含む多くの人々を殺害した男で、魅力的な人物であったとも言われている。
- バーニー・マドフ: 米国史上最大のネズミ講と金融詐欺の張本人。
- チャック・イェーガー: 大成功を収めたアメリカのテストパイロット。別にい悪事を働いたわけではないものの、さまざまな研究者が、イェーガーが精神病質者であった可能性を示唆している。
- ジェームズ・ボンド:ご存じ007。架空のキャラながら、サイコパス的だと指摘する専門家が多い。
- シャーロック・ホームズ:大胆不敵さと冷酷さを合わせ持っており、こちらもサイコパスと考えている専門家が多い。
ということで、6人のうち2人は架空だし、なかにはイェーガーみたいな英雄も入ってますが、研究チームは「ヒーローとサイコパスは同じ枝から分岐している」と主張しております。これはよく言われることですね。
以上の6人をピックアップしたうえで、研究チームがなにをしたのかと言いますと、
- 6人の人物それぞれについて、3~5ページの長さのケースヒストリーを用意
- オンライン参加者にこれを読んでもらい、3種類の評価フォームを使って、いろいろな特徴について点数をつけてもらう
って感じです。いろんな人たちに6人のサイコパスの履歴を読んでもらい、どのように思うかをチェックしたわけですね。
すると、この結果から、何度もくり返して現れる8つの特性が特定されまして、具体的には以下のような感じです。
- とにかくメンタルが強い
- 他人からどう思われるかを気にしない
- 不安感が低い
- 恐れを知らない
- 大胆
- 自己主張が強い
- 支配的
- 興奮を求める
というものであった。ただし、イェーガー、ボンド、ホームズは、サイコパスに目立つ敵対的な特性は見えず、一方でバンディ、バロウ、マドフのように「誰が見てもサイコパス」な人たちは、冷淡さ、操作性、不誠実さ、傲慢さ、残酷さなどもふくまれていたそうな。いわゆるフィクションの世界でよく言われるようなサイコパスっすね。
で、以上のポイントがサイコパスの特徴だってのはかなり納得できるんですけど、個人的におもしろかったのは、
- 一般的に、サイコパスは誠実性が低い(勤勉にものごとをやれない)と考えられているが、マドフに限ってはコツコツと努力をする側面を合わせ持っていた
- つまり、マドフはサイコパスではないのか、または誠実性の低さは重要なサイコパスの特徴ではないのかもしれない
ってところです。もちろん、この研究には大量の限界がありまして、
- それぞれの参加者が抱くサイコパスに対する考え方が評価に影響を与えた可能性が大きい
- ピックアップされた6人のうち、「明らかなサイコパス」と思われるのは3人しかいない
といったあたりは、あくまで「議論のたたき台」にしかならない印象ですけど、とりあえず「どの特性がサイコパスの中核をなしているの?」ってポイントを考えるのに役立つんじゃないでしょうか。
魚とオメガ3で癌死亡率はどれだけ下がるの?のメタ分析
魚とその脂肪が体に良いのは間違いないものの、まだよくわからないのが「魚の脂肪は癌の発症リスクに影響するのか?」ってところであります。魚をたくさん食べる人は癌になりにくいって観察研究はたくさんあるんですが、その結果は意外とバラバラだったりするんですよ。
ってことで、新たに魚と癌発症率の関係を調べたメタ分析(R)が出てまして、これがなかなか参考になります。これは21件のコホート研究をまとめたもので、「魚または魚から抽出したオメガ3類で癌の死亡率はどう変わるの?」って疑問を検討したもの。ざくりと全体の研究のうちわけを申し上げますと、
- それぞれの研究の追跡期間は4.5年から14.7年
- 魚の摂取については、26,518人を対象とした研究が12件
- 評価の対象になった癌は、卵巣癌、喉頭癌、乳癌、メラノーマ、前立腺癌、大腸癌、胃癌、および全身の癌など
- オメガ3については、24,134人を対象とした研究が11件。このうち、5つの研究では総オメガ3について、8つの研究では魚由来のオメガ3について調べている
- これらの研究では、乳癌、前立腺癌、結腸癌、大腸癌のリスクと、癌全体のリスクが評価された
ってことで、あくまで観察研究だし、それぞれの癌の種類について魚や魚由来のオメガ3との関連を評価した研究は1~3件しかなかったので、がっつりと精度が高い結論を出せるわけでもないんですけど、それなりに参考になるんじゃないでしょうか。
でもって、以下に結論です。
- ふだんから魚をいっぱい食べている人は、もっとも少ない場合と比較して、癌の全死亡リスクが13%低く、卵巣癌の死亡リスクが26%低い傾向があった
- 魚由来のオメガ3脂肪酸をたくさん摂取している人は、もっとも少ない人と比較して、癌の全死亡のリスクが19%、前立腺癌の死亡リスクが38%低下する傾向があった
ってことで、あらためて魚のすばらしさが確認された形でして、癌の全死亡リスクが13%低下するってのは良い感じですねー。いちおう魚と癌による全死亡率に関する証拠の確実性は中程度でして、個々の癌種(卵巣および前立腺)については、確実性は低いか非常に低いと評価されております。そこらへんの証拠レベルを念頭におきつつ魚をガンガン食べていきたいっすねー。