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成長マインドセットを肯定するメタ分析と否定するメタ分析が同時期に出てた件


 

「成長マインドセット」の問題さについては、このブログでも何度か取り上げております。もともとはスタンフォード大学の心理学者キャロル・ドウェック先生が数十年にわたって開発してきたもので、簡単にまとめると、

 

  • 「自分は変われる!」と信じている人は、学習に意欲的になり、より大きな課題に取り組み、挫折を乗り越えて、最終的には成功する!

 

みたいになります。くわしくは「マインドセット『やればできる!』の研究」をお読みいただければと思いますが、まさに「やればできる!」と思っている人ほど成功するって考え方ですね。

 

 

いまでは成長マインドセットは世界的に有名になりまして、欧米では何百万ドルもの資金が教育資金として投入されてたりします。それぐらい影響力が強い考え方なわけですな。

 

が、近ごろ、「成長マインドセットは意味がある!」「いや、成長マインドセットは意味がない!」ってメタ分析がほぼ同時期に発表されまして、なかなかおもしろいことになっておりました。

 

 

2つのメタ分析がどのようなことを言ってるのかをざっくりまとめると、以下のようになります。

 

  • メタ分析1:ノースカロライナ州立大学などのチームによるもので、2002年から2020年の間に発表された53の研究(R)をまとめたところ、短いマインドセットのレッスンで大きく成績が改善した生徒もいたが、逆に成績が悪化したケースもいくつかあった。

    しかし、最終的な分析では、「成長マインドセットは効果に大きなばらつきがあるが、学業成績、メンタルヘルス、社会的機能にプラスの効果があることがわかった」と結論している。

 

  • メタ分析2:上の論文が出てから21日後、ケース・ウェスタン・リザーブ大学のメタ分析(R)が同じジャーナルに掲載された。チームは63の研究をまとめ、大半の実験はデザインが不十分だし、結果にバイアスがかかっていると報告。成長マインドセットの効果は、バイアスに起因する可能性が高いとしている。

 

ってことで、最初のメタ分析は「成長マインドセットは限定つきで効果あり」としていて、次のメタ分析は「成長マインドセットは研究の不備があるから無意味」としているわけですね。

 

 

これらの研究は、どちらも大量のデータを分析していて、両者ともなかなか信頼性は高そうな内容になっております。うーん、これは判断が難しい。

 

 

で、あらためて2つのメタ分析を見たところ、個人的には以下のような感想を持ちました。

 

 

  1. 違う生徒たちがひとつにまとめられちゃってる問題:どちらの研究を見てても明らかなのは、成績が良い生徒と悪い生徒をひとまとめにして、「平均するとあんま効果がないよなー」と報告してるとこっすね。ちょっと考えても、低所得者と低学力の生徒では、成長マインドセットへの反応が違いそうですからねぇ。

    実際、ひとつめのメタ分析を見ると、成績の低い生徒や、恵まれない立場にある生徒ほど、成長マインドセットによって学校の成績が上がりやすいとの傾向が出てたりはします。一方で、成績の良い生徒には、あまり成長マインドセットはの効果がないか、時には逆効果になってしまうケースも多いみたいっすね。

    このような現象が起きる理由はわからんですが、すでに成績が良い人には、モチベーションの改善よりも別の対策が必要なのかもしれんですな。




  2. わりと「知能」の定義が雑問題:これはふたつめのメタ分析に関わるポイントで、どうやら今の研究では「知能」という言葉の扱いがあいまいなことが多く、それによって結果に食い違いが出てしまう感じです。

    たとえば、成長マインドセットって、「あなたにはある程度の知能があり、それを変えることはあまりできない」みたいな文章にどれぐらい賛成するかをチェックして測定するんですよ。でも、ここで、テストを受ける人が、「知能とは新しいことを学んで自分を変える能力だ!」といった定義を持ってたら、当然ながら、テストスコアは高くなりやすいわけです。

    つまり、いまのマインドセットテストは、意味論に大きく依存しているケースが多いんですよね。これもまた、話をややこしくしている一因でしょう。

 

 

ってことで、ここらへんの問題が組み合わさって、似たデータを使ったメタ分析でも食い違いが出るんじゃないかと。私としては「成績が悪い人ほど成長マインドセットに意味がある」って結論は正しそうだなーと思ってまして、わりと推奨派ですが(もちろんすでに成績が良い人への悪影響も注意しつつですけど)。

 

 

また、上記のような問題については、発案者のドゥエック博士も昔から危険性をしてきしてまして、

 

 

ってあたりは、意外と世間では指摘されてないポイントかと思います。このあたりも守らないと、おそらく成長マインドセットは偽物になってしまうのでご注意ください。

 

 

そんなわけで、今回の話をまとめると、

 

  • 成長マインドセットが本当に効果を発揮できる条件は、まだよくわかっていない

 

  • 成長マインドセットで副作用が出てしまう人も少なくない

 

  • いまの時点で学習がうまくいかない人が使うぶんには、成長マインドセットは有効

 

みたいになります。どうぞご注意あれー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。