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今週の小ネタ:音楽で筋トレはかどりまくり、遺伝子で知能は予測できんでしょう、似ている人を好きになる心理の影響が凄すぎる


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 

音楽で筋トレがはかどりまくる

筋トレ中にお気に入りの音楽を聴くとやる気が出るって経験は誰にでもありましょう。この効果はただの錯覚ってわけではなく、実際に筋持久力を向上させることが科学的にも示されてたりします。近ごろチェックした研究(R)によると、音楽の効果は特に中程度の負荷(65~75%の1RM)のトレーニングに有効で、適切な音楽を選ぶことで1~2回ほど追加レップが可能になるだろうと言うんですな。

 

これは12人の男性を対象にした試験で、みんなに音楽を聞きながらスクワットやベンチプレスなどの基本種目をやってもらったんだそうな。その結果を踏まえると、おそらく音楽には以下のような効果が期待できそうであります。

 

  • 音楽を聞きながらトレーニングすると、筋トレのレップ数が1~2回ぐらい増える
  • トレーニングの負荷は1RMの65~75%ぐらいが適している
  • 特に、好きなジャンルの音楽やテンポの速い曲(120 bpm以上)を聴くと、その効果が顕著になる。

 

たとえば、いつも70%の負荷で10回ギリギリのトレーニングをこなせているような場合は、音楽を活用することで11~12回まで達成できるかもしれないわけっすね。筋トレ好きならおわかりの通り、このような小さな違いは、長期的な筋力・筋肥大の成果に繋がる可能性がありますんで、ここまでの効果があるならぜひ使っておきたいところです。

 

ちなみに、音楽によって筋持久力が上がるのは、音楽が心身の「覚醒レベル」を高めるからです。覚醒レベルが適切に上がることで集中力が増し、疲労を感じにくくなるため、より多くのトレーニングをこなせるようになるらしいんですな。

 

ただし、この効果は「最大筋力」(1RM)には影響しないっぽいところは注意してくださいませ。つまり、音楽は「全力で1回持ち上げる」よりも、「中程度の負荷で何回も繰り返す」トレーニングに向いているわけですね。

 

また、覚醒レベルとパフォーマンスの関係は「逆U字型」を描くようなので、こちらも注意したいところです。覚醒レベルが高すぎると、逆に集中力が散漫になり、フォームの崩れやミスにつながる可能性もあるらしいんですな。なので、普段から「落ち着いているタイプ」の人は、急にハイテンションな音楽を聴くと逆効果になることがありますんで、自分の性格やトレーニングスタイルに合った音楽を選ぶのがベストでしょう。どうぞよしなにー。

 

 

 

遺伝子で知能は予測できんでしょう

「知能は遺伝と環境、どちらが決めるのか?」という議論は、心理学や遺伝学の分野で長らく続いております。特に議論が活発なのは“知性”で、一部には「知能は遺伝で決まるから、ダメなやつはいくら勉強しても無駄!」みたいな意見もあったりするわけです。

 

が、「才能の地図」をお読みいただいた方ならおわかりの通り、個人的には遺伝の視点から知能をどうこう言うのには否定的だったりします。もちろん、遺伝は知能に影響するんだけど、その具体的な仕組みや予測精度は謎だらけだし、遺伝率を見たところで自分の知能は何もわからないしで、「私はどれぐらいの知能か?」「私はどれぐらい勉強すればいいのか?」って問題を考える役には立たないもんですから。

 

そんな中、最近発表されたメタ分析(R)は、知能と遺伝の関係を掘り下げてくれていて勉強になりました。

 

まず、今回の研究の中心となる「ポリジェニックスコア」について説明しときましょう。これは、遺伝子解析によって得られるDNAのバリエーションを集めて、特定の特性(今回は知能)への遺伝的な傾向を数値化したもの。たとえば、膨大な数の人々の遺伝情報とIQスコアを比較すると、「この遺伝子変異を持つ人は知能が高い傾向がある」みたいな関係を見つけやすくなるじゃないですか。これをもとに、各個人の遺伝的な「知能のスコア」を計算するわけですね。

 

ただ、このスコアってのは、教育の達成度や病気のリスクを予測する研究で活用されてきたんだけど、実際に「私たちの知能をどれぐらい予測できるの?」ってのはよくわかってなかったんですよ。

 

そこで今回の研究では、合計452,864人のデータを対象にメタ分析を行いまして、参加者は全員がヨーロッパ系の「WEIRD(西洋、教育を受けた、工業化された、豊かで民主的)」社会出身で、知能は標準化されたIQテストで測定されております。その結果がどうだったかと言いますと、

 

  • ポリジェニックスコアとIQスコアの相関係数は約0.25。これは、ポリジェニックスコアは知能の約6%を説明することを意味する

 

  • さらに、研究対象や方法によって、ポリジェニックスコアの予測精度は大きく異なる上に、このばらつきがなぜ起きるのかはよくわからない。

 

