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運動前の「息止め」でパフォーマンスが上がる?最新研究が示す意外な効果とは

 
 

運動のパフォーマンスを高めたきゃ「運動前に息を止めろ!」みたいな面白データ(R)が出ておりました。運動前と言えば、普通は深呼吸やウォームアップが重要だと言われるもんですが、実際には「息止め」が正解じゃないのかって話ですな。

 

これはアリストテレス大学などが行った研究で、「息を止めると人間は一時的に持久力が上がるのでは?」って仮説を検証したものです。このアイデアの背後には、私たちの体に備わる「哺乳類の潜水反射」という仕組みが隠されてますんで、まずはこの点を軽く説明しときましょう。

 

「哺乳類の潜水反射」ってのは、水中に顔を浸けたときに自動的に発動する生理的反応のこと。この反応は、酸素を節約し、溺れるリスクを最小化するための生物学的な仕組みとして進化してまして、具体的には、以下のような変化が体内で起こります。

 

  • 心拍数の低下:心臓がゆっくりと動き始め、酸素消費量を抑える。
  • 末梢血管の収縮:手足への血流が減少し、酸素が脳や心臓といった重要な臓器に優先的に送られるようになる。
  • 脾臓の収縮:脾臓は、通常、余剰の赤血球を蓄える役割を果たしているが、潜水時にはこれが収縮し、酸素運搬能力の高い赤血球を血流に送り出す。この効果により、血中ヘモグロビン量が一時的に増加し、酸素運搬能力が向上する。

 

この中でも、脾臓が収縮して放出される赤血球の量は相当なもので、研究によると、ヘモグロビンレベルや最大酸素摂取量(VO2max)が最大5%ほど向上する可能性があるとされてたりするんですよ。これはなかなか凄い数値でして、「自己血液ドーピング」と表現する研究者もいるほどだったりします。確かに5%ってのは結構な違いですね。

 

でもって、今回の研究では、「潜水反射」の可能性を探るため、17人の参加者を対象に以下のような実験を行ってます。

 

  1. 約10°Cの冷水に顔を浸けてもらいつつ、5回の最大息止めを実施。それぞれの息止めの間には、2分間の休憩を設けた。
  2. 息止め後にサイクリングテストを行い、疲労困憊するまでの持続時間を測定。
  3. テスト前後に採血を行い、ヘモグロビン量や赤血球数の変化を記録。

 

こんな感じで「息止め」でサイクリングのパフォーマンスが上がるかどうかを調べたわけですね。その結果、以下のような結果が得られたんだそうな。

 

  • 持久力の向上:息止め後のサイクリングテストでは、被験者の運動持続時間が平均で0.75%延びた。というと、たいした変化じゃないみたいなんだけど、この差は統計的に有意なので、アスリートほど重要になりそうっすね。
  • 血液の変化:ヘモグロビン濃度と赤血球数が4%増加し、脾臓がしっかりと収縮して赤血球を出しまくったことがわかる。
  • 乳酸値の低下:息止め後の乳酸値が15%低下しており、運動時の疲労感を軽減する可能性が示された。

 

ってことで、持久力が上がっただけではなく、疲れにくい体になった可能性もあるみたいっすね。事前に息を止めるだけで効果が出るなら、やってみても良さそうじゃないでしょうか。

 

では、なんで「息止め」だけで運動パフォーマンスが上がるのかって話ですが、だいたい3つの原因があるとされております。

 

  1. 脾臓の収縮による赤血球の増加:前述の通り、息止めを行うことで脾臓が収縮して赤血球が放出されるす。これにより、血液が運搬できる酸素の量が増加し、筋肉がより効率的に酸素を利用できるようになる。
  2. ボーア効果:息止めをすると、血中の二酸化炭素濃度が上昇する。これが「ボーア効果」を引き起こし、赤血球から筋肉への酸素の受け渡しがスムーズになり、持久力が向上する。
  3. 乳酸値の低下:運動中に生成される乳酸は、疲労感の主な原因の一つ。息止め後に乳酸値が低下することで、筋肉疲労の進行が遅れる可能性がある。

 

ここらへんのメカニズムをふまえた上で、実際に「息止め」を運動前に取り入れる場合の課題を考えてみると、だいたいこんな感じになるでしょう。

 

  • 息止めをやる方法:この研究では5回の息止めを行っているんだけど、現実的に運動の直前に同じことを行うのは難しいかも。ただし、データを見る限り、最初の1~2回の息止めで大きな効果が現れているとうなので、それぐらいでも十分な可能性があるんじゃないかと。

 

  • 冷水の使用:冷水に顔を浸けると反射が強く引き起こされるので、研究では冷水が使われております。ただ、これを日常のトレーニングや試合前に取り入れるのは現実的じゃないので、普通に息を止めることを考えれば良いかなーって感じ。

 

  • 具体的な実践のステップ:ここらへんを考えると、以下のような簡単なステップで「息止め」をすると良いかも。
    • 1.運動前に1~2回、できる範囲で息を止める。
    • 2.冷水が使えない場合は、深呼吸や顔を冷たいタオルで冷やすだけでも効果を試せる。
    • 3.息止めの長さは徐々に伸ばし、快適な範囲で行う。

 

こんな感じで、運動前に1〜2回だけ息を止めてみるってのは、シンプルでコストがかからないテクニックとしてよろしいんじゃないでしょうか。研究はまだ初期段階ではありますが、私もトレーニングの前に試してみようかなーとか思っております。どうぞよしなにー。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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