牛、豚、羊の肉を食うと寿命が縮む?ってどこまで本当?
「レッドミートと加工肉は体に悪い!」と、昔からよく言われるわけです。WHOなどの勧告によると、どちらの肉も癌リスクを上げるとされてるんですよね。
いちおう用語の整理をしておくと、
- レッドミート:欧米圏で使われる用語で、牛、豚、羊など哺乳類の肉を広く指す単語。日本で言うレッドミートとは違うので注意。
- 加工肉:ハム・ソーセージ・ベーコンなど、元の肉を加工しまくった肉。
みたいになります。こういった肉は、どちらとも体に悪いから、あんま食べちゃいけないと言われてるんですね。直近だと、2020年のメタ分析(R)でも、レッドミートと加工肉を週に2回食べるだけで、心疾患と死亡のリスクが7%高まるって結論だったりします。
ただ、ここで個人的に不思議だったのが「なんでレッドミートもダメなんだろ……」ってところです。当たり前ですが、原始人がレッドミートを日常的に食べていたのは間違いなく、それならば私たちの遺伝子はレッドミートにも対応してるんじゃないかなぁ……と思ってたんですよ。パレオダイエットの視点からすると、レッドミートの害ってのは謎が多いんですよね(加工肉が体に悪いのは当然でしょうが)。
とか思ってたら、ワシントン大学健康評価研究所(IHME)の科学者たちが、「レッドミートが本当に悪いか検証してやるぞ!」って研究(R)を出していて、非常に参考になりました。
この研究ってのはなかなか斬新な内容でして、すごーくざっくり説明すると、
- レッドミートと健康の関係を評価する新しいシステムを作ったぞ!
みたいになります。チームは「証明責任リスク関数」ってのを考案しまして、この関数を使えば、どんな研究者でも「食品と健康リスク」に関するエビデンスの強弱を星1~5(5が高エビデンス)でレーティングして、より正しい結論を出すことができるんですな。
といってもわかりにくいですが、あんま深く考えずに「研究法や結果がバラバラなデータの偏りを補正して、より確かな結論に近づけるんだなー」ぐらいにお考えください。なんでチームが新たな評価システムを作ったのかというと、「過去のレッドミート研究には限界が多い!」ってのがわかってたからです。
どんな限界があるのかをざっくりまとめると、
- ほぼすべてのデータは観察研究であり、因果関係を納得のいく形で解明することができない。
- ほとんどの研究が、交絡変数に悩まされている。たとえば、「肉好きの人は野菜をあまり食べない」とか「肉好きは喫煙率が高い」とか「肉好きは運動量が少ない」といった傾向があり、データにブレが出てしまう。
- たいていの研究は、参加者の自己申告を使っている。当然、みんな自分が食べたものを正確に覚えているわけではないので、データにブレが出てしまう。
- たいていの論文で報告されている効果の大きさは、わりと小さいことが多い。たとえば、「レッドミートで癌リスクが15%高くなる」という結論は、本当に心配する価値があるのかの判断が難しい。
みたいになります。基本的に、従来のレッドミート研究はデータのブレが大きくて、信頼できる結論を出すのが難しいんですよね。
そこで、チームが作った新しい評価システムでは、どのような結論が出たかといいますと、
未加工のレッドミートの消費と大腸がん、乳がん、2型糖尿病、虚血性心疾患との関連を示す弱いエビデンスを見いだした。さらに、未加工のレッドミートと脳卒中との関連を示すエビデンスは見出せなかった。
とのこと。簡単に言えば、「レッドミートを心配する必要ってほとんどないんじゃない?」ってことですね。IHMEの調査だと、レッドミートと健康リスクの関係については、2つ星以上の評価を受けるものはなかったそうで、「やっぱそんなものかー」って印象ですね。
というわけで、この研究をもとに私見をまとめておくと、
- レッドミートを食べることの血管や健康へのリスクについての証拠は非常に少なく、おそらくリスクはないと思われる。
- しかし、肉をたくさん食べる人は、そのせいで野菜の摂取量が減る傾向がある。そのせいで、健康リスクが高まってしまう可能性は十分にある。
みたいになります。たぶん、肉を食いすぎて野菜の量が減らなければ、別にレッドミートも問題ないんじゃないかなぁ……という感じですね。個人的にも、あらためてビビらずにレッドミートを食べていく気になりました。