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トレーニングを休む勇気:12週間の休止がもたらす意外な効果とは?

 



トレーニングしていると、どうしても「運動を休まねば!」みたいなタイミングがあるはず。私の場合は、だいたい本の締め切りが停滞してどうにもならん時か、関節を壊して何もできなくなったような時に、運動を休止してるケースがよくありますね。

 

が、長く運動を習慣にしていますと、休むことには不安や恐れがつきまとうもんです。「体力が衰えるのではないか…」「一度失った筋力を取り戻せるのだろうか…」みたいな疑念が頭をよぎって、無理やりにでもトレーニングの時間を確保しちゃうのは“あるある”じゃないでしょうか。

 

そんな中、フランスの生理学者のロムアルド・レペール先生が、自身を対象にケーススタディ(R)を報告してて面白かったです。なんでもレペール先生は、トレーニングを12週間完全に中断し、その前後の体力や体組成の変化を詳細に追跡したんだそうな。その上で「適切な休止が体力回復に役立つ可能性がある!」と結論してまして、あくまで個人の体験談ではありますが、参考になる知見が得られるのではないかと思うわけです。

 

まずレペール先生がどんな人かというと、フランスのブルゴーニュ大学で生理学の研究室を運営しつつ、40歳以上のアスリート(マスターズアスリート)の研究を専門としておられます。自分自身もトライアスリートとしてのキャリアが長くて、若い頃にはアイアンマン世界選手権で150位以内にランクインするほどの実力者だったらしい。凄いですね。

 

で、今回の実験の時点で、先生の年齢は53歳。それまでは週10~12時間のトレーニングを習慣としており、アイアンマンの大会では常に年齢別カテゴリーの上位にランクインしていたとのこと。さらには30年以上にわたって、2週間以上トレーニングを休んだことが一度もなかったらしい。これも凄いすね。

 

実験の内容をざっくり概説しておきますと、

 

  1. 2022年にスウェーデンで開催されたスイムラン世界選手権に参加した後、最大酸素摂取量(VO2max)や筋肉の代謝特性を測定。
  2. その後、12週間のトレーニング休止期間を設け、再度同じテストを実施。
  3. さらに、12週間の再トレーニング期間を経て、最終的な測定を行う。

 

みたいになってます。この実験の目的は、「50代がトレーニングを3カ月も休んだらどうなる?」というもので、普通に考えたら「一気に体力が下がって、取り戻すのが大変なのでは?」とか思っちゃうわけです。

 

では、実際の結果がどんな感じだったかを見てみましょうー。

 

 

  • トレーニングを休んだせいで起きた変化

    • 体力の低下:トレーニングを12週間休止した結果、次のような体力低下が見られた。
      • VO2maxの低下
      • ランニングテスト:10.9%減少
      • サイクリングテスト:9.1%減少

    • 体組成の変化:トレーニングを12週間休止した結果、次のような体型の変化が見られた。
      • 体脂肪率:10.1% → 13.3%(約2.5キロの脂肪増加)
      • 筋肉量:約2キロ減少

 

って感じで、予想どおりかなり変化が出てますね。特に体力の変化は顕著で、先生いわく「15年分の老化に相当する大きな低下」なんだそうな。ただし、過去の研究と比較してみると、このような変化は20代と同じぐらい起きるようでして、50代でもそんなにトレーニング休止の影響ってないのかもですな(あくまでサンプル数1ですが)。

 

続きましては「再トレーニング後の回復」がどうなったかを見てみましょう。再びトレーニングを開始して12週間後に、レペール先生の体力がどうなったかって話ですな。

 

  • VO2maxの向上
    • ランニングテスト:ベースラインの+4%
    • サイクリングテスト:ベースラインの+6%

 

  • 体組成の改善
    • 体脂肪率:8.4%(約4キロの脂肪減少)
    • 筋肉量:約1キロの増加

 

ということで、驚いたことにトレーニングを再開したら、VO2MAXが回復しただけでなく、最初の頃よりも向上するという結果になったんですな。うーん、不思議。

 

このような改善が起きた理由には謎も多いんですけど、今のところは以下のような原因が推測されておりました。

 

  • この実験では、筋肉の代謝特性を測定するための筋肉生検を行っている。その結果、トレーニングを休んでいる間に速筋繊維の活動が増加し、ミトコンドリア機能(持久力に関連する能力)が低下したことが確認された。再トレーニング期間中にはこれらの変化がリセットされ、基準値を超えるレベルに達したのだと思われる。

 

  • また、博士の肉体は、長期間トレーニングを続けることによって慢性的なストレス状態に陥っていた可能性がある。しかし、トレーニング休止期間を設けることで、身体と精神のリセットが行われ、再び高いパフォーマンスを発揮する土台が整った可能性がある。

 

  • この実験は計画的なものだったので、博士は復帰後にトレーニングを楽しむ予定を立てていた。これは、ケガや病気による不確実な休止とは大きく異なるため、トレーニング休止のストレスがなかったのだと思われる。

 

どの理由も「なるほどねー」って感じでして、特にトレーニングの休止でストレスがリセットされるのかも?ってのは、ちょっと嬉しい知見でしたねー。

 

繰り返しになりますが、あくまでもケーススタディでしかないので断言はできません。しかし、この結果を見てみると、50代だからといって「トレーニングを休んだら失った体力を取り戻せないのでは」などと怖がらなくてもいいし、もしかしたら定期的に長期のリセットをしたほうが良いのかもですな。

 

ということで、この研究から教訓を引き出すなら、

 

  • 全員が12週間の休止を試す必要はないが、計画的に休むことで身体と精神をリフレッシュできる可能性がある。例えば、年に1度、1週間から1カ月の休止期間を設けてみるのは良いかも。

 

って感じでしょうね。私も「休むこと」に対する恐れがある人間なので、これは定期的に導入してみるべきだろうか……。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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