  • 言語を使った推論や理解(いわゆる「言語的知能」)では、ポリジェニックスコアの予測精度が高い傾向が見られた。一方、記憶力や一般知能に対する予測精度は低かった。

 

というわけで、この数値をどう考えるかは人それぞれだと思いますが、私としては思ったよりも家庭環境、教育、文化的要因が、知能の発達に大きく関わってそうだし、やっぱIQと遺伝を考えてもなぁ……って感じです。研究チームいわく、

 

遺伝的な知能予測が強い時と弱い時がある理由を説明できない限り、個人レベルでの知能の違いを理解するのにポリジェニックスコアを役立てることはできないだろう。

 

とのことで、遺伝の観点から個人レベルでの知能をどうこう言うことに難を指摘しておられました。まぁそうっすよね。

 

ということで、今回の研究は個人の特性を予測するツールとしては、遺伝はほぼ使えないことも示した感じじゃないでしょうか。ただし、ポリジェニックスコア自体には素晴らしい可能性があるよなーって感じでして、

 

  • 遺伝的に知能の発達が遅れがちな子どもを早期に特定し、適切なサポートを提供するのに役立つかも。
  • 遺伝的傾向と環境がどのように相互作用しているかを調べることで、知能を高める方法を発見できるかも。

 

といったあたりは期待が持てるとこじゃないでしょうか。遺伝と環境の関係が深く理解できれば、包括的な社会は築きやすくなるでしょうしねー。ってことで、個人レベルにおいては「遺伝で知能がどうこう」って話は横目で見つつ、日々の努力を積んでいただければと思う次第です。

 

 

 

似ている人を好きになる心理の影響が凄すぎる

人間は自分に似た人と仲良くなる!」ってのは、過去に何度も確認されてきた心理現象であります。共通の趣味があったり、価値観が似ていたりする人を見ると、私たちはぐっと親近感が湧きやすくなっちゃうようにできてるみたいなんですな。これは心理学の世界で「類似性-魅力理論」と呼ばれる法則で、簡単に言えば「似ているほど親密になりやすい」ってシンプルな考え方ですな。

 

ただし、これまでの研究は、主に個人間の関係に焦点を当てたものでして、グループ間(民族や宗教、政治的な立場とか)の違いがある場合に、この法則がどれくらい当てはまるのかは分かっていなかったんですよね。そこで新たにジョージタウン大学などのチームが行った研究(R)では、異なる集団の関係にも「似ているほど親密になる」って法則が働くのかってところを調査してくれていてナイスでした。

 

この研究では4つの実験が行われてまして、参加者の数は合計2,664人。それぞれの実験では、異なるグループ(例えば、民族や宗教、政治的な立場)の間での「類似性の認識」と「親密になりたい気持ち」の関係を調べてまして、主な結果は以下のようになりました。

 

  • 民族間の類似性:アメリカ国内の黒人、ヒスパニック、白人の3グループを対象に、「価値観」や「文化」など7つの指標で相手グループとの類似性を評価。その後、「友達になりたい」「隣人になりたい」といった親密さの度合いを測定してみたら、自分に似ていると感じるグループに対しては、より親密になりたいという意欲が高まっていた。

 

  • 「違いを祝う」vs「共通点を祝う」:次に、参加者を「グループ間の違いを強調する条件」「共通点を強調する条件」「何も強調しない条件」の3つに分け、類似性と親密さの関係を再調査。その結果、どの条件でも類似性が親密さを予測するという関係は変わらなかった。

 

  • 宗教間の類似性:今度はバプティスト、カトリック、プロテスタントの3つのキリスト教宗派を対象に調査。こちらでも、「自分たちに似ている」と感じる宗派に対しては、他の宗派よりも親近感を持ちやすいという結果が得られた。

 

  • 政治的立場間の類似性:リベラル派と保守派の参加者を対象に、相手陣営の価値観や目標の類似性を評価。ここでも、似ていると感じる相手にはより親密さを感じるという一貫したパターンが観察された。

 

ということで、個人だけでなくグループ間でも、「似た者同士は惹かれ合う!」って現象が確認されたわけですね。この結果をもとに、研究チームは「多様化する社会で共通点を見つけることは、グループ間の関係性を深める鍵になる」と指摘してまして、「とにかく類似性を確認できれば無駄な争いが止むのでは?」みたいな話になっておりました。これは本当にそうっすね。

 

もちろん、この研究にも限界がありまして、今回のデータはアメリカ国内に限られているので、他の文化圏でも同じ結果が得られるかどうかは不明。また、類似性が「好感」をもたらす一方で、「違い」に基づく偏見や排除のリスクも存在するので、そのへんのバランスは難しいっすね。

 

それでも、「類似性が大事!」ってのは人間の根本的な心理だと思いますんで、誰か初対面の人と会うような場面では「どんな共通点があるだろう?」という視点で会話を進めてみたり、グループで動く時は「似ている課題意識」や「共通の目標」を明確にしてみたりってあたりを心がけてみるのも良いのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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