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筋トレは関節を大きく曲げた方が効果的!って どこまで正しいのかのメタ分析

 


筋トレの世界で昔からある議論のひとつに、

 

  • トレーニングはフルROMか パーシャルROMがいいのか?

 

ってのがあります。



ROMってのは レンジ・オブ・モーション(Range of motion) の略で、筋トレの際に関節をどこまで曲げるかを表す言葉です。フルROMは 関節をめっちゃ曲げて行うトレーニングのことで、

 

  • ベンチプレスの場合= バーが胸につくぐらいまでヒジや肩を曲げる。
  • スクワットの場合= 尻が床につきそうになるレベルまで膝を曲げる。

 

といった感じになります。 一方で、パーシャルROMは そこまで関節を曲げて行わないトレーニングで、

 

  • ベンチプレスの場合= ヒジを90度以上にならないぐらいで、バーベルを上げ下げする。
  • スクワットの場合= 太ももが床と平行になるぐらいの角度で、 膝を曲げ伸ばしする。

 

みたいになります。 一般的にはフルROMの方が負荷がかかりやすく、 そのおかげでメリットも大きいと考えられているんですが、 実際のところ、どちらが優秀なのかを調べたメタ分析(R)が発表されておりました。

 

これは、過去に行われた23件の研究をまとめたもので、 データの内訳がこんな感じになります。

 

  • 参加者は全部で658人(平均年齢と男女比は 未報告)。
  • 筋肉のサイズ、筋力、パワー、体脂肪、 運動のパフォーマンスについて、 パーシャルとフルROMの どちらが効果的なのかを検討。
  • 研究期間は3~16週間。
  • ROMの定義は、パーシャルROM=9°~90°、フルROM=70°~140°。

 

その結果がどうだったのかといいますと、

 

  • フルROMもパーシャルROMも、 筋肉のサイズ、筋力、体脂肪、 運動のパフォーマンス改善に 同じような効果を示した。
  • ただし、フルROMの方が。パワー(筋力×スピード)の向上には効果的だった。
  • エビデンスの質は、 筋肉のサイズ、筋力、パワーについては中程度、体脂肪とパフォーマンスについては高いと評価された。
  • 参加者の身長は、結果にわずかな影響を及ぼしており、身長が高い人ほどフルROMのメリットが大きかった。さらに、 筋肉を大きくさせるためにはパーシャルROMの方が有効かもしれない傾向も見られたが、これは統計的に有意ではなかった。

 

といった感じです。予想に反して、パーシャルROMはフルROMと同じような効果を示してまして、 筋トレ業界で長く言われてきた「フルROMこそ至高!」って 考え方に疑問を投げかける結果ですね。 まぁデータを詳しく見てみると、ほとんどの結果において、フルROMのほうがわずかにメリットが大きく出ているのも事実なので、フルROMに親を殺された とかでもない限りは、フルROMを選んでおく方法が無難でしょうね(まぁフルROMに焦点を当てた研究ほど、 フルROMに 有利な結果が出ているので、 このバイアスを削除した場合は、完全に優位性がなくなるのかもしれませんが)。

 

今回チェックされた要素の中だと、フルROMに明確な メリットがあるのは「パワーの改善」で、 要するに、瞬時に大きな力を発揮する能力を高めたい方はフルROMを選ぶ方が良いでしょうね。 基本的に、スポーツをする人ほどパワーが重要になるので、サッカーやバスケやテニスをやっているような人は、普段からフルROMで トレーニングしておくと良いのかもしれません。

 

その理由としては、フルROMトレーニングのほうが、 1度により広い範囲の筋肉を動かすので、 瞬時に大きな力を出すために欠かせない正確な動きで筋肉をコントロールする能力が発達しやすくなるのだと考えられております。さらに、フルROMトレーニングを うまく行うためには、 身体のコントロールと安定性が重要なので、運動スキルが発達しやすくなるのも大きいはず。これは、スプリント、ジャンプ、リフティングなど、急激なパワーを必要とするスポーツをやる人ほどメリットはあるでしょう。

 

それでは、ここまでの話をいったんまとめてみると、

 

  • 「関節を最大まで動かす筋トレ」と「関節を少しだけしか動かさない筋トレ」の 効果を比べた場合、「筋肉のサイズ」と「 筋力」に 与える影響は比較的小さい。 

 

  • そのため、フルROMとパーシャルROMのどちらを選ぶかは、 ほぼ好みの問題と言える。ケガによって フルROMができない場合は パーシャルROMを 選んでも問題は無い。フルROMが 精神的に辛いという人もパーシャルROMを 選べばオッケー。

 

  • 唯一、スポーツで良い成績を残したい人は、普段からフルROMにこだわった方が パフォーマンスは上がり良くなると思われる。

 

みたいになります。まぁこのメタ分析にも限界はありまして、 今回の研究は事前に計画されていなかった ようなので、観察された メリットが偶然の一致によって起きている可能性は割と高め。 その点で信頼性はちょっと下っております。また、 全体的に研究の期間が短く、 参加者の人数も評価されたアウトカムの数に比べて小さすぎる印象であります。

 

ここらへんをふまえつつ、 私はフルROMがあまり好きではないので、 今後は気にせずパーシャル1本でやっていこうと思った次第です。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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